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session  作者: 北稲とも
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夢の花

 今日で終わり。

 辛い環境に身を置くとも、嫌がらせを受けるのも、辛辣な言葉を受けることも終わりにする。

 結衣が道を作ってくれた。遥香と美優先輩が居場所を作ってくれた。結人が背中を押してくれた。

 昨日、先生とか先輩たちの言葉を信じた私がバカだった。ひょっとしたらいつか変わることがあるかもしれない。だけど、私にはそれを待っている時間なんてないんだ。だってあっという間に時間なんて過ぎていくんだから。後悔してる暇なんてないんだから。


 ちさとは走って音楽室に戻った。ドアを開くと顧問と部長がまだいた。


「先生、話があるんですけどいいですか?」


 そう言うと面倒そうな態度を隠して対応しようとしたが、その態度はすぐにちさとにバレた。


「あ、面倒ならそこで大丈夫です。昨日はいろいろとお話を聞いてもらってありがとうございました。退部しないと言いましたが、さっきまたパートリーダーたちに嫌がらせを受けました」


 先生と部長は「あいつら…」といった感じで小さくため息をついた。


「きっと何かの間違いじゃないかな?私からも言っておくからそんなこと言わないでよ」


 部長が無理矢理作った笑顔を向けてくる。私はその顔を見ると嫌悪感しか抱かない。もはやここに私が信用できる人は誰もいないのだから。


「先生や部長はなんで私が辞めるのが嫌なんですか?」


 さっき先輩たちが話していた言葉が本当なのかどうか確かめたい。本心なんて言わないのはわかってるけど、反応を見たい。


「え?そんなの誰も辞めてほしくないからだよ」


 部長が言う。先生は何も言わず黙っていた。


「そうですか。もし本気でコンクール金賞を狙えるような練習をしたいので、仲良しこよしはやめてくださいって言っても同じこと思いますか?」


「全員が満足できる部活動というのは難しいと思うよ。そこは大多数の意見を優先することにはなると思う。決して無碍にするわけではないけどね」


 ごもっともな意見だ。まるでテンプレートと言ってもいい。そしてそれが正解なのもわかる。金賞を狙いたいのなら、最初から実力のある高校に行けばいい話なのだ。

 だけど私にはそれができなかった。1度諦めた夢だったから。だけどやっぱり心のどこかで諦めきれない自分もいたし、前に結人に励まされて気づいた。

 ここでみんなで頑張って上手くなって、上を目指してもいいんじゃないかって。それができたら最高だなって。だからみんなに言ったんだ。もっと頑張りませんかって。


 でも周りはそれを拒否した。何度も言ったがその度に嫌がらせは増えていった。こんな1年生の意見なんて通らないことはわかる。それでも私はどうにかしたかった。

 軽音部の楽しそうにライブをする姿を見るたびに、理想している部活の姿というものをわからされている気がした。


「いいなあ…」


 私はいつからか隣の部活に憧れるようになっていた。楽しそうに演奏していて、夏休みのライブを見たら、最初のライブで見たときより1年生はスキルも上達している。みんなか頑張って音楽に向き合っている姿が本当に羨ましかった。


「この部活を否定するわけではないです。仲良くわいわいできることってすごくいいと思います。でも…私の居場所では無いです。これからも仲良く楽しんでください。あと、私みたいな人がこれ以上出ないようにしてください。今までありがとうございました」


 そう伝え頭を深々と下げた。

 部長もこれ以上は言っても無駄なのだろうと、諦めたように「お疲れさま」と一言声をかけてくれた。だけど先生は最後まで黙ったままだった。



 音楽室を出て私はそのまま隣の部室の前に立った。


「美優先輩まだいるかな…結人や遥香も…」


 コンコン


「失礼します…」


 ドアを開けるとそこには見慣れた姿の2人がいた。


「はぁ…はぁ…や、やあ!水科ちゃん…!ど、どうしたのかな!?」


「あ、あれ…ちさと…はぁ…はぁ…め、珍しいね。どうしたの…?」


 部室には2人しかいなかった。そしてなぜか息を切らしてとても疲れているように見える。


「えっと…うん…それよりなんでそんなに息切れしてるの?」


「いや…ちょっとね…運動不足かなって思って運動をね…。ね!遥香!」


「そうです…!久しぶりにめちゃくちゃ走って疲れた…!」


「よくわかんないけど、運動はいいことだよね!」


 2人の姿を見てちさとは笑った。そしてすぐに真剣な面持ちになり、美優の前に立った。


「美優先輩」


「なーに」


「お話があります」


「わかった。でもとりあえずこれあげる」


「…!!これって…!」


「明日までに書いて提出するように!ゆづ先生には私から伝えておくよ!」


 渡されたのは入部届だった。美優先輩は全部わかっていた。私がここに来た理由も。

 遥香も笑顔で「これで学祭一緒にできるね」と喜んでいる。私は自分が頑張れる場所がここにあると実感した。


「精一杯頑張るのでこれからよろしくお願いします!!」


「うん!ようこそ軽音学部へ!!」



「あら、田中先生まだ残ってたんですね」


「新田先生、お疲れ様です」


「どうしたんですか?表情が暗いようですけど。何かありました?」


「いや、さっきね1年が1人退部したんですよ。学祭前の忙しい時期だってのに迷惑な話ですよ」


「あらそうですか…。優秀な生徒さんだったんですか?」


「なあに。実力はあるかもしれませんが空気の読めない人だったんで結果いいかなって感じですね」


「あら…それは大変でしたね」


「ほんとですよ。どうですか?この後一杯飲みに行きませんか?」


「すみません。私も関わる人は選びたいのでお断りしますね」


「は?それってどういう意味…」


「そういう意味ですけど?それじゃあお先に失礼しますね。お疲れさまです」


 そう言って新田先生は職員室から出た。

 これでよかったのかどうかはこれからの水科さん次第になる。けれどきっと間違いじゃなかったと、彼女は示してくれると信じていた。




ご覧いただきありがとうございました。

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