お似合い
17時を過ぎたころ、ちさとが1人玄関に歩いてきた。
「あれ…待っててくれたんだ」
「みんな心配だったからな。それで、どうなった?」
「うん。先生が辞めないでくれって。部長とパートリーダーにも謝られてさ、もうちょっとだけ頑張ってみようかなって。みんな色々してくれたのにごめん…」
ちさとは深々と頭を下げた。俺たちはちさとが決めたことならしょうがないと、何かを言い返すこともなくその答えを素直に受け入れた。
「ちさとがそう決めたのなら私たちに遠慮することないよ。これで居心地良くなるといいね」
梨木がちさとの背中をポンと叩きながら言った。
「もしまた何かあったらいつでも相談して。軽音学部はいつでも水科ちゃんを歓迎します!」
美優も同じように背中を押した。2人の優しさが身に沁みたのか、自然とちさとの目に涙が溜まっている。
これでよかったのか、ひょっとしたら間違った選択をしたのではないだろうか。その答えはまだわからないが、受け入れてくれる場所があるということが、ちさとの勇気に繋がった。
「じゃあ学祭は俺らで考えるしかないな。ちさとも見に来てくれよな」
「せっかく考えてくれたのにごめんね。でもいつかみんなで演奏したい気持ちは変わらないから、もし良かったらその時はお願いします」
「「もちろん!」」
美優と梨木が声を揃えて言った。俺はそのいつかを待つことに決めた。その時が来たら最高の演奏ができるように、たくさん練習しようと思いながら帰ることにした。そして、それはそこにいた全員が同じことを考えていると信じて。
だがこれで本当に解決するのだろうか。なんで先生はちさとを辞めないでほしいと引き留めたのだろう。
前にゆづ先生が言っていた言葉が引っかかる。部活に対して熱が無い顧問と聞いていたが、それでも吹奏楽部員にとっては大切な顧問だ。
それに部長やパートリーダーもあっさり謝ったと言っていたが、それならこんな問題は起きなかったのではないだろうか?
考えてもいまは何もできない。信じるしかない。もしまた何か起きたときは友達として遠慮なく行動に移そうと思う。
その日の夜、俺は星峰と横田のLINEグループに先日の結果を伝えた。
『涼太からOK出たけど、いつ遊ぶ?』
すぐに既読が2つついた。
『良かったね。私は一緒に行けないから結果報告よろしく』
横田が返信した。星峰からの返事はなかなか来なかった。きっと部活の予定表とかを確認しているのだろう。
『土日は午前中部活だから、午後だといつでも大丈夫』
『了解。じゃあ涼太のスケジュール確認してまた連絡する。あと、遊ぶときちさとが一緒でも大丈夫?』
『うん。大丈夫。じゃあよろしくお願いします』
嬉しさと緊張が伝わってくる返事だ。きっと今頃はベッドの上で嬉しさのあまりスマホを握りしめながらゴロゴロしているのかもしれない。
連絡も終わり、とりあえずの仕事を終えてから俺は美優に電話をした。
「もしもし」
「もしもーし。どうしたの?」
「美優の声が聞きたくなった。今大丈夫?」
「ふふふ。甘えんぼさんだね。大丈夫だよ」
「実はさ…」
俺は星峰のことを美優に話した。
涼太のことが気になっていること、今度4人で遊びに行くこと、そして山崎のこと。
「うん、うん」と丁寧に相槌を打ちながら話を聞いてくれる美優に、俺は安心感を抱きつつ全てを話した。
「美優だったらどっちの味方になるとかある?」
ずっと心の奥でモヤモヤしていたこと。星峰と山崎のどちらを応援するべきなのか。誰かに相談したほうがいいと思っていたこともあり、美優に言った。
「うーん、そうだなあ…私も結人と同じかな?どっちの応援もすると思う。でもさ、そういう時って想像するんだよね。涼太くんと星峰さん、山崎くんと星峰さん。どっちが似合ってると思う?」
「似合ってるか…正直言うと山崎のほうが見慣れてることもあるから似合ってる気がするかな。というか涼太が元カノ以外の女子と一緒にいることが想像できない…かな」
「なるほどね〜。それじゃあ今度みんなで遊んだときにさ、ちゃんと見て想像してみなよ。この2人が付き合うってことになったときのこと。そしたらまた違う考えになるかもだし」
「うん。そうしてみるよ。やっぱりこういうとき美優は頼りになる」
「いつもは頼りにならないみたいな言い方やめて!?」
「いつも頼りになるよ。ありがとう」
「へへーん!じゃあ私も結人に相談したいことあるんだけどいい?」
「ん?どうした?」
「声聞いたら会いたくなったんだけど、どうしたらいいですか?」
「それは俺もです。どうしたらいいんでしょうか?」
「明日の部活まで我慢しましょう」
「答え出てるじゃん」
俺と美優はお似合いなのだろうか。みんなはどう思っているのだろうか。改めて聞かれると自分ではわからない。今度安達とか横田あたりに聞いてみようと思った。あの2人の意見は同学年より少しだけ大人な意見をくれると思うから。
「それじゃあ明日、美優に会えるのを楽しみに今日は早く寝るとするかな」
「私もそうする。あ、明日学祭どうするか話そうね。それじゃあおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
電話を終えて、俺は学祭のことをすっかり忘れていたことに気づいた。スマホに入っているミュージックを見ながら俺はそのまま眠りについた。
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