誤魔化しと嘘
「ちさと」
その背中はいつもと違いどこか落ち込んでいるようにも見える。昨日気づいた吹奏楽部のちさとの立ち位置。詳しくはわからないけど、確かめなくてはいけない。だってちさとは私の大切な友達。大好きな友達で大好きな恋のライバル。
だからそんな顔しないで。
「遥香ー!おっつかれー!」
まるでオンとオフの切り替えスイッチがどこかにあるように見える雰囲気の変化。これはちさとの武器だ。今まで彼女に向けられてきた色々な感情が含まれている視線や言葉を潜り抜けてきたことで手に入れた武器。まずはこの武器を外すところから始めないといけない。
「お疲れさま。あれ?なんか元気なくない?」
「えー?そう?いつも通りなんだけどな」
「ねえちさと。今日これから予定ある?」
「ん?特にないけど…どうしたの?」
「たまには2人で何か食べに行かない?」
「行くー!」
こうして学校の近くにあるカフェに来た。そこまで広くは無いけど、古民家風のオシャレなカフェ。
「それで?突然どうしたの?」
ちさとが聞いた。普段から2人で出かけることが多いわけではない。4人グループだが、どちらかというとちさとは星峰と、遥香は横田と一緒に遊ぶことが多い。だからいきなりのお誘いは何かあると感じていた。
「たまにはいいかなって思っただけだよ」
「嘘ー。遥香は嘘だってわかりやすいんだから」
「ぐう…そんなにわかる?」
「ふふ…バレバレだよ?それで?結人のこと?それとも別?」
「別かな。あのさ、率直に聞くけどちさとは部活楽しい?」
その質問を聞いたちさとの体がビクッと動いた。そしてその反応を梨木は見逃さなかった。
「普通に楽しいよ?どうして?」
「そう。それならよかった。吹奏楽部ってコンクールとか無いの?」
「あるけど…でもつまらないと思うしさ、なんていうか…」
「でもちさとが吹いてる姿見たいから行きたい。いつあるの?」
「えーっと…」
ちさとは口を塞いだ。私が嘘をつくのが下手なのであれば、ちさとは誤魔化すのが下手だ。似ているようで違うもの。きっとそれは私たちのことを表しているのかもしれない。
「実はさ、私コンクールには出ないんだよね。だからみんなのこと呼ばなかったんだ」
「え?だってちさとってサックスの女神って呼ばれてたくらい上手なんじゃないの?」
「もう!その呼び方はやめてよ!だって私は遅くまでみんなと練習とかできないからさ、都合良くコンクールとか出れないよ」
「そうかもしれないけど、それにはちゃんと理由あるわけだし…。それに上手い人が出るんじゃないの?」
「うちの高校は基本的には3年生から順番にメンバーが選ばれていくんだ。もちろん1年生でも上手な人とかは出るけどね」
「だったらちさとだって出るべきだよ!みんなとたくさん練習できなくたってさ、これまてたくさん練習してきたんだから今の実力があるんでしょ?」
「それは…そうかもしれないけど…」
「確かにこれまで練習してきたことなんて、先輩たちには関係ないかもしれないけど、それでもいい結果残したいなら選ばれるものなんじゃないの?それとも何か別の理由とかあるの?」
私なりにスムーズに核心についたつもり。きっとたぶんだけどちさとは部活内で浮いている。じゃないと先輩があんなこと言うわけがない。でもこれはちさと自身の口から相談してくれないとダメなの。
「別に他には何も理由はないと思うよ」
だけどちさとはあくまでも多くを語らなかった。
それは相談をするのが良くないと思っているのか、それともちさとが悪いことをしているわけじゃないと思っているからなのか。
これ以上聞いても恐らくちさとは口を割らないだろう。だから今日はここまで。でも十分な収穫はあったと思う。
「わかった。じゃあとりあえずこれ」
「何これ?あ!今度のライブのチケット!?」
「うん。またみんなで見に来てよ。あ、一ノ瀬は出れないけど」
「行く行くー!楽しみにしてるから頑張ってね!」
「今度はちゃんと最後までいるように!」
「はーい!」
きっと遥香は何かに気づいているのかもしれない。ひょっとしたら先輩と話してるのを見ちゃったのかもしれない。
でもこれは私の問題。それに、私は自分が間違ってるとは思わない。これは私が自分で解決するんだ。絶対に負けないんだ。
辛いことは今まで何度もあった。でもその度に何度もぶつかってきた。だから今回も精一杯戦う。
「と、まあこんな感じ」
「そっか、お疲れさま。教えてくれてありがとう」
今日のちさととの会話を一ノ瀬に伝えた。
「先輩関係のことは何も言ってなかった。でもさ、一緒に練習する時間が少ないだけでメンバー外れるとかあるのかな?すごく上手いんでしょ?」
「俺もサックスとかは詳しくないけど、中学3年のときに聴いたときはめちゃくちゃ上手くてカッコよかった。でもコンクールとかはやっぱり部活の活動方針とかもあるし、上手い下手関係無しに先輩が出るっていうのもあるんだろうな」
「そうかもしれないけどさ!なーんか納得できないっていうか、ちさとがかわいそうっていうか…」
「まあ先輩のほうが上手いって可能性もあるし。もうちょっと調べないとだな。そういえばライブのチケットは渡した?」
「うん。気分転換にでもなればって思って渡したよ。みんなで来るっぽいから、一ノ瀬もみんなと一緒に見ればいいと思う」
「今回は俺も見る側だからな。梨木のベース楽しみにしてる」
「うん。たぶん春よりは上手くなってると思うから楽しみにしてて。それでさ…」
「ん?どうした?」
「もし、今度のライブ見て演奏良かったらさ…学祭一緒に何かやらない?」
「学祭か…まだ何も考えてないけど…。ていうか別に今度のライブ抜きにして一緒にやるのは全然いいんだけど…」
「じ、じゃあ約束だからね!でも微妙って思われても嫌だからちゃんと上手くできたら!よろしく!じ、じゃあね!おやすみ!」
恥ずかしさと喜びがバレる前に梨木は電話を切った。ライブに対してのモチベも上がったところでその日はゆっくりと眠りについた。
「さてと…俺は自分ができることを何かするかな」
寝る前にLINEを開き、電話をかけた。
「もしもし。まだ起きてた?」
「こんな珍しいこともあるんだね。どうしたの?」
「ちゃんと寝れているか心配になってさ。たまにはいいかなって」
「ふふ…嬉しい。じゃあ久しぶりに寝るまでお話ししよう」
「ああ」
ちゃんと美優には了承を得てからちさとに電話をした。
俺も友達が悩んでいるなら助けたい。誰だってそう思うのは当たり前なのだから。
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