(dis)communication
私だって本当は信じたい。結人はそんなことする人じゃないってことはわかる。でも怖い。私に向けたあの敵意のことを思い出すと震えてくる。結人と付き合い続ける限り向けられるであろうあの敵意に私は耐えられるのだろうか。そんな弱気になる自分が嫌いだ。
「ふーん、意外とキレイにしてるんだね。そりゃ彼女いたら当たり前か」
横田が家の中を見回しながら言った。
「とりあえずソファにでも座ってて。飲み物入れてくる」
「あ、私ちょっとトイレ行きたい」
美優が言ってリビングから出て行った。
「ねえ、美優先輩大丈夫かな?明らかに何かあった感じじゃん。ちゃんと話せる?」
「ああ…でも何かあったときはフォローしてくれると助かる」
「私の手助けは高いからね。よろしく」
テーブルの上に飲み物を置いて、これじゃダメですか?という視線を送るが無視された。頼りにしてますよ、姉さん。
美優がトイレから戻ってきた。やはりどこか思い詰めているような感じがする。逃げないでちゃんと話すって決めたから、俺は正直に全て話す。
「えっと…まず美優に謝りたいことがあるんだ」
「…なに」
「昨日あったことなんだけど…」
そう話しかけた瞬間、美優は目を瞑り自分の耳を塞いだ。
「…やだ。やだやだ!聞きたくない!」
こんな美優を見るのは初めてだ。まだ何も話してないのに、何かに怯えている。どうしちゃったんだよ。横田が美優の正面に座って肩をポンと叩いた。
「美優先輩、一ノ瀬の話の前に私からいいですか?昨日、ちさとと何があったんですか?」
その質問をすると、美優は震えが止まらなくなった。
「また…また捨てられる…。やっぱり私は幸せになれないんだ」
俺は美優の隣に座り、美優のことを抱きしめた。正面でそれを見ている横田は少し恥ずかしそうな顔をしたが、うんと頷いた。
だけども美優の震えは止まらない。
「美優。辛い思いさせてごめん。でも俺は何があっても美優のことを捨てたりしない。約束しただろ。だからそんなこと言わないでくれ」
「嘘だ…だって…だって昨日水科ちゃんとしたんでしょ…」
「…でもあれは向こうがいきなりしてきただけだよ。それに俺は一切手を出してない。美優のことが大事だからやめてくれって言ったら帰っていった」
正直に言った。なんで知ってるのかなんてどうでもいい。だって隠しごとはしたくないから。
「嘘だよ!だって減ってたもん!さっき確かめた!」
「減ってた…?なにが…?」
俺は美優が何を言ってるのかわからなかった。美優は立ち上がって俺の手を引っ張って部屋に連れていった。そして、ベッド横のナイトテーブルの引き出しの中にあった箱を出した。
「嘘つき!してないって言うならなんで減ってるのさ!私だってバカじゃないからわかるよ!」
「は…?いや、本当にそれは何で…。まさかあいつ…」
「決まりだね」
ドアのところで立って見ていた横田が言った。
「美優先輩、昨日ちさとに会いました?」
「会ったよ、ここで!」
「ここで?いや、美優いつ来た…?」
「結人がシャワー浴びてるとき。驚かせようとして来たの。チャイム鳴らしたら水科ちゃんが出た」
俺は嫌な予感がした。
「そしたら…結人はすることしてシャワー浴びてるって!信じたくなかったよ!昨日はショックで帰っちゃったけど、ちゃんと確かめないとって思ってさ、今日来たら今度は横田ちゃんといるし…」
チラッとドアに立つ横田を見た。横田は手を振って「違いますよー」とアピールしている。
「それは違うってわかったけど!でも!昨日水科ちゃんが減ったから買っておけとか言って…だから確かめたらわかると思って!そしたら本当に減ってたから…ああ、本当だったんだなって…」
嘘だ。これはちさとがついた嘘だ。俺は決してそんなことしていない。だが俺は何を言えば信じてもらえるのだろう。考え込んでしまった。
「そういうことか。ちさとの言ってた攻撃って美優先輩にだったんだ」
横田がそう言いながら部屋の中に入ってきた。
「私は本当のことはわからないです。これから話すことは想像だけど聞いてください。美優先輩はちさとに騙されてます」
「どういうこと…」
「一ノ瀬、なんでシャワー浴びてたの?」
「昨日暑かったから、汗かいてて気持ち悪かった。だからちさとは気にしないでシャワー浴びていいって言って、それで」
「うん。そんなとこだろうね。それでその間に美優先輩が来たと。たぶんちさとは2人をケンカさせて、その間に結人を自分に振り向かせようとしたんだろうね」
「なんでちさとがそんなこと…」
「は?あんたのことが好きだからに決まってるじゃん。ちさとは諦めきれてないんだよ。美優先輩だってわかってて付き合ってるんですよね?ちさとと遥香の気持ち」
美優は下を向きながら小さく頷いた。
「でも一ノ瀬が選んだのは他の誰でもない美優先輩なんです。だから堂々としててほしいです。それに、一ノ瀬は美優先輩のこと捨てたりしないと思います。ていうかそんな度胸無いと思います」
おい、俺いまなんかディスられてない?『そうでしょ?』といった視線を送ってくる。
「一ノ瀬、さっき言ってたことが本当なんだよね?一ノ瀬からは何もしてないんだよね?」
「ああ。シャワーから出たらちさとがいなくて、部屋に入ったらいきなりキスされた。でも断ってちゃんと美優が好きだからって言ったら帰っていった」
「美優先輩。こいつバカなんですよ。普通ちさとみたいな人に迫られたらしちゃいますよ?でもちゃんと断るバカなんですよ。それぐらい美優先輩のことが大好きなんですよ!美優先輩は一ノ瀬とちさとの言うこと、どっちを信じるんですか!」
横田が美優の肩を掴みながら強く言った。そして、それだけで充分だった。
「う…うわああああん!結人…ごめんなさい…ごめんなさい」
俺はもう一度美優を抱きしめた。今度は美優も抱きしめ返してくれた。とりあえず美優のことはもう大丈夫だ。俺もしっかりしないといけないと改めて思い知らされる出来事だった。
「あのさ、何か解決したみたいな感じで今から始めようとしてるところ申し訳ないんだけど、私いるからね?」
俺たちはハッとして恥ずかしそうに距離をとった。
「あと、このままやられっぱなしって訳にはいかないよね。ちさとには少し痛い目みてもらわないと…私が許せない」
横田が悪い顔をしている。
「一ノ瀬、協力して。美優先輩も。今回の問題はちゃんと最後まで解決したほうがいい。じゃないと今度は何してくるかわからない」
それは一理あると思った。俺だけじゃない。美優にまで危害を加えてくるのは許せない。俺が守るんだ。
「具体的に策があるのか?」
「とっておきのがありますよ。お代官様」
どう考えても悪代官なのはそっちだろうと思ったが、言わないでおこう。
そして、俺たちの反撃が開始された。
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