SNAKE EYES
その人を初めて見たとき、2人は一緒にいた。
その人と一緒にライブに出ることになったとき、その人は隣にいた。
「そう言われてみたら…外で会うときいつも一緒にいた気がする。てっきり顧問と部長で仲良しなのかと思ってたけど、そういうことだったんだ。ていうか美優は知ってたの?」
「うん。去年直接言われたんだ。先生のことが好きだから付き合うのは無理って」
「でもそれなら部長の片想いなんじゃ?付き合ってるってことには…」
「今年の冬にね、まだ私が1年だった頃に先生から直接謝られたよ。でも私は自分の恋が終わったとは思ってなかったんだ。彼女ができても私が好きでいるのは自由だって思ってた」
「なんかどこかで聞いたような話だな」
「そうだね。でも私は奪ってまで幸せになりたいとは思わなかった。だからどちらかというと遥香ポジションかな」
俺は何も言い返せなかった。ひょっとしたら美優はまだ心のどこかで部長のことを想っているのでは無いだろうか。
「美優、あのさ…」
そう口に出そうとしたとき、美優は俺に抱きついてきた。
「余計な心配しないの!本当にもう部長のことは何とも思ってない!私が好きなのは結人だけ。だからこうやって過去の話も何でもできるの。だって結人は受け入れてくれるって信じてるから」
ああ、また美優に溶けていく自分がいる。少しでも美優を疑った自分をどうにかしたいと思った。もし美優がいなくなったら俺はどうなるのだろう。知らない間に美優に依存してしまってるのではないだろうか。俺は少しばかりの不安を美優の温もりに触れながら噛み締めていた。
今日は美優と一緒にハンバーグを作ることにした。家で練習してきたようで、手際よく挽肉と玉ねぎを合わせて形を作っていく。
「こっちは私サイズで、こっちが結人サイズ〜」
俺のは少しばかり大きめに作ってくれている。こういった優しさを見せてくれるたびに好きという気持ちが大きくなる。俺はニヤニヤしながらキャベツの千切りに集中した。
「喜んでるところ申し訳ないんだけどさ、だいぶヤバい顔になってるから…笑うの我慢するの辛いんだけど…」
「これは愛情表現だから!」
「ありがと」
そう言って俺の頬にキスをしてくる。きっと今だけは誰よりも幸せなのは自分だと思い知らされる。だから溶けちゃうんだって…。
ご飯の準備も終わり、2人で仲良くご飯を食べている。練習したこともあってか、美優の料理は少しずつ上達しており、とても美味しい。
「やば!これめちゃくちゃ美味しい!」
「えへへ、練習したからね〜!でも美味しいって言ってくれて嬉しい」
普段スーパーやコンビニの弁当ばかり食べている俺にとって、手作りの料理というものは本当に美味しい料理に感じた。それも彼女が作ってくれる好きな料理なら尚更だ。俺も左手が治ったことだし、料理を勉強して美優に何か食べてほしいと考えた。
「美優は好きなおかずなに?」
「うーん、おかずっていうかオムライスが好き。ふわふわのやつ!今度食べに行こうよ!」
似合う。ふわふわオムライスという単語がとても似合う。そしてそれを食べてニッコリ顔の美優が簡単に想像できる。食べに行くのもいいけどコッソリ練習するレシピは決まりだな。
ご飯を食べ終わり、俺は洗い物をしていた。作ってくれた美優はBluetoothのオーディオから流れる音楽を聴いている。
「ねえ!この曲かっこいいね!」
「ん?なんて曲?」
「うーんとね、ロザリオス…?って読むのかな?『FASTER TALKING HEADS』って曲!」
「ああ、ロザリオスで合ってるよ。俺もすごく好き。かっこいいよ」
『LosaLios』とは歌が無いインストバンドだ。ロックやジャズといった要素を合わせたような曲が多く、俺の好きなドラマーのバンド。昔から1人でいるときのBGMとしてよく聴いていた。
「ふーん。この人たちの他の曲も聴いてみよっと」
美優が曲をいろいろと曲を変えていくうちに、少し考え込んでいる表情をしていた。洗い物を済ませた俺は美優の隣に座り、難しい顔をしている美優に話しかけた。
「どうしたの?そんな考え込んじゃって」
「え?あっと…かっこいいなって思って集中して聴いてた」
「わかる。かっこいいんだよな〜。ヴァイオリンとかサックスとかも入ったりしてさ、それがまたカッコいいんだ!」
俺は自分が好きなバンドが他の人が好きになることがとても嬉しい。これは俺だけじゃなく、誰にでも言えることだろう。久しく聴いていなかったこともあり、目を閉じて曲に集中する。すると自然と指でリズムを取っていた。こんな曲をコピーしてバンドでやれたら楽しいんだろうな、などと考えながら。
「ねえ結人、これ学祭で一緒にやらない?」
美優が提案をしてきた。俺はまさかそんなこと言われるとは思わず、飲んでいたお茶が気管に入りむせてしまった。
「ゴホゴホっ!いや、やりたいけどさすがに無理じゃない?インストって学祭とかじゃわからないだろうし、もっとPOPな曲とかじゃないと…。ていうか管楽器とかいないしさすがに」
「いるじゃん。前に約束したじゃん。みんなでやろうって」
「まさか…」
「そ・の・ま・さ・か!」
「いやいや!ちさとだって吹奏楽部の演奏あるだろうし、俺たちのライブに出るなんて無理だろ!」
「無理かどうかは聞いてみないとわからないじゃん。5月のライブメンバー再結成のときだよ!」
「てことは…もちろんベースは…」
「名付けてギスギスバンド!どうだ!」
「いや、それ自分で言うかよ…絶対そんなの嫌だから!さすがの俺でもお断りします」
「なんだよー!かっこいいからやりたいのに!じゃあいいやドラムは松下くんにお願いするもーん」
「駄々っ子かよ!」
まさかの発言で驚きはしたが、さすがに今回は断ろうと思った。理由はいくつかある。
まず、演奏レベルが非常に高いのと、高校生の学祭受けがいい曲では無いのだ。そういう場では有名な盛り上がる曲をやった方がいいと考えている。
次にちさとだ。さすがに仲良しとはいえ、吹奏楽部の人にお願いして出るというのはどうなのだろう。昔なら『サックスの女神』として出れば盛り上がること間違いなしだったので、可能だったかもしれない。だが、今の吹奏楽部内でのちさとの立ち位置が不明なので、先輩から良くない顔をされたりすると可哀想だと思った。
最後は俺だ。さすがにその3人とスタジオなんて入る度胸ありません。修羅場に飛び込む夏の虫ではありません。ごめんなさい。
そんな話をしながら夜も盛り上がり、俺たちは夏休みの夜のお泊まりデートを満喫した。
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