とおりゃんせ
次の日になっても美優からのLINEは返ってこなかった。いつもなら朝におはようってLINE来るけど体調でも悪いのかな?と心配していた。
学校に着き、いつも通り安達と話していると「おはよ」とちさとが言ってきた。昨日のことを思い出して少し気まずさがあるが、周りに知られる訳にはいかないため、なるべく普通に接することにした。
その日のちさとはいつもと違った。移動教室のとき、昼休み、放課後と明らかに俺の近くに来るようになった。
「なんだよ、俺らと昼ご飯なんて珍しいじゃん」
山崎がちさとに言った。
「たまにはいいでしょー!いつもどんなこと話してるの?」
そんな会話をしているが、俺の頭の中は美優のことでいっぱいだった。返信が来ない。あれから『大丈夫?体調悪い?』とか送っても既読がつかない。とりあえず部活に行けば会えるだろうと考えていたが、どこか嫌な予感がする。
「大丈夫?何かあった?」
ちさとが俺に声をかけてきた。
「いや、なんでもない」
ちさとに知られるのは良くない気がする。今のちさとはどこか恐怖を感じるような雰囲気をしていた。
「ねえ、今日のちさと何か変じゃない?」
3人で昼ごはんを食べているとき、横田が言った。
「なんかさ、明らかに一ノ瀬のこと意識してるっていうか。昨日みんなで図書館行ったんでしょ?何かあったの?」
「うーん、特には無いよね?終わって普通に解散して2人で帰ったよ」
梨木と星峰は顔を合わせながら確認し合いながら言った。
「だとしたらその後に何かあったのかも。だっておかしくない?今までこんなこと無かったよね?」
「まあ…確かにそうかも」
「確かめてみるしかないね」
そう言って教室に戻ってきたちさとを横田はちょっといい?とトイレに誘った。
「なんか今日のちさといつもと違わない?なんていうか一ノ瀬の近くに少しでもいようとしてる感じするよ」
鏡の前で髪を整えながら横田が言った。隣にはやっぱりその話か、と明らかにつまらないような表情をしているちさとが立っている。
「うん。そうだよ。少しでも結人と一緒にいれるようにしてる」
鏡越しにちさとを見た。いつも通りの笑顔を振り撒いているがどこか違う。横田はいつも周りのことを見ているため、変化には敏感だ。
「いやいや、どういうこと?あいつ彼女いるし大丈夫なの?」
昨日、みんなの知らないところで何かあったことは確信に変わっていた。だから恐らく今のちさとにとってタブーである『彼女』というワードを敢えて選んだ。さて、どうなるか。その表情に変化は出るのか。変わらず鏡越しにちさとを見続けた。
「思ったんだけどさ…彼女できたから諦めるって違うんじゃないかなって。みんなおめでとうって祝ってさ、私もそうしたよ。でも違う。絶対違う。だってそれじゃあ私の気持ちは?私は幸せになれないの?結人と美優先輩が幸せならそれでいい?いいわけないじゃん。なんで私はそこにいないの?」
ちさとの表情は変わらなかった。笑顔を崩さず、淡々と話していた。横田はそれが少し気に食わなかった。
「確かにそうかもしれないけどさ、今じゃないんじゃない?一ノ瀬が美優先輩とケンカしたとか、別れたとか。そういうときに支えてあげるとかじゃダメなの?ていうかそんなくっついてる姿を美優先輩が見たらいい気分しないよ」
「そんなの知らないよ。美優先輩とかどうでもいいし」
横田は直接ちさとを見た。こんなこと言う人じゃない。こんなちさと見たくない。だから言うんだ。
「それ、遥香の前でも言える?あの子は大好きな先輩だから、幸せになってほしくて一ノ瀬のこと諦めたんだよ」
その瞬間だった。隠していたちさとの表情が出た。あまりにも冷たく恐ろしい表情に思わず震えてしまいそうだ。
「遥香の前で?言えるよ?だって逃げただけじゃん。自分の幸せを掴もうとせず逃げただけの人なんていくらでも言える」
思わず横田はちさとの胸を掴んだ。
「逃げたんじゃないよ!どれだけ苦しんで諦めたと思ってるんだよ!どれだけ…一ノ瀬のことが好きだったかわかってるのかよ!」
それは横田の必死の叫びだった。友達を想うその叫び。だけどもちさとの表情は何も変わらない。
「だから言ってるじゃん。そんなの私だって同じだよ。遥香は逃げた。私は戦う。それだけ」
ああ…何を言っても無駄だ。きっとちさとのことをどうにかできるのはあいつしかいない。そう思い手を離した。
「いきなり掴んでごめん。最後に1つ聞いてもいい?」
「いいよ。なに?」
「昨日何があったの?」
「うーん…攻撃と癒しかな」
どういうこと?と思ったが、恐らく話してはくれないだろうと考えて「教室戻ろっか」と言った。
「あ、勘違いしてほしくないんだけどさ。私、みんなこと嫌いになったとかじゃないから」
「私はあんたが少し怖くなったよ」
そして2人は教室に戻った。横田は放課後、一ノ瀬と話すことを決めた。
放課後、俺は梨木とちさとの3人で部室まで向かった。変わらず返信が無いことに不安を抱きながら歩いていたため、何を話していたか覚えていない。
「じゃあまたね」と言ってちさとと別れて俺たちは部室に行ったが、美優の姿は無かった。2年の先輩に聞くと今日は学校を休んだらしい。風邪でもひいたのだろうか。連絡できないほど辛いのだろうか。心配がどんどん大きくなる。
「梨木、悪いやっぱ今日帰るわ」
「え?う、うん。バイバイ」
俺は急いで玄関に言って帰ろうとした。
「一ノ瀬」
名前を呼ばれて振り返ると横田がいる。
「おう、急いでいるからまたな」
そう伝えると横田が言った。
「昨日ちさとと何があったの?」
なんで知ってるんだ?ちさとが言ったのか?俺はその言葉を聞いて足を止めた。
「ちさとが何か言った?」
「言ったけど意味がわからなかったから、一ノ瀬に聞いてる。急いでるなら帰りながら教えて」
どう話せばいいのだろうか。全てを話していいのだろうか。悩みながらチラッと横田を見る。どこか大人っぽい横田は俺が何か言うのをただ黙って待っている。
「あのさ、ちさとのこと嫌いにはならない約束できる?」
「内容次第。約束はできない」
そりゃそうだよな、と納得したが俺は全てを話すことにした。なぜなら横田は信頼できるから。美優と梨木が付き合ったことを話すときも一緒にいてくれた。俺は横田がちさとのことを嫌いになることは無いと信じて話した。
「…と、まあこんなところ。正直俺もなんでちさとがあんな行動をしたのか意味がわからない」
話し終えたところで降りるバス停に着いたので、「じゃあ今日はこれで」と言ってバスから降りると、横田も一緒に降りてきた。
「え、俺もう帰るんだけど…」
「だってまだ話終わってないもん。一ノ瀬の家で続き話そ」
「いや…お前さっきの話聞いてた?しばらく女子を家にあげたくないんだけど」
「私のこと女の子として見てくれてるんだ。嬉しい」
「はあ…じゃあ美優のこと協力する約束してくれるならいいぞ」
「いいよ。ギブアンドテイクね」
そしてまた2人で歩き出した。家に着くまでの間も昨日の話は続いていた。
「でもおかしいんだよね。さっきの話を聞く限り癒しってことは理解できたけど、攻撃は何だろう?キスしたことかな?」
「ちさとは何て言ってたの?」
「攻撃と癒しって言ってた。もし、一ノ瀬を押し倒してキスしたことが攻撃ってことになるなら、癒しの部分が謎。それがちさとにとっての癒しってことだったら、今度は攻撃が謎」
「その行為がどっちも同じ意味ってことは無い?」
「うーん、それならわざわざ分ける必要ないと思う。一ノ瀬に攻撃した、癒された、でいいと思うんだよね」
考えてもわからない。とりあえず俺は美優のことを考えることに切り替えようと思った。
「ふーん、ここが一ノ瀬の家なんだ。それで?ちさとの家はどこ?近いんでしょ?」
「ああ、あそこがちさとの家」
「マジでご近所さんなんだ…」
「あのさ、昨日の今日だからあまり長居はしないでくれると助かるんだけど…あと、まずは美優のことどうしたらいいか考えるの手伝ってほしい」
「いいよ」
そしてエレベーターのドアが開くと俺の家の前に美優がいた。
「美優!」
夢じゃない。なんでそこにいるのかわからないが、ただ今は美優を抱きしめたい、それだけだった。走って美優の元へ向かい抱きしめようとしたときだった。
バチン!
俺の頬に痛みが走った。美優は涙を流しながら俺を拒否した。
「今度はその子?最低だね。さようなら」
それだけ言って美優は帰ろうとした。
は?なんで?そりゃ昨日あんなことあったけど…ちゃんと断ったし、言えなかったのは悪いと思ってるけどこれで終わりなの?去ろうとする美優を追いかけたいがどうしたらいい?頭の中が真っ白になる。
「はい、ストーップ」
そう言って横田が帰ろうとする美優を遮った。
「なに?どいて」
「なんかいろいろと勘違いしてそうなんで。まず私はあいつと何もありません。ここに来たのも今日が初めてだし、あいつがあなたのことが心配で悩んでたからです」
「そんなの嘘かもしれないでしょ。そうやって家に連れ込んで何かしようとしてるかもしれないし」
横田の顔が明らかにムッとした。
「ちょっと言葉悪くなるんで先に謝っておきますね。ごめんなさい」
「は?」
「自分の彼氏のことぐらい信じてやれよ!あいつがそんなことする奴だと思って付き合ってるのかよ!あんたの好きっていうのはその程度のものなのかよ!」
「………」
「その程度の想いで付き合ってるなら…!譲れよ!遥香に!ちさとに!ふざけんなよ!」
その言葉は美優の心に刺さった。美優は震えながらずっと泣いている。そして、それは俺の心にも響いた。真っ白になってる場合じゃない。ちゃんと話さないといけない。
「美優。話があるからとりあえず中に入ってほしい。横田、ありがとう。できれば一緒に聞いてほしい」
「私はいいけど、美優先輩はどうしますか?」
その質問に対して美優はゆっくり頷き、3人で家の中に入った。
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