スパイラル
こんなはずじゃなかったよ。自分でも間違っていることはわかっている。でも私の気持ちは走り出したら止まらなかった。だってどうしても諦めきれなかったんだもん。
一緒に食べたご飯は美味しかった。
眠れない夜に電話してくれたときは嬉しかった。
大切な家族を助けてくれたことは忘れない。
だけど今日、私はこの気持ちと決別しなければいけないんだ。嫌だ…嫌だよ。また結人と一緒にいろんな話して、いろんなことしたいよ。だからお願い神様。どうかこんか私を許してください。
「さてと…ちさと、美優に言わなきゃいけないことあるだろ」
俺は出来る限り怒りを抑えて言った。まずは美優に謝ってほしい。それが無いと許すことはできない。
「謝る?なんで?何か謝らないといけないことした?」
ちさとは私何かしましたか?的な態度をしている。
「お前な…嘘ついて美優のこと傷つけただろ。何もしてないのにヤったみたいなこと言ったんだろ?」
「キスしたのに何もしてないって言うんだ」
「あれはお前がいきなりしてきたんだろ!俺はずっとやめろって言っただろ!」
キスしてしまったことはすでに美優も知っている。欲があってしたわけではないということも理解してくれたが、念の為きちんと言っておかないといけない。
「本当に?本当に嫌だったら私のこと突き飛ばしたりできたんじゃない?なんでしなかったの?左手だってだいぶ回復してるはずだし」
確かにそうだ。その気になればちさとが言ったような拒否の仕方もあったとは思う。でも流石に女子を突き飛ばしたりすることはできなかった。それは決してやましい気持ちがあったわけではない。その優しさがこの結果を生み出しているのに俺はそれを言うのがカッコ悪いと思った。
「ほら、黙ってる。美優先輩、本当は嫌じゃなかったみたいですよ」
これ以上美優を責めるのはやめてくれ。俺は自分が悪者になるのは嫌だ。だけどちさとが悪者になるのも嫌なんだ。そう思いながら黙って隣にいる美優を見た。今まで黙って俺たちの会話を聞いていた美優が少しだけ笑顔で話し始めた。大丈夫、任せてねと言っているように。
「それはね、結人の優しさだよ。別に水科ちゃんに好意があるから拒否をしなかったわけじゃない」
「そんなのわからないじゃないですか。あの時逃げていった人は黙っててください。美優先輩は結人の隣似合わないです」
水科ちゃんの冷たい表情。この表情に私は1度は逃げたかもしれない。けれどもう逃げないし負けない。何を言われても結人は渡さない。
「ねえ水科ちゃん。何でそんなに悪者でいようとするの?」
「は?別にそんなこと思ってないですけど」
「水科ちゃんがそういう態度でいるなら、私だってあなたの前で悪者になれるんだよ?」
「どういう意味…」
ちさとがそう言った瞬間、俺の唇に美優の柔らかい唇が重なった。俺は美優の行動の意味がわからなかった。
「ちょ…なんで!?」
「水科ちゃんだけじゃなくて私とのキスも嫌がるの?」
ああ…そういうことか…。美優のキスを断る理由はない。大好きな彼女とはキスだってその先だって何回でもしたい。俺は再度求めてくる美優のキスを受け入れて、優しく美優を抱きしめた。
「やめて…」
「やめない」
俺の唇から離して美優が言う。そしてまたキスをする。
「もうやめて…!お願いだから…やめて!!」
ちさとをチラッと見ると涙を流しながら俺たちのキスを眺めていた。俺はそっと美優の唇から離れて、もう大丈夫だろうと美優の頭を優しく撫でた。頑張った?偉い?といったようにニヤッと笑いながら俺を見てくる美優に「ありがとう」と小さく言った。
「ちさと、お前の気持ちは嬉しいよ。こんなかわいい人にこんなに想ってもらえることなんて無いだろうし」
隣にいる美優は俺をじっと見てきた。大丈夫です、美優のことしか見てませんからね。
「でも俺は誰よりも美優が好きなんだ。だからお前の気持ちに応えることはできない。何をされてもお前に気持ちが傾くことはない。だけど、だからと言ってちさとのことが嫌いになったわけじゃないんだ。この3ヶ月、いろんなことがあった。ちさとともいろんなことしたよな。それを全部無かったことにしたくないんだ。ちさととも友達でいたいんだよ」
ちさとは下を向きながら俺の話を黙って聞いていた。
「今回のことは美優にちゃんと謝ってほしい」
俺はもう一度、ちさとに言った。
「…ごめん…なさい」
小さな声で言った。恐らくちさとにも悪いことをしている自覚はあったのだろう。でも引けなくなってしまった結果だったのだ。
「いいよ。私だって水科ちゃんが嫌なことしたわけだし」
美優はちさとを許した。酷く傷ついたはずなのに許した。俺の好きな人が強い人でよかった。いや、強い人だから好きになったのだ。
「美優、1つだけお願いあるんだけどいいかな?」
「ん?なに?」
「絶対に変なことはしない約束する。気持ちが変わることも絶対に無い。俺は美優以外の人なんて考えられないってことを最初に言っておく」
「うん?照れる」
「う、うん。たまにはさ、ちさとの家でご飯食べたり、ちさとが眠れないときは電話したりしてもいいかな?」
ちさとは顔を上げた。それはちさとにとって何よりも俺に求めていたことだった。もう一度、もう一度だけあの日々を過ごしたい。それだけをずっと夢見ていた。
「いいよ。まあ私は結人にご飯作ってあげたりできないからさ、また体調悪くなっても困るしね!節度を守ってくれたら全然いいし、むしろ水科ちゃんお願いしていいかな?」
「なんで…こんなことしたのになんで!私のこと許せないはずなのに!2人ともなんで…そんなに優しいの…なんで…」
「言ってるだろ。俺ら友達じゃん。それに、悠太のことも心配だからな。あと…ご飯うまいし…」
隣からとても冷たい視線が向けられる。
「結人?やっぱりダメにする?」
「み、美優は俺と一緒に料理頑張ろうね!」
「はい、カチンと来ました。これはもう戦争です。今度めちゃくちゃ作って持ってくるから!」
「ごめん!でも美優と一緒にご飯作るの楽しいから!ほんと!」
美優がしょうがないな〜といった感じでデレる。ひょっとしたらチョロいのかもしれない。
「あはははは!ほんと見てられない!もう無理!私の入る余地なんて無かったんだね。美優先輩、完敗です。本当にごめんなさい。それに結人もごめんなさい」
ちさとは俺たちに深く頭を下げた。その顔は最近のちさととは違う、スッキリした眩しかった頃に戻っていた。
「水科ちゃん。見ててほしい。私の結人への気持ちを。この人なら任せられるって彼女になるから。水科ちゃんの気持ちを無駄にしないように頑張るから」
「はい。でも、何かあったらすぐに奪いますからね!結人も覚悟しておくように!」
ビシッと俺に向けて指をさした。美優もちさとも堂々としている。もう大丈夫だ。
「さてと…じゃあ邪魔ものは帰るとしますね!あ、結人ちょっといい?」
「ん?なんだ?」
ちゅっ
ちさとは俺の頬に軽くキスをした。
「ば、バカ!何するんだよ!」
「水科ちゃん?何したのかな?」
「いまはこれで我慢します。結人、美優先輩。末永く幸せになってろー!ばーか!」
そう捨て台詞を吐いてちさとは家を出て行った。俺たちは全ての問題が解決したことにホッとしてソファに座った。
「まぁ…いろあろあったけどありがとうな、美優」
「結人もお疲れさま。私さ、改めて結人のことが大好きなんだなって実感した。水科ちゃんじゃないけど、結人がいないとダメみたい。その…これからもよろしくお願いします」
美優はそういって俺に抱きついてきた。俺もそれに応えて抱きしめ返して、優しくキスをした。
「終わっちゃったな…」
空を見上げると日も暮れかけている。マンションのエレベーターを降りると遥香と結衣がいた。
「ちゃんとスッキリした?」
「結衣…それに遥香も…ごめんね。本当にごめんなさい」
結衣が抱きしめてくれる。頑張ったねって言ってくれる。遥香が頭を撫でてくれる。とても温かかった。
「わたし…わたしね、本当に好きだったんだ。でもダメだった…ごめんなさい…うわあああん」
「ちさと…私だって…」
ちさとは泣いた。遥香も泣いた。初めて味わう失恋という名のものに。諦めないといけないことに。そして、辛くても前を向かないといけないことに。
「2人揃って全く…。はいはい、よしよししてあげるからおいで!」
横田は2人を両腕で抱きしめて、頑張ったね、よく頑張ったと言いながら励まし続けた。
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