第3話 第一歩は見た目から!? ハロー効果を利用しよう!
「よーし! まずは店の雰囲気をガラッと変えましょう!」
私は勢いよく立ち上がった。
机に手をついて意気込んだ瞬間――「ガタンッ!」と、勢い余って椅子がひっくり返る。
「お、おい……」
ルイスが呆れ顔でため息をついた。
「張り切るのはいいが、店を壊すなよ」
「ちょっと張り切り過ぎただけ!」
言い訳しながら椅子を直す。でも、本当に今の私はやる気に満ち溢れている。だって、このカフェ、絶対に伸びしろがある!
店内を見回すと、古びた木造の家具、薄暗いランプ、殺風景なカウンター……雰囲気自体は悪くない。でも、これじゃ地味すぎるし、なんだか寂しい。
「もうひとつの戦略として、ハロー効果を使うわよ!」
「……ハロー?」
ルイスが眉をひそめる。
「要するに、『第一印象でお店の価値を上げる』ってこと!」
私は自信たっぷりに言いながら、壁を指差した。
「人ってね、見た目がいいと『この店は商品もすごい!』って錯覚するのよ! 逆に、雰囲気が微妙だと、どんなに良いものでも評価されにくいの」
※ハロー効果は、ある対象を評価するとき、一部の印象に引きずられて、全体の評価もしてしまう効果のこと。
ルイスは腕を組んで考え込む。
「……それで、具体的に何をするんだ?」
「そうね。まずは、照明をもう少し明るくして――」
「待ってくれ」
ルイスが手を挙げて私を制した。
「貴族向けの話をしていたときから思っていたんだが……それは本当に、俺がやりたい店か?」
「……え?」
ルイスはカウンターにもたれかかり、じっと私を見た。
「確かに、売上を上げたいとは思ってる。だが……この店は、ただ儲けるためにやってるわけじゃない」
ルイスの低い声が、店内に響く。
「俺は、『本当に美味いコーヒー』を飲める店を作りたかった」
私はハッとした。
今まで、どうやって売るかばかり考えていて、ルイスがこの店をどうしたいかを全然聞いていなかった。
「ルイス……」
「適当に高級感を演出して、貴族に媚びるような店にするのは嫌だ」
彼は静かに言う。
「この店に来る客には、ゆっくりと、落ち着いてコーヒーを味わってほしいんだ」
(……あ、そうか)
私は胸の奥が苦しくなった。
ルイスは無愛想だけど、コーヒーに対しては本当に誠実なんだ。きっと、私が思っている以上にこの店を大事にしているんだろう。
(そうだよね、私だけ突っ走ってた。失敗失敗……)
私は一度深呼吸してから、ルイスをまっすぐ見つめた。
「分かった。じゃあ、雰囲気を変えるにしても、ルイスの理想を大事にしながら考えましょう」
「……助かる」
ルイスはわずかに口元を緩めた。
……あれ? ちょっと笑った?
普段の無愛想な表情から一転、ふっと柔らかくなるその顔に、思わずドキッとする。
(や、やばい。なんか、やっぱりかっこいいかも……!)
私は慌てて視線を逸らし、話を続けることにした。
「さて、それじゃあまずは店の立地とターゲットを考えないとね!」
私は店の入り口まで行き、外の通りを観察する。
店の前は、石畳の大通り。周囲には小さな商店がいくつか並んでいる。でも、向かいの通りを見て驚いた。
「ちょっと待って、あの通り……ちょっと華やかじゃない?」
「……ああ。この通りは平民が行き来する道。貴族は向こう側のメインストリートしか使わない」
私は目を細める。
なるほど、この店は商人や職人が利用するエリアにあるんだ。
「つまり、貴族相手の商売よりも、この近くの商人や職人をターゲットにしたほうがいいってことね!」
「……そういうことになるな」
私はポンと手を叩いた。
「じゃあ、コンセプト変更よ! 『商人と職人のための、仕事の合間にゆったりできるカフェ』にする!」
ルイスが少し目を丸くする。
「貴族向けじゃなくていいのか?」
「そりゃ、貴族向けにすれば単価は上がるけど……この立地じゃ、そもそもお客さんが来ないでしょ?」
ルイスはしばらく考え込んでから、静かに頷いた。
「確かに、そのほうが現実的かもしれないな」
「でしょ? だから、ターゲット層に合った店作りをしなきゃ!」
私はすでに、頭の中でアイデアがいくつも浮かんでいた。
「まずは店の雰囲気をもう少し明るくして、『職人や商人がホッとできる空間』にする! それならルイスの希望にも添ってるでしょ?」
「……なるほど」
「メニューも、長時間仕事をする人向けに、ちょっとした軽食とか追加しよう!」
「軽食……?」
「そう! 例えば、コーヒーと相性のいいパンとか!」
ルイスはじっと私を見つめる。
「お前、本当に商人じゃないのか?」
「ち、違うわよ。ただ、ネット……本で得た知識を活用してるだけ!」
私が慌てて否定すると、ルイスは小さく笑った。
「……ふっ」
「な、なによ!」
「いや、お前が本気で考えてるのが伝わってくるからな」
なんだかバカにされた気がして、ちょっとむっとする。でも、ルイスの表情はどこか柔らかかった。
私は咳払いして、無理やり話を戻すことにした。
「と、とにかく! この店のコンセプトは決まったわ!」
こうして、私たちは商人と職人のためのカフェ改革をスタートさせた――!
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