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ルークルイリス物語  作者: 梅雨前線
王都地図作成編
2/66

プロローグ

 雨が強く降っている。動物達も眠る暁闇の時、森の中で一台の馬車が追手から逃れていた。馬の蹄が泥を撥ねる。木造の馬車は木の根の上を通る度大きく跳ね上がる。そのおよそ二百ミーコス(約二百メートル)後方から五つほどの篝火が追ってきていた。


「旦那様、これ以上は車体が持ちません!あと数刻もすれば追いつかれます!」

 馬車を操る御者の男が雨と馬車の走る音に負けじと、大きな声で叫ぶ。


「貴方、これ以上は」

「ああ、ここまでのようだ。すまないマクサス。馬車を止めてくれ」


 御者が手綱を強く引き、馬車が止まる。幌を打ちつける雨音が馬車内に鳴り響く。


「マクサス、君は逃げなさい。今ならまだ間に合う」

 マクサスはランタンの灯りを消して答えた。

「旦那様、私は最後まで貴方と奥様にご一緒させていただきますよ」

「すまないな、マクサス。最後まで迷惑を掛ける。・・・息子よ、お前は逃げるのだ」

「そんな!僕も最後までご一緒します!」

「いや、いけない。君は生き延びなければならないのだ。・・・ミテーラ、スヴィニムを」

「そんな!お父様!お母様!僕も・・・共に・・・・・・」

 女性が両手をかざし、穏やかな青い光が白髪の少年を包む。そして光が消えると同時に、彼は虚ろとなった。

「逃げなさい、遥か遠くへ。そして頼れる人を探しなさい」

 ミテーラは少年に語り掛ける。その口調は慈愛に満ちていた。少年はミテーラの言葉を聞き終えると、ゆっくりと無言で森の奥へと消えて行った。

「・・・どうかイリスの血を守ってくれ」

「ごめんなさい坊や・・・。あなたの幸福を祈っているわ」



「どこへ消えた」

「灯りは確かにこの辺りで消えました。探索します」


 すぐ近くから追手の声が聞こえる。


「ミテーラ、最後まで君と共にいることができてよかった」

「私もですよ。テラス、愛しています」


 いくつものランタンの灯りが三人を煌々と照らす。馬に乗った男たちが藪から次々と現れた。


「発見しました!」

「ふむ、確かに白髪の人間だ。情報通りだな」


 馬に乗った男たちは全員黒い外套を羽織っている。フードを目深に被り、顔を伺うことはできない。外套の隙間からは剣の柄頭が覗いている。


「君たちは何者だ」


 テラスの問いに、指揮官らしき男が答えた。

「我々は女神テアディースの名のもとにこの世界の秩序と信仰を守る者。お前たちのような異教徒を排除することが仕事だ」


「・・・テアディース教団か、我々をどうする気だ」


「お前たちイリスの民はこのバセレシウの地を踏むことは許されない。ここで消えてもらおう」

 指揮官の男が右手を挙げる。同時に周りの男たちは剣を抜いた。刀身が鞘を擦る音が響く。


「最後に何か、言い残すことはあるかな」


「・・・お前たちがいくら世界を創り変えようとも、本当の世界は存在し続ける。いつか世界から報いを受けることになるぞ」


「・・・やれ」

 剣が三人を貫く。血が飛び、草を赤く染める。雨とともに地面に広がっていく。指揮官らしき男は動かなくなった三人をしばらくじっと見つめ、そして手綱を握った。


「油をかけて燃やしておけ。撤収する」


 森が赤く染まる。雨は激しさを増していた。

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