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第4話 異世界生活、どこで寝る?

 気づけば、私はめちゃくちゃ喋りまくっていた。


 異世界転生して、カフェの経営を立て直すことになって、ターゲット層を決めて、コンセプトまで考えて……。


(……あれ、まだ私こっちに来てから、コーヒーしか飲んでなくない?)


 転生したばかりで、頭も体も疲れているはずなのに、勢いだけで突っ走ってた。

 空腹感とどっと押し寄せる眠気が、今さらながら私を襲う。


「……ふぁ」


 つい、大きなあくびが漏れてしまった。

 すると、目の前でルイスが腕を組みながら、じっと私を見ていた。


「……お前、眠たいのか?」

「違うわよ! ただ、ちょっと疲れてるだけ……」


 私は慌てて姿勢を正す。でも、転生直後で全力で考え続けたせいか、体がずっしりと重い。


 (というか、昨日からまともに食べてないし、ちゃんと寝てもいないんじゃ……?)


「カグヤ」

「な、なに?」

「お前、今日どこに泊まるんだ?」

「……え?」


 考えてみれば、私はこの異世界に完全に一人だった。

 元の世界の家はもちろんないし、お金も持っていない。

 でも、カフェ経営の話で盛り上がっていて、そんな当たり前のことをすっかり忘れていた。


「……私、寝る場所ないじゃん」


 思わず、口に出してしまった。


「気づくの遅いな」


 ルイスは呆れ顔でため息をつく。


「そもそもお前、どこから来たんだ?」

「えっと、それは……」


 異世界転生の話をしても信じてもらえないだろうし、無理に説明しても混乱を招くだけな気がする。


「その……目が覚めたら、ここにいたっていうか……」

「……記憶喪失か?」

「ち、違う! でも、帰る場所はないのは確か!」


 ルイスはしばらく黙ったあと、静かにカップを置きながら口を開いた。


「……仕方ないな」

「え?」

「しばらく、ここに住め」

「えっ!? いいの?」

「カフェの立て直しを手伝ってもらうんだ。その間の寝床くらいは用意する」


 ルイスはそう言って、店の奥を指差した。


「店の二階が俺の部屋だ。だが、使ってない小部屋がある。そこをお前の部屋にすればいい」

「本当に!? ありがとう、ルイス!」


 思わず勢いよく立ち上がったけど、次の瞬間――


 グゥ~~……


 静かな店内に、私のお腹の音が響いた。

 ルイスがピタッと動きを止め、私をじっと見る。


「……お前、腹が減ったのか?」

「……えっと……はい」


 恥ずかしさで顔が熱くなる。

 でもルイスは呆れた顔をしたあと、すっと立ち上がった。


「待ってろ」


 そう言って、カウンターの向こうで何かを準備し始めた。


 数分後、ルイスが大きなパンとスープの乗ったトレーを私の前に置いた。


「適当に作ったが、食え」

「……え、いいの?」

「今はこんなものしかない……」


 目の前のパンは、外はカリッとしていて、中はふんわりと膨らんでいる。スープからは香ばしいハーブのいい香りがする。


(めっちゃ美味しそう……!)


 お腹が限界を迎えていた私は、遠慮なくパンを手に取ると、豪快にかぶりついた。


「……っ!! おいしっ!」


 口の中にほんのり甘くてバターの香る生地の風味が広がる。スープを飲めば、温かい出汁の味がじんわりと体に染み込んでいく。具には肉も野菜も入っていてお腹を満たしてくれる。


「ルイス、料理もできるんだ……!」

「まあな。店をやってる以上、ある程度はな」


 ルイスは素っ気なく言ったけど、パンもスープも本当に美味しい。


「これ、普通にメニューにできるレベルじゃない?」

「コーヒーを飲みに来る客ばかりだからな。食い物を出しても、そんなに需要はない」

「うーん……でも、コーヒーと軽食をセットにしたら、もっとお客さん増えるかもよ?」

「……考えておく」


 ルイスはそう言ったけど、どこか考え込んでいるようだった。


 私は美味しいスープを飲みながら、ふと思う。

 この店には、まだまだ可能性がある。


 そして――


 目の前のルイスという人も、まだ私が知らない一面がたくさんあるのかもしれない。


「……ありがとね、ルイス」

「ん?」

「ご飯も、寝る場所も。本当に助かる」


 ルイスは少しだけ驚いたような顔をしたあと、小さく笑った。


「……店をちゃんと立て直してくれればいい」

「ふふ、そうね!」


 私はスープを飲み干し、お腹と心が満たされた。

読んでいただきありがとうございます!


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