第十八話 円環会合
収穫祭六日目。エウドクスの失踪の噂は一日にして祭りで高揚する王都に広まっていた。ヴァシーリオ学術大学で天文学の研究をしていた人間の失踪は様々な憶測を呼んだ。教団に消されたという者や研究成果を持って逃亡したという者、果ては女神テアディースの天罰だという者までいた。それらの噂は当然のごとく、教団にも広がっていた。
教団本部、最奥。ここには『円環の間』と呼ばれる正円の部屋がある。ここでは月に一度、教皇と枢機卿が集い会合をしていた。収穫祭六日目のこの日が、橙の月の会合日であった。
円形の部屋の中央に円卓があり、取り囲むように枢機卿が八人座っている。空席が二つ。部屋の奥には円卓を見下ろすように背面の高い椅子が置かれているが、ここも空席となっていた。
「それでは始めましょうか」と、枢機卿の一人が言った。
「まずは報告です。冬の祭典の準備は滞りなく進んでおります。既に王都外の教会にも手紙を送り、参加の意思確認を行っています。では、クディナル卿」
指名を受け、クディナルは立ち上がった。
「冬の祭典に向けた例の計画も問題なく、円環軍を動かして進めています。今、問題になっている王都地図の件ですがいまだ作成者の特定にはいたっていません」
「学術大学の教授が一人、失踪したそうだな。卿の仕業か?」と、一人の枢機卿がクディナルに聞いた。クディナルはその男を見て答えた。
「私ではありません。おそらく自身で物盗りの犯行に見せかけ失踪したと思われます」
「噂では天文学を専門に研究していたそうじゃないかそいつが地図を作った人間ではないのか?卿の調査がばれて逃げられたのだろう?」と、男の枢機卿が続ける。
「可能性は多いにあります。その男も調査対象でしたから。しかし今回は、その失踪を利用し、例の計画に取り入れます」
「どうするつもりだ?」
「奴の研究を捏造し、奴と天文学に異端認定を下します」
円卓がざわつく。クディナルの手段に賛同する声と過剰ではないかという声が入り混じる。クディナルはそのざわめきを、片手を挙げて鎮めた。
「奴には十年前に一度、異端の疑いがかかっています。証拠がなく取り押さえることはできませんでしたが。今回も証拠は残さなかったが、失踪したということはやましいことがあるということに違いない。奴が何を考えているのかは知らないが問題が起きる前に捕える必要があるのです。そして・・・」
クディナルは一度話を止め、円卓を見回した。他の枢機卿はクディナルを注視している。クディナルは最後にこう言った。
「エウドクス・ジョルダン。奴を例の計画のメインディッシュとするのです」




