第12話 パニーニ旋風!? 黒猫亭に訪れる新たな波乱!
ドアが「カランカラン♪」と音を立てるたび、私は心の中でガッツポーズをしていた。
新メニューの鴨の燻製肉とチーズのパニーニが登場してから、店の人気はさらに上昇。
商人ギルドのラウダが「ここのパニーニは絶品だ!」とギルド内で広めたおかげで、連日たくさんの商人や職人が訪れるようになった。
「すみません! 例のパニーニ、今日もお願いします!」
「はい! すぐにお持ちしますね!」
私は笑顔で注文を受けながら、店内をぐるりと見渡す。
以前よりも確実に客層が広がっている。
コーヒーだけを楽しみに来る人だけでなく、お昼ご飯としてパニーニを目当てに来るお客さんも増えていた。
(よし、このまま順調にいけば、黒猫亭はもっと繁盛する!)
私は厨房の方を振り向く。
「ルイス、パニーニ追加できる?」
「今、焼いている」
ルイスは淡々と答えながら、鉄板の上でカリカリに焼き上げたパニーニを手際よく切り分ける。
ジュワッとチーズがとろける様子を見て、お腹が鳴りそうになる。
(ルイス、本当に料理が上手よね……)
思わず見惚れてしまったけれど、今はそんなことを考えている場合じゃない!
「カグヤ、追加のコーヒーを頼む」
「はーい!」
私はサッと注文を確認し、カップにコーヒーを注ぐ。
ちょうどそのとき――
「すみません!」
カウンターに座っていたお客さんが声をかけてきた。
「このパニーニ、めちゃくちゃ美味しいですね!」
「ありがとうございます!」
「実は今日、同僚に勧められて初めて来たんですけど、噂通りどころか、それ以上でした!」
嬉しそうに笑うお客さんの姿を見て、私は胸がいっぱいになる。
(……黒猫亭が、ちゃんとみんなに愛されるお店になってきてる!)
「おい、カグヤ」
ルイスの静かな声が聞こえた。
「ん?」
「……少し、外の様子を見てきてくれ」
「え?」
私は不思議に思いながらも、店の外へと出る。
「えっ……なに、これ?」
店の外には、黒猫亭の前で並ぶお客さんたちの列ができていた。
パニーニの香ばしい匂いが漂い、それに引き寄せられた人々が次々と入店しようとしている。
(す、すごい……!)
私は驚きながらも、満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ、大成功ね!」
「おいおい、ずいぶんと繁盛してるじゃねぇか!」
振り向くと、ラウダがニヤリと笑って立っていた。
「おかげさまで! ラウダさんが宣伝してくれたおかげよ!」
「ははは! 美味いもんは、広める価値があるからな!」
ラウダはそう言いながら、黒猫亭の賑わいを眺めていた。
しかし――。
「……ん?」
私はふと、並んでいる人々の中に妙な視線を感じた。
こちらをじっと見つめる、白を基調とした上品なスーツ姿の男性。
鋭い目つきと、整った顔立ち。
そして、胸元には見慣れない紋章のついたバッジが光っていた。
(……誰だろう?)
ただの通りがかりの客にしては、明らかにこちらを観察している。
私は店内に戻り、小声でルイスに話しかける。
「ルイス、ちょっといい?」
「……なんだ?」
「外に、ちょっと気になる人がいるのよ」
私はそっと外の男性を指さす。
ルイスは一瞥すると、すぐに表情を険しくした。
「……あいつは」
「知ってるの?」
「ああ……『シュヴァン・テラス』の関係者だ」
「シュヴァン・テラス?」
「この街で長年営業している、貴族向けの高級カフェだ。貴族相手の商売がメインだったが、最近は平民向けのメニューも出していると聞く」
私はハッとする。
(もしかして……黒猫亭の人気が上がったから、偵察に来た!?)
その時――
「そこの店主さん、少しお話をよろしいでしょうか?」
スーツ姿の男性が、静かに黒猫亭へと足を踏み入れていた。
「あなたは……?」
私が尋ねると、男性はスッと胸を張り、落ち着いた口調で名乗った。
「リヒト・フォン・バルツァー。シュヴァン・テラスの支配人を務めております」
(やっぱり……!)
彼の鋭い視線が、店内をじっくりと観察している。
そして、カウンターに立つルイスへと視線を向けた。
「店主さん……いえ、ルイスさん」
「……なんだ」
「率直に申し上げましょう。我々、シュヴァン・テラスは黒猫亭の急成長を興味深く拝見しています」
「……だから、わざわざ偵察に?」
「偵察などというつもりはありません。ただ、あなた方の急成長が商売に影響を及ぼしているのは事実です」
その言葉に、私は思わず息を呑む。
(つまり……黒猫亭の影響で、シュヴァン・テラスの客が減り始めているってこと!?)
リヒトは冷静な口調で続けた。
「ですので、一つ提案がございます」
「……提案?」
「黒猫亭の『鴨の燻製肉とチーズのパニーニ』、我々の店でも提供しませんか?」
「……は?」
私は思わずルイスの方を振り向く。
(ちょっと待って……つまり、これは同じパニーニをシュヴァン・テラスでも販売させろってこと!?)
店内に緊張が走る。
そして――ルイスの瞳が、わずかに鋭く光った。
「悪いが、その提案には乗れない」
「……ほう?」
「そもそもパニーニは俺のオリジナルというわけでもない。好きにしたらいい」
リヒトの口元が、わずかに笑みを浮かべた。
「わかりました。ルイスさん、あなたは思っていた以上に出来る人のようだ」
「そうか……」
「要件は済みました。では、私はこれで……。お邪魔いたしました」
私は一抹の不安を抱えつつ、満足そうに去っていくリヒトの背中を眺めていた。
でも……ルイスの言い返す姿はカッコよかった。
(ルイスがいれば大丈夫だよね……!)
黒猫亭とシュヴァン・テラス――カフェの戦いが、今始まろうとしていた。
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