第8話 ルイスのスイーツが食べてみたい
「よーし、試作開始よ!」
私は気合を入れてカウンターをポンッと叩いた。
目の前には、食材の入った袋と、ルイスの冷静な視線。
今回は砂糖や小麦粉、バターといった基本的な材料はお店にあるものを使うけど、商人ギルドの会頭・ラウダの協力で、食材の仕入れルートも確保できたのは幸先がいい。
「お前がやる気なのはいいが……本当に手伝う気はあるのか?」
「もちろん! 私は味見担当として、全力で貢献するわ!」
「……つまり、作業は俺がやるってことか」
「ルイスの料理スキルを最大限に活かすのが、最善策でしょ?」
私は満面の笑みで返す。
ルイスは呆れたようにため息をついた。
「……まったく、お前は本当に図々しいな」
そう言いながらも、彼は下準備を始めていた。
カフェの厨房に入るのは初めてだったけど、魔導コンロや調理器具の配置は意外と整理されていた。
ルイスは慣れた手つきでナッツを荒くみじん切りにし、魔導コンロで炒る。
私はカウンターに座り、彼の動きをじっと見つめる。
「……ルイスって、本当に料理が上手なのね」
「カフェの仕事だからな。最低限はできる」
そう言いながら、彼は小麦粉と砂糖を計量し、丁寧に卵と混ぜ始める。
その動きはまるで職人のようで、無駄がなく、見ているだけで惚れ惚れするほどだった。
(……この人、本当に手先が器用なのね)
私が感心していると、ふとルイスが手を止め、じっとこちらを見る。
「……何を見てる?」
「えっ?」
「妙に静かだと思ったら、ずっと俺を見てただろ」
鋭い指摘に、一瞬息が詰まる。
「そ、それは……ルイスの作業が職人みたいで、かっこいいなって思って……」
思わず口に出した瞬間、ルイスの手がピタッと止まった。
(……あれ? 今、なんか言っちゃった?)
彼は少し目を伏せて、珍しく言葉に詰まっている。
そして、ほんのわずかに顔をそらした。
「……そうか」
その一言だけ。でも、なんとなく耳の先が赤くなっているように見える。
(あれ? これってもしかして……照れてる?)
普段は無表情でクールなルイスが、私の言葉で一瞬でも動揺するなんて。
(……なんか、ちょっと可愛いかも)
「で、何を作ってるの?」
私は誤魔化すように話題を変える。
ルイスは少し間を置いて、静かに答えた。
「……ビスコッティだ」
「ビスコッティ?」
「小麦粉、砂糖、バター、ナッツを混ぜて焼く。コーヒーに浸して食べる焼き菓子だ」
(あっ、それ知ってる!)
日本でも、カフェとかで見かけるやつだ!
「それ、絶対にルイスのコーヒーと合うじゃない!」
「ああ。だから昔、一度試作したんだが……」
ルイスはわずかに眉をひそめる。
「……この店の客には、あまりウケなかった」
「えっ、なんで?」
「甘さが控えめだからな。この街の客は、もっとわかりやすい甘いものを好む」
(なるほど……)
確かに、甘さ控えめのビスコッティは、大人向けの味かもしれない。
「だったら、ちょっとアレンジすればいいんじゃない?」
私は思いついたように言う。
「例えば、チョコレートを加えて、もっと甘くするとか!」
「チョコレート……?」
「そう! それなら万人受けするし、話題性もあるわ!」
私は自信満々に胸を張る。
「『黒猫亭特製! ほんのりビターなチョコビスコッティ』なんて名前にしたら、おしゃれじゃない?」
ルイスは少し考え込むように腕を組んだ。
(あれ? その態度……もしかして……)
この世界ってチョコレートがものすごく高価とか……?
そういえばチョコレートは昔、薬として食べられてたって聞いたことある!
「あ、やっぱり、チョコレートは……」
と言いかかったところで――
「……悪くないな」
「でしょ!?」
私はニッと笑い、ルイスの肩をポンッと叩く。
(よかったぁ、内心焦りまくりでしたよ……)
と、気を取り直して……
「よーし! それじゃあ、試作第一号を作るわよ!」
「……それでも、お前は手伝わないのか」
「もちろん、味見は全力でやるから!」
ルイスは深いため息をついた。
「……まぁ、いい」
ルイスが再び作業を始める。
生地をまとめ、ナッツとチョコレートを加えて混ぜ合わせ、魔導オーブンでじっくり焼き上げる。
焼き始めると、甘く香ばしい香りが店内にふんわりと広がった。
「うわぁ、すごくいい香り……!」
「……まずは一回目の焼成だ」
ルイスはオーブンの火を調整しながら、静かに言った。
私は待ちきれずにオーブンの前にしゃがみこみ、じっと焼き色のついていくビスコッティを眺める。
その横で、ルイスが小さく笑った。
「……お前、本当に食べるのが好きなんだな」
「えへへ、だって美味しいものを食べるのって幸せでしょ?」
「……そうだな」
彼の言葉が、なぜか優しく響いた。
ほどよく焼けたひとかたまりのビスコッティを細切りにし、天板に並べもう一度焼く。
そして、ついにビスコッティが焼き上がる。
オーブンから取り出すと、ほのかにチョコレートの甘い香りが漂い、カリッとした見た目が食欲をそそる。
「おおぉ……! これは絶対美味しいやつ!」
私は思わずよだれが出そうになるのをこらえた。
ルイスはビスコッティを冷ましながら、コーヒーを淹れる。
そして待ちに待った(対して時間は経ってないけど)試食の時間。
「いただきますっ! ……っ!」
一口食べた瞬間、ザクッとした食感が心地よく、チョコの甘さとナッツの香ばしさが口いっぱいに広がる。
コーヒーをひと口含むと、ほろ苦さが甘さを引き立て、絶妙なバランスになった。
「……ルイス、これ、めっちゃ美味しい!!」
「……そうか」
ルイスは短く返すけど、その顔はどこか誇らしげだった。
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