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「さて、学祭どうしよっか」
次の日の放課後、俺と美優と梨木は部室で学祭について話し合っていた。ちさとも一緒にみんなで出る予定だったため、考え直さないといけない。
「みんなは他の人にも誘われてる?無理して今回このメンバーで出なくてもいいんじゃない?」
俺が言うと2人はムスッとした表情をした。
「ふーん、結人は私と一緒にやりたくないんだ」
美優が意地悪そうに言った。
「いや、そういうわけじゃないけどさ…なんていうか正直4人で出れると思っていたからモチベっていうか…ごめん」
「いや、わかるよ。私だってそうだもん」
「私も」
そしてまた雰囲気が悪くなる。話は一向に進まず、時間だけが進んでいった。
「よし!気分転換しよ!とりあえず私たち3人だけならボーカルいないし、何やるか考えて決めないと時間も無い!と、いうわけでファミレスにでも行こう!」
「疲れたときは甘いものに限ります。行きましょう!」
2人ともノリノリで部室から出て行く。こんなんで大丈夫か、と心配になりながら俺も2人のあとを追うことにした。
階段を降りる途中、会話が聞こえた。
「マジであり得ないよね。なんであいつのために我慢しないといけないの」
「やっぱり調子乗ってるからさ、今度はバレないように上手くやらないと」
何やら気分が悪くなるような会話だ。そしてその声の主は見覚えのある顔だった。そう、吹奏楽部のパートリーダーだった。
俺たちは何事も無かったようにその横を通り過ぎ、少し距離を置いたところで止まった。
「ねえ、今のって…」
「ああ、間違いないと思う」
「吹奏楽の2年だね。クラスは違うけど性格悪いで有名だよ。確かサックスのパートリーダーのはず」
恐らくちさとに対しての話だろう。やっぱり嫌がらせは終わっていないようだ。まだ行動に移していないが、どんなことをしてくるのかわからない。念のためちさとに気をつけろよとLINEで伝えようとしたとき、美優が俺のスマホに手をかざした。
「いいの?もし私たちがここで何もしなかったら水科ちゃんはきっと吹奏楽部にやっぱり嫌気がさして軽音部に来るかもしれないよ?そしたら学祭だって予定通り練習できるし、水科ちゃんが嫌な思いをすることは無くなると思う。みんなハッピーになれるんじゃない?」
美優が言うことは正論だった。俺たちが何かしようがしまいが、きっとあの先輩たちや吹奏楽部員はちさとに嫌がらせをする。それならちさとが助けを求めてきたときに迎えてあげればいいだけの話だ。
けれども、そんなのは嫌だ。何か起きることがわかっていてそれを放置しているのは嫌だ。そこに傷つく人がいることがわかっているのに、友達が辛い思いをすることがわかっているのに、何もしないなんて嫌だ。
「美優の言うとおりだと思う。もしこれでちさとに吹奏楽部内でちゃんと居場所ができればこっちに来ることも無いだろうし。けど、やっぱり俺は友達が嫌な思いをするのを傍観しているのは嫌だ」
「一ノ瀬…」
梨木は美優の言葉に少しだけ戸惑っていた。
私はちさとと一緒に学祭で演奏するのを楽しみにしていたから。一緒に練習して、一緒に美優先輩と一ノ瀬のことイジったりして、楽しい時間を共有するのがとても楽しみだったから。
だからちさとに吹奏楽部に残ると言われたときは本当にショックだった。でもちさとが決めたことだし、それなら応援してあげたい。だかは背中を押したけど、まだ嫌なことが起きるならこっちに来てほしい。それならそっとしておくのも…。
でも一ノ瀬の言葉を聞いて私は間違っていることに気づいた。だって友達だもん。友達でライバルで大好きなちさとだもん。私だって傍観してるだけなんて嫌だ。だから背中を押したんだ。ありがとう一ノ瀬、あんたのおかげで少しでも迷った自分を殴りたいよ。
「美優先輩、私も何もしないなんて嫌です。ちさとのこと心配だし」
真っ直ぐな瞳で美優を見る梨木の顔は、いつもよりどこか凛々しく感じた。
「2人とも…。そう言ってくれる人で嬉しい!私だって同じだよ!あーよかった、自分の彼氏がいい奴で本当によかったよ!」
「は…?試したの?」
「あ!え!て!悪巧みの案も出しただけだよ。けどこれに乗っかってきたらちょっとだけ幻滅してたかも〜?」
「そんなのに乗るわけねーだろ!ったく、たまに出るブラック美優には参るよほんと」
「だーれがブラック美優じゃ!」
「あはは!2人ともいちゃついてないで、ファミレス行って作戦会議しよ!」
3人の想いは同じ方向を向いている。これだけは間違いのないことだ。そして、俺たちはちさとが部活を終えて帰るまで、近くのファミレスで時間を潰すことにした。
待っている間に学祭でやる予定のバンドをいくつか候補を決まった。気分転換とは良く言ったもので、場所が変わると意外と話がポンポンと進んだ。
「さて、そろそろ学校戻ろっか。そろそろ終わる時間じゃない?」
時刻は17時30分を過ぎたころ。いつもならちさとが帰る時間になっていた。
学校に戻り、梨木が上履きを確認するとまだ学校にいるようだ。俺たちは玄関でちさとを待つことにした。
しばらくするとちさとが来た。が、サックスメンバーも一緒にいる。俺たちは隠れてどんな話をしているかこっそり聞いた。
「あーあ、いいよねーこんな早く自由に帰れて」
「水科さんって忙しいみたいだからさ、学祭にも出なくていいよ!無理しないで部活頑張ってね!」
「いや…私も出れるので…」
「は?ロクに練習も一緒にできないやつが出るとか私たちも許せないんだけど」
「すみません…」
「あ、また部長と先生に言う?いいよ言っても。逃げるってことだから、弱い人間なんだなって思うし」
思っていたとおりの会話が聞こえてくる。4人でいるが3対1の構図がこれでもかと見える。そしてちさとの事情なんて何一つ知らない人が言いたい放題言っていることが何より許せなかった。
「結人、ダメだよ。今出ても水科ちゃんのためにならない」
「わかってる。ちゃんと我慢できる」
俺はなるべく冷静になれるよう深呼吸をした。感情のままに今ここで飛び出しても意味がない。だが、俺以上に飛び出して文句を言いそうな奴が隣にいる。
「梨木、落ち着け。俺だって我慢してるんだ」
「あいつら…許せない…。我慢できない…」
「ちょ、ダメだって!」
今にも暴れそうな梨木を俺と美優で必死に抑えている。だがそれも限界が来てしまいそうだった。
「てかさ、こんなに言われてるのに何で辞めないの?先生に止められたから?別に先生だって何とも思ってないよ?あんたのこと広告塔くらいにしか思ってないし」
「それってどういう…」
「は?わかんないの?顔だけはいいんだからさ、都合の良いときだけ出して宣伝に使うってことだよ?でも発表会とかの場所には出さないんじゃない?だって浮いちゃうじゃんアンタ。それに自分だけ上手いです〜ってされてもみんな困るし。だから写真とかそういう宣伝担当ってこと。サックスの技術とかは誰も求めてませーん」
「あはは!たしかに!」
「まあ私たちはいつ辞めてくれてもいいからね!」
ちさとが負けず嫌いなのは俺も知っていた。あんなこと言われたら絶対辞めないで頑張ってみせると思うことも。
だからこそ、もう限界だ。許せない。ちさとのためにならないかもしれないけど、俺のためにはなる。
もう我慢なんてできない。
「なーんかクソみたいな話聞こえてきたと思ったらちさとじゃん。誰その一緒にいる生ゴミ」
ああ、なんてタイミングで現れたのでしょう。あんなのまるでヒーローじゃん。
俺たち3人はどこか肩の荷が降りるような気持ちになった。だってそこにいたのは、こういうときに頼りになるのがわかっている横田姉さんだったから。
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