光の結晶
俺が知っている息子はどちらかというと内向的な人間だった。友達がたくさんいるクラスの中心的存在ではなく、窓際で1人外を眺めているのが好きなタイプだった。
音楽のことを好きになってくれたことは嬉しかった。これまで運動や部活などもせず、毎日友達と遊んだりするわけでもない息子のことを少しばかり心配していた。
だから高校でもきっと同じだと思っていた。それなら札幌で新しい暮らしを始めてもいいと考えていた。将来のことも音楽のことも帯広にいるよりは札幌にいたほうが選択肢の幅も広がる。
だが今の結人は俺の知っている結人とは違う。高校生になり成長してるのだろう。友達もたくさんでき、彼女も作り、いろいろなことを自分でできるようになり、こうして大人になっていくのだろうと少しばかり寂しくなる。
「父さん、俺やっぱり札幌には行かない。いや、行けない。俺にはこいつらが必要なんだ。みんなと一緒に青春ってやつを過ごしたいんだ」
「だから何度も言ってるだろう。生活はどうするんだ。住む家は、生活は、学校はどうするんだ」
そうだ。結局その問題をクリアしないと俺の一人暮らしはできないのだ。みんなが来ても結局ふりだしに戻ってしまう。どうしたらいい、どうすればいいか考えるんだ。
「私がなんとかします」
みんなが彼女に視線を向けた。堂々している佇まいが似合う。彼女を差し置いて何言ってるんだと思う人もいるかもしれない。だけどもこの状況を打開できるのであれば猫の手だって借りたい。それができるのかどうか、意を決してちさとが口を開いた。
「君は?結人の友達かな?」
「はい。中学も同じでした。中学の頃はそんなに仲良くは無かったですけど、今は友達です」
「そうか。息子と仲良くしてくれてありがとう。だけどその友達の君がどうするんだい?」
「結人くんは私の弟を庇って事故に遭いました。だからずっとその恩を返したいと思っていました。もしこの家に住めないのであれば、私の家で生活してもらいます。それならいいですよね」
その場にいた全員がちさとの言葉に驚きの表情を隠せないでいた。もちろん俺も美優も。
「そんなことが許させるわけがないだろう。君の親御さんが許すわけがない」
父の言う通りだ。さすがに見ず知らずではないが、他人を家に住まわせることなどあるわけがない。さすがに無理がある案だということは俺でもわかった。
「いいえ。私には母がいません。弟はいますがまだ小学3年生です。だから賑やかになることは嬉しいです。それに父もずっと結人くんに恩返しがしたいと言っています。だからこの案は絶対に通ります」
「だが、現実的にそんなことが許させるわけが…」
父が初めて口を籠らせた。きっとちさとが言うことは本当なのだろう。俺が頼めばちさとの家族は俺を受け入れてくれるのだろう。だがしかし、それを頼んでしまったら1つだけ大きな問題が生まれる。
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結人がいなくなったら嫌だ。でも水科ちゃんの家に住むのも嫌だ。本当なら私がいうべきだった言葉だけど、私の家族は絶対に許さない。だって彼氏がいることも家族には伝えてないのだから。
また我慢しなければいけない。今までみたいに休みの前の日はお泊まりデートなんてできない。だけどそれは高校生なら当たり前なのかもしれない。もっと健全に、高校生らしい付き合いをしなくてはいけない。だけど、水科ちゃんと一緒にいることが嫌だ。嫌だよ。助けてくれることはすごく嬉しいけど、嫌だよ。
わがままで無力な自分が嫌だよ。
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「結人、この子はそう言ってくれているがお前はどうする?許可が出たら居候させてもらうのか?」
父が俺に対して問いかけた。確かに降ってきたような有難い話だ。父がどうすると言っていたことが全て解決する。そうしたら俺は札幌に行かないで済むし、みんなと…美優と一緒に過ごせる。
…だけど違うよな。そうじゃないよな。わかってるよ。俺の手を握る美優の手はずっと震えている。大丈夫だよ。俺を信じてほしい。
「ちさと、ありがとう。そう言ってくれてめちゃくちゃ嬉しいし助かる」
「じゃあ…」
父が何か言おうとしたとき、俺は話を続けた。
「だけど違う。それじゃあダメなんだ。結局誰かに頼らないと生きていけないんじゃ何も変わらない。頼る相手が父さんからちさとの家族になるだけだ」
美優の手の震えが強くなった。まるで行かないでと訴えているように。
「だけど父さん。俺はやっぱりここにいたい。みんなと一緒にいたい。だからお願いがある。俺が大人になって仕事をして稼ぐようになるまで、家賃とかそういうお金を貸してほしい」
これしかなかった。必死に考えたが今の俺1人ではどうすることもできない。みんなの協力は得られても、今すぐどうにかしないといけない問題があるのだ。
だから「貰う」のではなく、「貸し」だ。大人になってきちんと返す。あの時わがままを聞いてくれてありがとうと。
「まぁギリギリ合格だな」
父が少し黙って考えた結果、そう言った。
「正直ここでその子の案に乗るようであれば、絶対に許さないつもりだった。確かにお前の問題も全て解決できるいい話だが、それで悲しむ人がいるだろう」
父の視線は俺の隣の泣き虫に向いていた。みんなが美優に視線を向けると、何もできずただ泣いているだけの彼女がいた。
「小笠原さん、君が泣く必要は無い。決して君が無力だなんて思わないでほしい。人間というのは、無力で当たり前なんだから。家族、友人、恋人、先生といろんな人に助けられて生きていくのだから。それにその子の案というのは奇跡的なものだ。当たり前に出てくるようなものではない。だから、泣かないでくれないか」
「ぐすっ…はいっ…すみません…」
俺は美優の頭を軽く撫でた。みんな俺たちを見てホッとしている。
「結人。お前も大人になっているんだな。ちゃんと自分の大事な人のことを考えてどうすべきか考えている。だけど、自分の力だけではもうすることもできない問題だ。だからギリギリ合格だ。貸してやるよ」
みんなが父のセリフに喜びの表情を見せた。
「だが1つだけ条件をつける」
「なんだよ勉強か?それならしっかりやるよ」
「もちろんそれもそうだ。いいか、絶対に何年経っても思い出に残る高校生活を過ごせ」
俺はその言葉に胸を熱くさせた。いや、俺だけじゃない。きっとそこにいたみんなが同じ気持ちになっただろう。今この瞬間を、これから過ごす季節を時間を、大切にしなければいけないのだ。何年か経って、久しぶりにみんなで集まったときも笑えるような青春を過ごすことが大事なのだ。
「それから君。さっきは魅力的な案を出してくれてありがとう。名前を聞いてもいいかな?」
「はい!水科ちさとと言います!」
その瞬間、父の表情が変わった。
「水科…?申し訳ないんだが、さっき母がいないと…」
「はい。私が中3のときに出て行きました」
「そっか…辛かったね。母の名前は覚えてるかい?」
「はい。水科麻里です」
「…やっぱりか。うん、やっぱりそっくりだ」
「あ、あの…お母さんのこと知ってるんですか?」
みんな2人の会話に集中していた。
「ああ、麻里さんは俺が昔一緒にバンドやってたメンバーだったからな」
「「ええ!!」」
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