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session  作者: 北稲とも
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手と手

 チューニングを合わせて、音を出して、深呼吸をする。


 今日は私がどれだけ成長したかをみんなに…一ノ瀬に見てもらう。あのライブから3ヶ月経って、最初はチヤホヤされていたのがいい気分だった。でも一ノ瀬や美優先輩、部長と一緒にバンドを組んで自分の実力が低いと思い知らされた。

 あの日からも毎日欠かさず練習している。見てろ一ノ瀬。あんたが選ばなかった女はこんなにもいい女だったんだってわからせてやる!!


 ギターから始まるその曲は、ライブでやれば盛り上がること間違い無しのクリープハイプの有名な曲だ。

 シンプルなアップテンポな曲調だが、何度も聴きたくなる曲。そういえば前に梨木がこの曲が好きって言ってたっけ。


 

 美優は控え室で片付けながらモニター越しにライブを見ていた。

 遥香は変わった。初めてのライブをして、初めての恋をして、いろんな初めてを経験して。好きな人に見返してやろうとたくさん練習して、その成長速度は驚くべきスピードだと思う。そしてその姿を見ているうちに去年の自分と重ねていた。必死に練習した理由、それが叶うかどうかもわからないのに。


 控え室を出てフロアに戻り、楽しそうに演奏している梨木を見ながら「ごめんね」と小さく呟いた。


 改めてフロアから遥香のベースを聴いていると、春の頃と比べて音の粒が揃っており、音の厚みも出ている。ベースとドラムが安定しているバンドは上手いバンド、というのを聞いたことがある。もう立派に胸を張れる実力になっているよ。きっと今の遥香と結人が一緒にいるバンドだったらすごいバンドになるんだろうな。



「本当に上手くなったな…」


 俺は美優のベースを弾いている姿を見ながらそう思った。ライブが終わったら思いっきり褒めてあげないといけないな。できれば美優と一緒に褒めよう。部長も一緒にいたらきっと喜ぶかな。



 あっという間に梨木のバンドは2曲を披露して終わった。美優のバンドに負けない盛り上がりを見せて、とても1年生だけのバンドとは思えないクオリティだった。

 美優が上手かったのはもちろんだが、俺は松下のドラムのレベルが上がったことにとても感動していた。きっと彼も必死で練習したのだろう。『俺だってできるんだ!』という気持ちがとても伝わるドラム。

 実はこの部活の1年には俺と松下の他にもう1人ドラムの澤田という女子がいる。松下と同じ初心者だが、仲良しグループで入部してきたためあまり接点が無い。そして今日のライブを見ても松下ほど練習をたくさんした、というわけではない。5月のライブに比べると上達はしているがまだまだ初心者だ。


 1学年に3人もドラム担当がいるのは珍しいことだ。俺はいつまでもこの2人の目標でいなければならない。


「早くライブしてー!」


 美優のバンドのライブが終わった瞬間、その気持ちが沸々と湧いて出てきた。


「私もサックス吹きてー!」


 ちさとが叫んだ。俺と星峰、横田は大きな声で笑った。


「バスケしてー!」


「遊びてー!」


 もう音楽関係無いじゃん。でもそうだよな。やりたいことしたいよな。例えそれがどんなことだって、いつだってやりたいことをやりたい。だって青春真っ只中の高校生なんだから。


「美優、一緒に控え室行こう」


 俺は美優を誘って控え室に向かった。梨木の頑張りを讃えてあげたい。そう思い美優の手を引っ張って控え室に向かった。


 控え室に入ると、さっきまでステージにいた人たちがハイタッチをしていた。まだまだ熱が冷めないのだろう。ライブの後は誰だってこうなる。俺だって同じだ。その日の夜は眠れないような感覚になる。

 俺と美優がその姿を見ていると、梨木が俺たちに気づいた。


「どうだった…?」


 俺は黙って右手を上げてハイタッチのポーズをした。梨木もそれに合わせてハイタッチをした。それだけで全て伝わった。


「遥香ー!お疲れさまー!めちゃくちゃ良かったよ!!」


「ありがとうございます!すごく楽しかったです!」


「梨木ちゃん!めちゃくちゃ上手くなってるじゃん!俺もう惚れちゃったよ!」


「そうですか。ありがとうございます」


「やっぱり冷たい!けどそれがいい!」


 美優や部長が梨木を褒めている。それだけよかったという結果だ。そして、松下が俺に話しかけてきた。


「一ノ瀬、どうだった?」


「ん?すごくよかった。いつの間にあんなに上達してるんだよ」


「めちゃくちゃ練習したからな。おかげで手が痛い」


 松下の手を見ると豆だらけになっていた。きっとスティックを握るだけで相当な痛みがあったであろう。その中であれだけ叩けるのであれば、きっと自分自身でも成長を感じられたであろう。


「なあ、一ノ瀬。ドラムって最高に楽しいわ!今回いろいろ教えてくれてありがとうな!」


「だろ?めちゃくちゃ楽しいんだよ!俺も練習しないとあっという間に追いつかれそうだから頑張らないとな」


 俺は松下ともハイタッチをした。もちろんその後に手が痛いと悶えている姿を見てみんなで笑ったのもお決まりの展開だ。


 さて次は最後のバンドだ。今回も部長がトリをつとめる。みんなで戻って騒ぐ準備でもしようと思い、フロアに行くと珍しく澤田が話しかけてきた。


「あの…一ノ瀬…今度私にもドラム教えてほしい」


「お、おう。いいぞ」


「ありがとう。じゃ」


 ここにも1人感化された人がいるようだ。そして後ろから冷たい視線が2つ向けられている気がする。


「美優先輩、あいつ浮気するかもしれないんで気をつけたほうがいいですよ」


「そうだね。なーんか怪しい感じするね」


「無いから!」


 俺たちのやり取りを見て松下が笑っている。おい、笑い事じゃないぞ。お前は俺を助けろ。


 そして部長のライブが始まった。やっぱりステージ映えする部長の姿は誰よりもカッコよくて、誰よりも上手い演奏にみんなが憧れの視線を向けていた。


 今回のライブも無事終わり、みんなやり切った顔をしている。これが終わるとすぐに学祭の準備をしなければいけない。少しばかりの休日を過ごしたらすぐに取り掛かるつもりだ。


 先生から解散の号令がかかり、俺たちはそれぞれ帰路についた。俺は美優のベースを持ってあげて一緒に歩いた。


「今日の美優も最高にカッコよかったし、かわいかった。むしろ眩しかった」


「えへへー!ありがとう!どう?惚れた?」


「もうこれ以上無いってくらい惚れたよ」


「やったね!次は結人の番だよ」


「そうだな。でも一緒にライブ出るってなったら無理じゃない?」


「そしたらスタジオ入るたびにかっこいい姿見れるから嬉しいな」


 照れながら言う美優がかわいくて仕方がない。今日は美優の好きな食べ物をご馳走しようと思う。

 俺の家の近くまで来ると、家の前で1人待っている人がいた。


「美優先輩、結人。お疲れさまです。ちょっといいですか?」


 まるで俺たちを待っているかのように、ちさとが立っていた。

ご覧いただきありがとうございました。

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