期待
『音を楽しむと書いて音楽という』という言葉がある。
私はいつだって全力で楽しみたいから練習だって苦じゃ無かった。中学の頃から誰よりも練習して、誰よりも楽しんできた。
もちろん部員全員が同じモチベーションってわけではないことはわかってる。それぞれの楽しみ方があるのもわかってる。
この学校の吹奏楽部は強豪じゃないことは知っていた。例え技術が足りない人が多くても、やる気があって頑張ってる人たちと一緒なら楽しく部活動もできたと思う。でも実際は想像していた以上だった。ロクに練習もしないで態度だけ大きな先輩。それにペコペコしてる1年。興味が無さそうな顧問。
私1人が頑張ってどうにかできる問題じゃないことはわかっている。
それでも何とかしたい。足掻いて足掻いてどうにかしたい。
その結果が拒否、拒絶、孤立。
私の居場所はここじゃない。でもここしか大好きなサックスを吹ける場所が無い。だから受け入れるしか無い。
そう、ただ我慢して受け入れればいいだけなんだ。
「いよいよ明日だね」
「美優のライブを見るのは初めてだから、すごい楽しみ」
「へへーん!惚れ直させてあげるよ!」
ライブ前日、美優が俺の家に遊びに来ている。キッチンテーブルに座り足をバタバタさせながらアイスを食べている。
今日は気温も高いため、かなり薄着で暑さ対策をしている。明日は大事な本番のため変なことはしないように意識していたが、チラッと見える柔らかな太ももと二の腕が俺の理性をどこかに連れて行こうとしてくる。
「結人、さっきから視線がえっちすぎるよ」
「ば、ばか!そんなことないから!」
「ほんとに〜?」
「明日本番なんだし、今日はそういうのしないよ」
「私はしてもいいんだけど?」
勘違いしないでほしいが、俺たちはいつもしてばかりというわけではない。もちろん高校生の男子の欲といえば猿にもなれそうな人もいるだろう。そこでいうと俺は…人並みとでも言っておこう。
「そんなこと言われたら俺だってしたくなる」
「じゃあいいじゃん…」
美優はかなり積極的だ。年上彼女だからなのか、リードするのが好きみたいだ。これから晩ご飯の準備とかしなければいけないけど、その前の運動ってことにしておきますか。
美優と遊ぶのは週に2回くらいだ。夏休みということもあり一緒に夜ご飯を食べたり、お泊まりしたり。今日は帰るが、明日はライブ終わった後に俺の家に泊まりにくる予定になっているため、今日のうちから着替えなどを用意している。
「早く明日にならないかなー!楽しみすぎて今日寝れなさそう」
「美優は最後の前だもんね。最後はまた部長だけどそれも楽しみ」
「そうだね。あーあ、いつか最後のバンドでやりたいなー」
「やっぱり最後って部長のバンドになるの?」
「基本はそうだよ。やっぱり上手だし最後って盛り上がるから」
「じゃあ来年は美優が最後のバンドになるんだな」
「だったらいいな〜。でも上手い人たくさん入ってきたりしたらわからないよ」
「それなら俺も一緒に美優と出るから最後は譲らないよ」
「今のはすごくかっこいい」
「照れるからやめて?」
美優を家まで送りながら未来の話をしている。『美優せんぱーい!』ってみんなから声援を受けて、手を振る姿が目に浮かぶ。そのステージに俺も一緒にいたい。もしできるなら、梨木も一緒に。あのときのライブのように。
そしてライブ当日
俺は出番は無いが準備の手伝いなどやることはたくさんあるので、集合時間に間に合うように会場に来た。前回と同じ『sing』のライブハウス。
遅刻する人もいなく、集合して先生の話を聞いている。
「はい、皆さん聞いてください。実は音出しのスタッフの方が体調を崩しているらしく、出来れば部員の中から少し手伝える人を募集しているみたいなのですが、誰かいませんか?」
みんながどうする?という顔をしている。恐らく曲をちょっとやるだけでいいと思うが、これからライブで披露する曲をここで見せたくないという気持ちがあるのかもしれない。
「ゆづちゃんの頼みを俺が断るわけない!」
そう言って高々と手を上げたのは部長だった。そうすると部長のバンドがやることになるため、最後の楽しみが少し減るのが残念な気持ちになる。
「あとドラムは一ノ瀬が今日ヒマだと思うのでやりまーす」
「え?」
みんなが俺に視線を向けた。
「ちょ、ちょっと…なんでそんな話に」
「えー!じゃあこないだのメンバー復活ってことでベースは先生やろうかな!」
あ、先生のスイッチが完全に入っちゃってますね。これはもう断れないやつですね。
「結人のかっこいい姿、今日は見れないと思ってたから嬉しい」
耳元で美優がボソッと言った。その一言で俺もスイッチが入った。
「やりましょう。何やりますか」
「3ピースだしハイスタとかどうよ」
あっさりと決まった。やっぱり部長はこういうとき最前線に立って引っ張ってくれる頼もしさがある。悔しいけど男らしいってやつだ。
みんなフロアに集まって音出しという名の前座ライブみたいなものが始まる。
ギター。ベース。ドラム。それぞれ音出しとマイクチェックが終わり、全体での演奏が始まる。
「じゃあ有名なやつでやりますか」
俺は少しフロアに視線を向けて美優がどこにいるのか確認した。最前列のど真ん中。梨木と並んで俺を見ている。いつになく緊張感が増していた。
左手はもう大丈夫。少しずつ叩いているからリハビリというなの感覚も戻っている。これで大丈夫な姿を見せて、美優と一緒に学祭出るんだ。
そして『STAY GOLD』の演奏が始まった。
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