キズナソング
「ゆづ先生!入部届けちょうだい!!」
美優先輩と梨木は急いで職員室に行き、ちさとが来る前に準備をした。
「あら?誰か入部希望の生徒がいるの?」
「そうだよ!きっと驚くと思うから先生も楽しみにしててね!」
梨木が目を輝かせながら入部届けを受け取り、2人はあっという間に軽音学部の部室へと走っていった。
「本当によかったわね。学祭楽しみにしてるからね」
先生は小さく呟き、2人の姿を後ろから見守った。
「それじゃあ明日からよろしくお願いします」
「うん!お疲れさま!」
ちさとは2人に挨拶をして帰ることにした。
「ちさと!」
校門を出たところで声がしたため振り返ると、吹奏楽部の1年生が2人申し訳なさそうな顔をしていた。
「ん?どうしたの?」
「あ、あの…さっきの音楽室の話聞こえてて…それで…謝ろうと思って…」
「謝る?なんで?」
「先輩たちに嫌われないように仕方なくしてたって言うか…本当はこんなことしたくなかったから…ごめん」
「そっか」
「ち、ちさとが大丈夫なら部活辞めても友達でいてくれる…?」
「うーん…無理かな!じゃあバイバイ!」
そしてちさとは決して振り返ることはせず、前だけ向いて自転車を漕いだ。長い下り坂でもスピードを緩めず風を切り裂きながら漕いだ。
「ばーーーーか!!」
夕日が照らすその顔には一つの曇りも無く、まるで小さな子供がずっと欲しかった物を手に入れたときのような笑顔だけが残っていた。
「ただいまー!悠太遅くなってごめんねー!すぐご飯作る…ってええ!」
「おう、おかえり」
「おかえり」
「姉ちゃんお帰りー!」
「な、なんで結人と結衣がいるの…?」
「え?だって今日は吹奏楽退部おめでとうパーティじゃないの?」
「あと軽音部入部おめでとうパーティもだな」
「よくわからないけどパーティなんだって!」
ちさとは我慢できず結人と結衣を抱きしめた。こんなにも温かい人たちがいることに幸せを噛み締めて、おもいっきり抱きしめた。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいから!」
俺が言ってもちさとは離さない。鼻を啜る音が聞こえてきたので俺と横田で同時に頭をポンポンと叩いた。
「実はサプライズはこれだけじゃないんだよな」
「え?まだ何かあるの?」
「たぶんそろそろじゃないかな」
いったい何があるんだろうと思っていると、ドアが開く音がした。
「あれー!ちさと帰ってきてるおじゃましてまーす!」
「まどか!まどかも来てくれてたんだ!」
「私だけ仲間外れなんて許さないんだから!ちさと大変だったんでしょ?お疲れさま」
星峰もちさとを抱きしめた。決して詳しく事情を知っているわけではないが、それでも友達が辛い気持ちを味わっていたことが許せなかった。だからせめて気持ちが晴れるように何かしたかった。
みんなで手分けしてカレー作り、決して上手にできたとは言えないが、みんなでご飯を食べることにした。ちさとが帰ってくるタイミングで丁度完成したので間に合ってよかった。
「ところでなんでみんないるの?」
ちさとが不思議そうに聞いた。たぶん結衣が仕組んだことなのだろうと思っていたが、いきなりこんなことになっているのが想像できなかった。
「さっき玄関でいろいろあったじゃん?」
「うん」
「実はあそこにネズミがいたんだよ」
「ええ!大丈夫?噛まれてない?」
「ちさと、そのネズミってたぶん俺のことだ」
恥ずかしそうに結人が言った。
「え…それってこっそり見てたってこと!?」
「ごめん…たまたま鉢合わせちゃって隠れて見てた」
「ひょっとして…美優先輩と遥香も一緒だった?」
「うん」
「だからあんなに息を切らしてたんだ。なーんか変だなって思ったんだよね」
「ちさとが来るかもって思って急いで戻ったからな。でも無事に入部できたんだろ?」
「うん。入部届けもらった。今日書いて明日提出するよ」
「それならよかった」
「ねえねえ!ちさとも軽音学部入るんだよね!?じゃあ学祭みんなで一緒にやるの!?」
「一応…そうなればいいなって思ってる。でも選考会があるらしいから、まだ決定じゃないんだ」
「大丈夫だよ。絶対俺たちで受からせるから」
3人が俺に不敵な笑みを浮かべた。
「ね?こういうこと言うからズルいんだよ」
「一ノ瀬かっこいい〜」
「なるほど。これで本当に受かったら確かにかっこいいかも」
「いじるないじるな。でも俺だけじゃなくて美優に梨木もいるから。それにちさとだってサックスの女神様だからな」
「もー!女神言うな!」
こうして俺たちはみんなで楽しくご飯を食べた。
ちさとが今まで辛かったことを忘れられるように、ひたすら楽しい話ばかりした。
楽しそうに笑っている姿を見ていた悠太は「お姉ちゃん楽しそうで嬉しい!」と言っていた。ご飯を食べた後は悠太も一緒にみんなで少しだけトランプ大会をして、解散することになった。
「じゃあまた明日学校でな」
「少し遅くなっちゃったから、まどかも結衣も気をつけてね」
「大丈夫ー!また明日ね!」
「ちさと、また明日」
星峰と横田はバスのため近くのバス停まで俺が送ろうとしたときだった。
「あれ、結人じゃん。何してんの」
聞き覚えのある声がした。振り返るとランニング中の涼太がそこにいた。
「あれ、涼太じゃん。みんなでちさとの家でご飯食べてたんだよ」
「マジ!俺も行きたかったー!」
俺はハッと気づいた。そして星峰を見ると完全に予想してなかったことが起きて混乱している女の子がそこにいた。そしてこれはチャンスだと思い、俺は涼太に星峰のことを話すことにした。
「涼太。紹介するよ。同じクラスの横田と星峰」
「どうも横田です」
「ほ、星峰まどかです…あの…」
「あ…ああ、えっと柊涼太です。前にちょっとだけ話したことあるよね」
「覚えててくれたんですか…!」
「結人からちょっと話聞いてたから。えっと…それじゃあ俺はランニング途中だからこれて…」
「柊くん!お願いがあるんだけどいいかな!?」
横田が明るい声で話した。
「え?な、なんでしょう?」
「この子バス停まで送ってあげてほしいんだけどいいかな?私自転車だし一ノ瀬すぐそこ家だし」
横田はそう言って星峰を前に出した。
「ちょ、ちょっと…!結衣…!!」
いきなりそんなの無理という態度を横田に向けた。涼太はいきなりの展開で少し困ったような表情を俺に向けたが、俺も頼むと無言の視線を送ると観念したように了承した。
「えっと…まあいいけど…じゃあ行きますか」
「よかったね!じゃあ気をつけてね!また明日学校で!バイバイ!」
え!本当に!?という喜びなのか戸惑いなのかわからない星峰は、「軽く走れる?」という涼太の問いかけに「は、はい!」と返事をして一緒に去っていった。
「いいことすると気分がいいね」
「そうだな」
「ところで私を送ってくれる王子様はどこにいるのかな?」
「それじゃあまた明日!学校でな!」
「どこにいるのかな?」
「はいはい…ここにいますよ」
「あ・り・が・と♡」
「その上目遣いやめて?普通に照れるから」
走り去っていく2人を眺めながら、横田は小さく「頑張れまどか」と言って微笑んだ。俺も星峰のことは応援している。うまくいくといいけど、そしたら山崎が…という心配もしつつ横田を送ることにした。
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