ペチカ
「水科ちゃんお疲れさま!ちょうど私も話したいことあったんだ。とりあえず中に入ろっか?」
美優はまるで自分の家のように家の中に招き入れた。その態度に俺は怒りなどの感情は無く、まるで家族の一員のような立ち振る舞いを見て少しばかりの感動を味わっている。
「ただいまー」
「「おじゃましまーす」」
エレベーターの中で今日のライブがすごくよかったなど話をしていて、2人はまだ興奮が冷めないようだ。確かに今日の美優はいつも以上に最高のパフォーマンスだったから当然だ。
俺たちは荷物を下ろし、整理などをするため、ちさとには居間で待っててもらった。
「ねえ、水科ちゃんの話って何だと思う?」
美優が俺の部屋でこっそり聞いてきた。
「いや、俺もわからない。でもちさとのこと梨木から何か聞いてる?」
「うん。結人も知ってるって言ってたからライブ終わったら話そうと思ってたけど、吹奏楽部のことでしょ?」
「ああ。ひょっとしたらそれ関連かもしれないけど、美優はどう思う?」
「私の友達にも吹奏楽の人いるけど、水科ちゃんには合わないんじゃないかなって思う。あそこ真面目に音楽やってる人いないから」
「やっぱりそうか…応援はしたいけど難しいところだよね」
「そうだね。水科ちゃんってかなり上手いんでしょ?勿体無いよね」
「そうだな」
片付けも終わり、居間に戻って俺たちはちさとの向かいに座った。
「それで話って?」
俺が話を切り出すと、ちさとは静かに口を開いた。
「うん。結人はもう気づいてるかもしれないけど、私部活辞めようと思うんだ」
「えっ…」
それは思ってもいないセリフだった。ちさとはきっと戦うと思ってたから。決して逃げたわけではない。あのちさとがここまで思うのはきっと考えに考えた結果だと思う。それでもここで彼女は音楽から少し離れてしまうことに俺はとても悲しい気持ちになった。
「いろいろ考えたんだけどさ、あそこにいたらきっとサックスが…音楽のことが嫌いになると思う。だからそうなる前にね」
「いいと思う」
美優も賛同した。
「私もあの部活は水科ちゃんには合わないと思うし、固執しなくていいんじゃないかなって。それに別にあそこだけじゃないしね、音楽できる場所って」
確かに美優が言うとおりだと思う。好きなことをする環境というものはとても大事だ。この部活だって、周りが適当な人だらけで向上心も無い人の集まりだったらきっと俺は入部すらしなかっただろう。中学の頃と同じように、個人でスタジオに入ってドラムを叩くだけだったと思う。
それだけこの部活は環境が整っている。それは部長が、そして美優が作ってきた環境なのだと思う。
「でもサックスって吹奏楽部離れたらできる場所も少ないので、ちょっとだけ音楽から離れるかもしれません。まあ…家のこととか集中してできるので良しとします」
俺は黙って2人のやり取りを聞いていた。意外だったのはちさとの顔がスッキリしていたことだ。苦渋の決断だったとは思うが、きっとこれでよかったのだろう。
「結人にはいろいろと迷惑かけたみたいだから、話しておこうと思って。美優先輩もありがとうございます。今日のライブを見て辞めようって決心ついたので…」
「そっか…。背中を押せたってことでいいの、かな?」
「そういうことです!じゃあ私は帰ります。今日はお疲れさまでした!」
そう言って立ちあがろうとしたとき、俺はスマホを出してある曲をかけた。ギター、ベース、ドラム…そしてサックスが流れるかっこいい曲。前に美優と一緒に聴いた曲。
「ちさと、これ吹ける?」
俺は黙っていた口を開いてちさとに聞いた。
「え…ちゃんと聴かないとわからないけど…ていうかかっこいいね、この曲」
「あのさ、前にみんなで約束したこと覚えてる?」
「いつかみんなでステージ立ちたいって話?」
「うん。もしちさとが嫌じゃなかったらなんだけど…学祭に一緒に出てくれないか?」
「え…ええ!?」
前に美優が言っていた、これみんなでやりたいねという言葉。俺はちさとに伝えたあとに美優のほうを見た。興奮気味にやる気に満ち溢れているその顔を見て俺は安心した。
「水科ちゃん」
「は、はい」
「もしこれから先、サックスを吹ける場所に困ったらいつでも頼ってほしい。軽音学部はいつでも誰でも歓迎します!」
「美優先輩…」
「あ、でもサックスだとあまりできるバンドは少ないだろうから、ライブやるときはボーカルとかお願いするかも」
「それは恥ずかしすぎるから絶対嫌です!」
俺はちさとにバンド名と曲名を伝えて、出来そうなのを教えて欲しいと言った。ちさとは張り切って「聴いてみるね」と言い、帰っていった。
「あんなこと言ったけど、学祭って部員じゃなかても大丈夫だった?」
「ゆづ先生に聞かないとだね。あと遥香にも教えてあげないと」
「なんかいろいろごめんな」
「ううん。私も結人と一緒に組めるのが嬉しいからいいんだ!もし正式に決まったら、頑張ろうね!」
こうして1日は終わった。これから先どうなるかわからないが、とりあえずは今日の頑張りをお互い労おうと思う。
お疲れさま。今日はかっこよかったよ。
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