2. エトナ
俺、御津羽は、オトラント王国の忍者の家系の末裔として生まれた。
だが、任務に失敗し、家を追放されてしまった。
俺は今、隣国ドーベラ帝国の首都マーチボルンを目指している。
俺は森の中の街道を歩いていた。腰に刀を差して、少しのお金だけ持っている。
街道といっても、狭い道で、周りには誰もいなかった。
ドーベラ帝国は、オトラント王国の北にある。そして、首都マーチボルンは帝国の南側にあるので、歩いて行ける距離だった。
ちょうど今、俺は国境を超えたあたりだ。国境といっても、何か税関のようなものがあるわけではなく、ただ標識があるだけだった。日は西に傾きかけている。
* * * * * *
「……誰か…たすけて……」
俺が街道を歩いていると、遠くから女性の悲鳴のようなものが聞こえてきた。俺は忍者だから、耳の訓練もした。その結果、数キロ先のわずかな音も聞こえるのだ。
俺は悲鳴がした方向へと走った。
すると、若い女の子がモンスターに襲われていた。
女の子を襲っているモンスターは、ゴブリン。Fランクモンスターだ。
俺は高速でゴブリンに近づき、ゴブリンが俺に気づいた時には、俺は既にゴブリンの首を刀で刎ねていた。
俺は倒れている女の子に近づき、声をかけた。
「モンスターは、今倒しました。もう大丈夫ですよ。」
「…あ…ありがとう……ございます……」
女の子をよく見ると、腕から大量に血を流していた。
そして、意識もかなり朦朧としていた。
たぶん、このままだと、死んでしまうだろう。このままだと、な。
俺は彼女に手を向け、目を瞑り、祈る。
「【緊急救命術、……集え、精霊たち!】」
そう言った瞬間、俺の目の前に、大きな光の球が出現する。
そして、彼女の頭上に光の球が来た瞬間、彼女の傷がたちまち治り始める。
10秒もしないうちに、彼女は無傷の状態になった。
【緊急救命術】とは、精霊の力を借りて行う治癒だ。
そもそも空気中には、一定数小さい【精霊】がいて、その精霊のおかげでこうした治癒ができるというわけだ。
精霊は人間の目には見えないが、莫大な力を生み出せるので、昔から大切にされているのだ。
忍者は戦闘中、怪我することがあるから、こういう治癒の技を心得ているのだ。
女の子の意識がだんだんとはっきりしてくる。
うん、うまく治療できたようだ。
「あ、あなたは?」
「俺は…ミツハだ。まあ、旅の者だ。それより、傷は大丈夫です?」
『御津羽』と言うとたぶん怪しまれるからな。普通はこんな漢字ばかりの名前はない。忍者の家系など、特殊な環境でしかない名前なのだ。
「ええ、もうすっかり元気です! ミツハ様、助けてもらって、治癒までしてもらって、本当にありがとうございます! あっ、申し遅れました。私はエトナといいます。えっと…家族でマーチボルンに住んでいるんですけど、妹が昼になっても帰ってこなくて…探しに行ったら、森に入った瞬間、ここに転移して…」
エトナはどうやら、明るい性格で、フレンドリーな人らしい。歳は俺と同じくらいかな。
それにしても、急に転移か…
するとエトナが
「ああっ! そういえば、さっきの治癒はなんだったのですか!? 一瞬で、パーッと。神技かなにかですか?!!」
「ああ。あれは精霊術だよ。精霊っていう妖精を集めて、治癒をしてもらうんだ。精霊には感謝しないとね。」
「えええええ! すごすぎる!!」
すごい、のか? 父さんだって普通に使ってたし。だいいち、精霊さまがいなきゃできないんだから。
「規格外ですよお! ミツハ様!」
「? あ、ミツハ『様』はやめてくれ。」
「あっ……わかりました。ミツハさん、でいいですね? …って、エミナ! エミナを探さなきゃ!」
「ああ、妹か。居場所ならもう分かっているぞ。」
「ミツハさん。よかったら一緒に探してくれま… って、えええええ!? なんで分かったのですか? エミナはどこにいるのですか?」
リアクション大きいなこの子。
まあ、
「『エトナおねえちゃん、おねえちゃん……』っていう声が遠くから聞こえた。そこで居場所を割り出した。」
「えええええ!? すごすぎます!……」
「ははっ、何言ってるんだ。エトナ、君を見つけて助けたのも、君の悲鳴を聞いて位置を割り出したからだ。俺はちょっと耳が良くてね。」
「ちょっとどころじゃないそでしょ! …とにかく、ミツハさんがとてつもなくすごいってことは分かりました。で、妹はどこにいるんですか?」
エトナはさっきより少し安心したように見えた。
「君の妹はそう遠くない場所にいる。行くぞ。」
* * * * * *
ほどなくして、俺たちの行先に少女が見えた。おそらくあれがエトナの妹、エミナだ。5歳くらいかな。
エミナもこちらに気付き、「おねえちゃん!!」と言いながら走ってきた。
エトナはエミナを抱きしめ、二人とも涙を流していた。
エトナが俺に深々と頭を下げて、涙を流しながら言った。
「本当に、本当に、ありがとうございます……!」
「いや、当たり前のことをしたまでだ。それよりなにより、よかったな。妹が無事で。」
エミナは森の中で迷子になったようだが、怪我はなかったので、うん、よかった。
すると、エトナが妹に
「エミナ、この男の人はミツハさん。エミナを見つけてくれたんだよ。お礼しないとね。」
と言った。
エミナは、
「おにいさん、ありがとうございました!」
と笑顔で俺に言った。
俺は腰をかがめて言った。
「どういたしまして」
* * * * * *
エトナたちの家があるマーチボルンに向かうため、俺たちは街道を歩いていた。
ふと、エトナが
「あの…ミツハさん、お礼の品なのですが…」
「要らないよ」
「へっ?」
「お礼のなにかなんて、いらないよ。俺はお礼をもらうためじゃなくて、君を助けたかったから、助けたんだから。」
「うう…でも、命を救ってもらって、何もしてあげられないのは…」
うーん、そうか。それはそれで申し訳ないか……
「じゃあ、よかったら、俺を一晩、家に泊めてくれない?」
「! ぜひぜひ! 何泊でもどうぞ!」
「一泊でいいって。ありがとうね。」
こうして、エトナたちの家に向かうため、日の落ちかけている街道を歩くのだった。
街道の先から、多くの人の声が聞こえてきた。マーチボルンまであと20分くらいだろう。
第2話です!
広告の下の ☆☆☆☆☆ から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
(,,♡w♡,,)