第7話 新メニューはなにがいい?
「よーし! 頑張るぞ!」
私は朝食を食べ終えた勢いのまま、カウンターに手をついた。
ルイスが目の前でコーヒーをゆっくりと回しながら、じろりとこちらを見る。
「……お前、朝から元気すぎるだろ」
「そりゃそうよ! ここからが本番なんだから!」
私のテンションに対して、ルイスは静かにため息をつき、腕を組んだまま私をじっと見つめた。
「で、まずは何を作る?」
「うーん、やっぱりコーヒーに合うスイーツがいいわね!」
「軽食じゃないのか……」
「だってルイスが作る甘いものも食べてみたいし」
「まあ、菓子パンなら前に出していたが、あまり売れなかったな」
「それはマーケティング戦略をやってなかったからでしょ!」
「……またそれか」
ルイスは眉をひそめながらも、私の言葉を否定はしなかった。
私は笑ってテーブルをポンポンと叩く。
「話題になれば、自然とお客さんは増えるの! だから、『黒猫亭でしか食べられない特別なスイーツ』を作るわよ!」
「……簡単に言うな」
「ルイスならできるって!」
「………………」
ルイスはしばらく黙ったあと、ふっと小さく笑った。
「……お前、自分が料理するつもりはないんだな」
「そりゃそうよ! 私、料理は食べる専門だもん!」
「……ったく」
ルイスは呆れたように肩をすくめる。
だけど、その表情はどこか楽しそうだった。
そんなやりとりをしていると、店のドアが「カランカラン♪」と可愛らしい音を立てて開いた。
私はハッとして顔を上げる。
(あ、お客さんが来た!)
「おい、ルイス! コーヒー、いつものやつ頼むぜ!」
店に入ってきたのは、がっしりした体格の男性だった。
年齢は30代半ばくらい? 目つきは鋭いけれど、どこか人懐っこい雰囲気もある。
「おお、ラウダか」
ルイスが軽く顎を動かして、カウンター席を指さす。
やり取りからして常連さんなんだろう。ちょっとだけ観察させてもらう。
上質な赤い革のジャケット、丁寧に磨かれたブーツ。そして、胸元には何やら紋章のついたバッジが――。
(何のバッジだろう?)
私がじっと見つめていると、その視線に気づいたのか、男がこちらを見た。
「ん? あんた、新顔か?」
「あっ、えっと……藤崎輝夜です! このお店の経営をお手伝いすることになりました!」
私が自己紹介すると、彼は「へぇ」と言いながらニヤリと笑う。
「俺はラウダ・リンドバーグ。商人ギルドの会頭をやってるもんだ」
「商人ギルド……?」
私は首を傾げた。
転生したとき、異世界の知識はある程度身についたぽかったけど、まだこの世界の組織についてはよくわかっていない。
「お嬢ちゃん、ギルドを知らねぇのか?」
「え、えっと……あまり詳しくなくて……」
「簡単に言やぁ、商人たちをまとめる組織だな。街で商売する以上、ギルドと関わらないってのは難しいぜ」
(なるほど……商業を管理する団体みたいなものね)
異世界の経済システムはまだよくわからないけど、商人ギルドが重要な存在なのは間違いなさそう。
ラウダはぐいっと椅子を引いて腰を下ろし、カウンターに肘をついた。
「それで、経営の手伝いをするって言ったな?」
「はい!」
「具体的に、何をするんだ?」
「まずは新メニューの開発です!」
私は勢いよく答えた。
「このお店を『商人や職人のための憩いの場』として、もっと人が集まるようにしたいんです!」
「へぇ、そりゃ面白い!」
ラウダは満足そうに頷いた。
「で、どんな新メニューを作るんだ?」
「まだ決まってません! でも、コーヒーに合うスイーツを作ろうと思ってます!」
「スイーツか……」
ラウダが顎に手を当てる。
「それなら、商人ギルドの連中も興味を持つかもしれないな」
「え?」
「最近、商人たちの間で甘いものが流行ってるんだよ。疲れを取るのにちょうどいいってな」
(それは……いい情報かも!)
「それなら、ますますスイーツメニューが必要ね!」
私はルイスの方を向く。
「ルイス! 何かアイデアある?」
ルイスは少し考え込んだ後、静かに言った。
「……昔、作ったことがある。コーヒーに合う焼き菓子だ」
「えっ! それ試したい!!」
「だが、商品として出すなら材料の仕入れが必要だ」
「なら、俺が協力してやるよ!」
ラウダが胸を叩いてニッと笑う。
「うちのギルドなら、食材の仕入れルートを持ってる。協力してやろう!」
「本当ですか!?」
「その代わり、試作品ができたら俺にも食わせろよ?」
ラウダはニヤリと笑い、ルイスの方を見た。
「なぁ、ルイス?」
「……それで頼む」
ルイスは静かにコーヒーを差し出しながら、ほんのわずかにため息をついた。
こうして、カフェ改革の第一歩となる新メニュー開発が本格的に始動することになった。
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