第10話 黒猫亭、お客さんが増えてきた!
ドアが「カランカラン♪」と心地よい音を立てる。
新メニューのチョコビスコッティが話題になり、少しずつお客さんが増えてきている。
店内にはコーヒーの香ばしい香りと、ほんのり甘い焼き菓子の香りが混じり合い、少しではあるが活気が生まれていた。
「すみません、噂のビスコッティをいただけますか?」
「はい! コーヒーと一緒にどうぞ!」
私は笑顔で注文を受けながら、店内を眺める。
(うん、いい感じ! ちゃんとお店が活気づいてきた!)
しかし――
「ルイス、追加分できた?」
「今、焼いてる」
カウンターの向こうで、ルイスが淡々と作業を続けていた。
袖をまくった腕からのぞく筋張った手が、焼きたてのビスコッティを素早くトレイに並べていく。
(……やっぱり、手際がいいなぁ)
静かな横顔、職人のような無駄のない所作。
それに、なんだかいつもより集中している気がする。
「……ルイス?」
声をかけると、彼がちらりとこちらを見た。
「どうした?」
「なんか、すごく真剣な顔してるから」
「……客が増えたからな」
ルイスはコーヒーを淹れながら、ぼそりと呟く。
「……予想より早い」
「え?」
「新メニューが出たばかりなのに、もう常連になりそうな客が何人かいる」
そう言われて店内を見渡すと、確かに昨日も見かけたお客さんがいる。
(もうリピーターがついたってこと!? すごい!)
私は思わず笑顔になる。
「やっぱり、作戦は大成功ね!」
「おい、カグヤ」
「なに?」
「……お前、手伝う気はないのか」
「え?」
「お前が仕掛けたことで客が増えたんだぞ? なら、それ相応に動け」
ルイスが冷静に言う。
(……うっ、それはそうかも)
私は手元の注文票を確認し、意を決して立ち上がる。
「よーし、私も頑張るぞ!」
そして、カウンターの内側に入ると――
「あっ、うわっ!」
盛大に足を引っかけ、バランスを崩す。
転びそうになったその瞬間、ぐいっと腕を引かれた。
「おい、危ない」
気づけば、ルイスの腕の中。
彼の腕の中は、驚くほどしっかりしていて、ほんのり温かかった。
「お前、本当に大丈夫か?」
ルイスが至近距離でじっと私を見つめる。
(ち、近い!!)
私の心臓が一気に跳ね上がる。
「だ、大丈夫、大丈夫だから! ちょっと慣れてないだけ!」
「……本当に信用していいのか」
「も、もちろん!」
私は慌てて身を引く。
すると、ルイスがふっとため息をついた。
「……少しずつでいいから、覚えろ」
「うん……!」
その後、私はカウンター内の仕事を少しずつ手伝いながら、お客さんに声をかけるようにした。
「ご注文は、チョコビスコッティとコーヒーでよろしいですか?」
「はい! あと、今日のおすすめのコーヒーってありますか?」
「おすすめですか? ルイス、今日のおすすめは?」
「エルダの深煎りだ」
「だそうです!」
「じゃあ、それでお願いします!」
会話を交わすたび、お客さんとの距離が少しずつ縮まっていくのを感じる。
(いい感じ……! ただのカフェじゃなくて、居心地のいい場所として認識してもらえるようにしないとね!)
店が落ち着いた頃、ドアがまた「カランカラン♪」と鳴った。
「よぉ、ルイス! なんか黒猫亭に急に人が入るようになったって聞いたぞ?」
現れたのは、ラウダ・リンドバーグだった。
「あ、ラウダさん! いらっしゃい!」
私は笑顔で迎える。
「へぇ……店の雰囲気が前より明るくなったな」
ラウダは店内を見渡しながら、感心したように頷いた。
「これも私のマーケティング戦略のおかげね!」
「へぇ、さすがだな!」
ラウダはニヤッと笑いながら、カウンター席に座る。
「で、今日は何を頼む?」
「もちろん、新メニューのチョコビスコッティとコーヒーだ!」
「ルイス、お願いします!」
私はルイスに合図を送り、彼は無言でうなずくと、コーヒーの準備を始める。
ラウダはビスコッティをかじり、コーヒーをひと口飲むと、満足そうに頷いた。
「……うん、いいじゃねぇか!」
「でしょ!?」
「これなら、商人ギルドの連中にも広められそうだな」
その言葉に、私はピンと閃く。
(商人ギルドに広まれば、一気に評判が上がる……!)
「じゃあ、ラウダさんに黒猫亭のアンバサダーになってもらおうかしら!」
「アンバサダー?」
「つまり、お店の顔として、宣伝活動をしてもらうの!」
「なるほどな、面白ぇ!」
ラウダは笑いながらコーヒーを飲み干した。
「いいぜ! そっちも俺の名前を使っていい! その代わり、試作品は俺にも食わせろよ?」
「もちろん! アンバサダーには報酬を出さないと!」
「おい、ちょっと待て」
ルイスからストップがかかる。
「そういうことは店主の俺を通せ」
「そうですよねぇ……」
また私だけ突っ走ってしまった……。
「……まあ、なんだ、ラウダ。俺からも頼む、アンバサダーってやつ」
照れているのか言葉に詰まりながらお願いしている。
「はっ、任せときな!」
ラウダはニカッとルイスと握手を交わした。
こうして、黒猫亭の新メニューは商人ギルドを通じて、一気に街に広まることになった――。
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