ステレオ全開
「これっていきなりリハでやるレベルじゃねーだろ…」
部員の誰かがボソッとつぶやいた。本来なら盛り上がること間違いなしの選曲だがこれはリハだ。みんながジッとステージ上を見つめている。
そのギターから奏でる音はとても美しい音色を響かせていて
そのベースから奏でる音はとても丁寧且つ繊細で
そのドラムから奏でる音はとても重たくのしかかる
間違いなく部員全員の中でもトップの技術の演奏。ベースは顧問だけどこの際それは置いておこう。皆がそれぞれ自分のパートの理想はこれだと言わんばかりの演奏を俺たちはした。
「かっこいい…」
演奏が終わり梨木が言った。
「誰が?」
隣でニヤニヤしながら美優が問いかける。
「せ、先生です!…あと一ノ瀬も…」
「かっこいいでしょ。遥香には譲らないからねー」
「もう!またそんなこと言って!」
あの…みんな聞いてますよ?そして部長が名前呼ばれなかったから『あれ?俺は?』って悲しそうな目で訴えてますよ?
俺たちの音出しが終わると大きな拍手が向けられた。誰もが自分たちの出番のときを楽しみにして、やる気に満ち溢れている顔をしていた。
各出演バンドのリハが行われている中、俺は会場の外で先生と話していた。
「先生、何かわかりましたか?」
「一ノ瀬くんと梨木さんが思っている通りだったよ。やっぱりあまりいい状況じゃないみたい」
俺は先生に頼んで吹奏楽部の内情を調べてもらった。先生はこの容姿に性格も穏やかで学校の中では大人気だ。特に吹奏楽部の人たちには、「吹奏楽の顧問になってください!」と言われるくらい憧れの存在らしい。
先生は2年生と話す機会があったらしく、少しだけ内情を聞いてくれた。
・浮いている人がいる
・主に3年生から目をつけられている
・吹奏楽の顧問は我関せずの状況
・部内空気が悪くなるから辞めてほしい
先生が話を聞いているときはあまり深くは入ろうとせず、一旦話を合わせるだけにしたらしい。特定の名前は出てないが、知ってる人からしたら誰のことかわかる話だった。
「水科さん…のことでしょうね」
「ですね。わざわざ調べてくれてありがとうございます」
「でもこれは吹奏楽部の問題。私たちが口出しをしたら余計に拗れる可能性があるわ。辛いかもしれないけど、今は我慢するしかないと思うの」
「わかってます。俺はちさとが助けを求めてきたらすぐに動けるようにしておくだけです。そのために俺も梨木もいろいろと手を打とうとしてます」
「先生も自分の生徒が辛い状況なのを知れてよかった。一ノ瀬くんや梨木さんと同じように何かあればなんでも言ってね」
「ありがとうございます。それじゃあライブ、楽しみましょうか」
ライブハウスに戻ると各バンドのリハも終わりが近づいていた。俺は美優のところに向かい声をかけた。
「美優、お疲れさま」
「お疲れー!結人さっきはめちゃくちゃカッコよかったよ!」
「ほんと?部長とどっちカッコよかった?」
「ギリギリ部長かな?」
「本当に傷つくからやめて!?」
「あはは!そっちから聞いてきたくせに!結人よりかっこいい人はいないから安心して」
「美優よりかわいい人もいません」
美優と隠れて話しているとき、先生からフロアに集合の連絡がきた。部員が集まり先生の挨拶が始まる。
「皆さん、夏休みで忙しいのに今日を無事迎えられたことにまずはありがとうございます。5がつのライブから約3ヶ月経ち、あの頃初心者だった人もたくさん練習して日々上達していると思います。3年生は今日と学祭で引退となりますので、精一杯楽しんでください。1年生と2年生はしっかりと学べる部分を学んでください」
「「はい!!」」
「あと今日は前回のライブみたいな私の出番は無いので安心してください。それじゃあ今日も思いっきり楽しんでいこーー!」
「「おーーー!!」」
そして夏のライブが始まった。会場がオープンになると友達や家族、恋人がぞろぞろと入って来た。
「遥香ー!来たよー!」
ちさと、星峰、横田が3人で来た。今回は安達がバイトで涼太と山崎は部活らしく来れない。
「みんな来てくれてありがとう!楽しんでね!」
俺とも少し目が合って手を振ってきた。俺も手を振り返す。ちさとがどんな思いで今日ここに来たのか。少しでも音楽に対してのモチベが上がってくれたらいいなと思いながら手を振った。
1バンド目の演奏が始まり、俺はフロアの後ろの方でゆっくりと演奏を聴いていた。1年生で組まれたバンドは初心者が多いバンドだった。だけど5月のライブに比べてやはり上達している。みんなたくさん練習した成果が出ているのが嬉しかった。
もちろん「できない」「合わない」といった理由で辞めていった部員もいる。しかし今年は例年より辞める人が少なかったらしく、出演するバンドの数も多くて先輩たちは喜んでいた。
そしてライブも順調に進んでいたが、少しばかりの事件が起きた。美優のバンドメンバーのベースが早めに家に帰らないといけなくなったらしい。そのため順番が少し変わった。最後の前に出るバンドが梨木のバンドになり、美優のバンドが次に出ることになった。
急遽順番が変わったが、焦ることなくセッティングしている。俺は美優の前に行って精一杯応援しようと思った。
「美優先輩の前は譲らないから」
「はいはい。俺はその隣でいいよ」
なぜかケンカ腰の梨木が隣にいる。よし、この際一緒に美優のことを応援しようじゃないか。「せーの!美優ー!」と心の中で叫んだ。
「はーい!ちょっと順番変わってごめんだけどジュディマリのコピーやりまーす!」
「「わああああ!!」」
「それじゃあ1曲目聴いてくださーい!ステレオ全開!」
美優のライブを観るのはこれが初めて。俺はしっかりと目に焼き付けて、しばらくは眠れない夜を過ごすんだと決めた。
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