モノローグ
花火大会の開始は19時30分から。いまの時刻はまだ19時前だというのに、人だかりがすごいことになっている。
「美優、はぐれないように離さないでね」
「うん。ありがとう」
俺は美優の手をしっかりと握って人混みの中をゆっくり歩いた。普段履き慣れない靴を履いているため、怪我をしないように。すれ違う人にぶつからないように。決して逸れることがないように。
美優は結人の優しさを噛み締めながら歩いていた。
好きになったときに思ったこと。
『この人なら私のことを大切にしてくれる』
やっぱり間違ってなかった。思っていた通り、この人は…結人はいつも私のことを大切にしてくれる。守ってくれる。こんな幸せなことってないよ。
付き合ってまだそんなに経ってないけど、いろんなことがあったよね。
嬉しいことや嫌なこと。いろんなことがあったけど、きっとどれも何年か経ったら笑っちゃうような思い出になるんだと思う。
だから、何があってもずっと一緒にいようね。
結人と一緒にいれて幸せだよ。
頼りない年上の彼女だけど、これからもよろしくお願いします。
なーんてね。
「この辺で見ようか」
あまり歩き回っても疲れるだろうと思い、少しばかり人が少ないところでシートを敷いて腰かけた。
「なんか穴場って感じでいいね。あ!あそこレーザーも綺麗に見えそうだよ!早く始まらないかなー!」
美優は子供のようにはしゃいでいる。思ったよりいい場所が見つかってよかった。
「ねね、あとどれくらいでスタート?」
「えっと…あ、もうすぐ始まると思うよ。美優すごい楽しみにしててくれたんだね。なんか嬉しい」
「だって彼氏と花火大会行くの夢だったんだもん!結人と一緒に来れてすごく嬉しいんだからね!」
「めちゃくちゃ照れる。でも俺もこうやって誰かと花火大会行くの初めてなんだ。その相手が美優で本当に嬉しいよ」
「えへへ…」
美優がいつもの甘えたがりモードに入った。俺にくっついてくる美優の肩に俺は腕を回し、ギュッと抱き寄せた。
「美優のおかげでこうやって左手も治って、事故にあったときも無事だったしさ。まだまだ恩を返せてないなって思った」
「そんなことないよ。私のことをちゃんと大事にしてくれてるってすごく伝わってくるもん。それだけで充分だよ。」
こうして俺たちはお互いに好きという気持ちを精一杯表現し合った。
「好きって気持ちを伝えるのってめちゃくちゃ大事だと思う」
それは前に涼太が言っていたことだった。その頃の俺は彼女もいなく、恋愛というものは涼太から聞いていることがほとんどだった。
今ならその意味がよくわかる。言葉にしないとダメなこともあるのだ。そして、そうすることによってわかることもある。
ドーーン
「あ!始まった!!すごい綺麗!」
赤・青・緑・黄・白といった様々な色の花火が打ち上がる。迫力がある大きな花火、いろんな形をしたかわいい花火などいろんな種類の花火が上がるたびに、わあっと観客が盛り上がる。
地上から伸びているレーザーも花火を活かしている。そしてBGMにはいろんな曲が流れていて、それに合わせるように何度も何度も花火が上がった。
「すごく綺麗。嬉しいなぁ…幸せだなぁ…」
美優は頭を俺の肩に乗せながらそう呟いた。俺はその頭を撫でながら、同じ気持ちでいれることに「ありがとう」と小さく呟いた。
来年も一緒に来れるかな。美優は受験で忙しいかな。でも1日くらい大丈夫だったらいいな。再来年は美優はここにいないかもしれないから、一緒には見れないかな。
そっか…じゃあこうして一緒に花火を見れるのもあと1回なんだな。
そう考えると俺は不安な気持ちに押し潰されそうになった。
「結人?どうしたの?」
「…ごめん。来年は一緒にいれるけど、再来年はこうやって一緒にいれるかわからないんだよなって思っちゃった。美優と離れたくないなって思ったらなんか…ごめん」
「ううん。そんなことないよ。私だって同じこと考えたりするし。やっぱり留年するしかないか!」
「なにバカなこと言ってるんだよ」
「やっぱりそれはダメだよね。前に結人のお父さんが言ってたこと覚えてる?」
「ん?いろいろ言ってたからな…どれのことだろ」
「1年間待っててあげてほしいってこと!」
「あ、ああ…言ってたね」
「もちろん今みたいに会えたりできなくなるのは寂しい。でも連絡が取れなくなるわけじゃないし、たまには帰って来るんだし大丈夫。結人が高校卒業してどこに行くかわからないけどさ、これだけは約束してほしい。結人の将来を無駄にするようなことだけはしないでほしい」
「美優…」
「私もまだどこの大学を受験するか悩んでるけどさ、卒業するまでの間に結人とたくさん、たーっくさん思い出作って、結人と一緒にいれない時間も我慢できるようにしたい」
「そうだな…」
「だから今はこの時間を大切にしたい。悲しいことなんてまだ考えたくない。ほら、花火も終わりに近づいてるよ!次が最後の曲みたい!」
やっぱり美優は強い。きっと言葉ではそんなこと言っているが、同じだけ辛い想いをしているはずなのに。
彼氏の俺がくよくよしてる場合じゃない。
今日の花火、思いっきり目に焼き付けて忘れられない思い出にしよう。
最後に流れたのはTRIPLANEの『モノローグ』という曲だった。
Aメロからサビに向かうまでに少しずつ大きな花火が鳴り響いている。
そしてサビになり、目の前がしだれ花火で埋め尽くされた。夜なのにまるで昼のような明るさと錯覚してしまうくらい、大量の花火が打ち上がった。
「綺麗だね」
花火の光に照らされている美優はとてもきれいで、どこか儚いような気がした。しっかりと握ってないと、どこかへ行ってしまいそうなくらい。
俺も美優も今日のことは忘れない。
来年も一緒に来よう。
最後の1発が打ち上がる。俺たちはただじっと目の前に広がる無数の花火を眺めていた。
一番大切な君とずっといられるようにと願いながら。
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