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session  作者: 北稲とも
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長い夢

 自然と2年生の教室に向かって走っていた。


『絶対嘘だ…!だって先輩は…美優先輩は私の味方だって言ってくれてた…!彼女ができたって違うよね?美優先輩じゃない、私の知らない誰かだよね?フラれたって言ってたもんね?違う!違う違う違う…!』


 美優先輩のクラスの教室の前に着いた。美優先輩がいるかドアから覗くがよく見えない。そして気づけば隣に結衣が私の肩に手を添えていた。


「あれ、1年?誰か探してる?」


「あの…美優先輩…いますか?」


「ああ、軽音部?ちょっと待ってな、おーい!美優!後輩が来てるぞ!」


「ん?後輩?誰だろう…あ…」


 私の目を真っ直ぐ見てくるその視線は何かを訴えているのがすぐにわかった。『そっか、結人は伝えたんだね。あとは私が頑張る番だね』そう思い、ドアに立つ2人の前に向かった。


「あ、あの…美優先輩…?聞きたいことがあるんですけど…」


「うん。私も話さないといけないことあるから、あそこの空き教室行こうか。えっと…結衣ちゃん?も一緒に行く?」


 横田結衣は「うん」と頷き、梨木と一緒に小笠原先輩と空き教室に入った。


「あ、あの…一ノ瀬が彼女できたって話をしてて、こないだあんなことあったから…それで…」


 梨木は明らかに混乱していた。何をどう話せばいいか定まらないまま走ってきたから当然だった。


「そっか、結人から聞いたんだね」


 その言葉を耳にした瞬間、2人は驚きの表情をした。


「え…いつもいっちーって…結人…?」


 嘘だ嘘だ嘘だ。お願いだから嘘だと言って。いつもみたく、『なーんて、冗談だよ』って言って。


「遥香、ごめん。もう遥香に協力できない。結人の彼女になったから」


 頭の中が真っ白になった。嘘じゃないんだ。これは夢でもない、現実の話なんだ。


「いつから…いつから私を騙してたんですか!いろんなこと相談して!いつも励ましてくれてたことも全部嘘だったんですか!」


 痛い。心が痛い。きっと何を伝えても傷つけるだけなのだろう。それでも私は伝えないといけない。このかわいい後輩を傷つけなければならない。だって約束したから。大好きな人に任せてと言ったから。


「嘘じゃない。遥香に幸せになってほしいっていつも思ってた。意識し始めたのは事故があった頃だと思う。結人と一緒にいる時間が増え始めてから、遥香も水科ちゃんもなんで好きになったんだろうって思いながら彼を見てみたんだ。遥香はさ、私がずっと橘部長のこと好きだったこと知ってた?」


「直接聞いたわけじゃないですけど…前のライブでスタジオ入ったときのやり取りとかでなんたなく…」


「そういえばそんなことあったね。あのライブの後に部長に告ってフラれてるんだ。でも忘れられなくてさ、最後に部長のバンドのライブを見て忘れようって。それで結人を誘って見に行ったの。それがデートだった」


 梨木と横田はただ黙って先輩の話を聞いている。


「結人はね、ずっと私が部長のこと好きだったこと知ってた。私が遥香のことを励ますように、私のことを励ましてくれてたんだ。最初は優しい後輩だなってぐらいだった。そんなとき、あの事故が起きたの。ああ、きっとこの人は好きな人を全力で守ってくれる人なんだろうなって思い始めた。そして、怪我の世話とかしてるうちにだんだん遥香や水科ちゃんを羨ましいと思い始めた。頭の中ではダメだってわかってるのに、どんどん気持ちは大きくなっていった」


 小さく息を吐いて、ただゆっくりと続けた。


「私ってさ、叶わない恋をするのが得意なのかもしれない。ずっと想ってた人にやっぱりフラれて、次に気になった人は私が大好きな後輩が好きな人なんてさ。さっき言った通り、最初は部長を忘れるためのデートだった。でも違った。これっきり、1回だけだからデートさせてって思って誘った。それが良くなかったのかな、欲が出ちゃった。もっと一緒にいたい。あの2人じゃなくて私のこと選んでほしい。ああ、やっぱり私も結人のこと好きになったんだなって自分の気持ちに気づいたんだ」


「でも…一ノ瀬の告白はフったんですよね…?」


 梨木が下を向きながら言った。横田は「えっ?一ノ瀬が告ったの?」といった表情で梨木と美優先輩を交互に見た。


「そうだね。まさか結人が私のことが好きだなんで思ってなかった。君たち2人のどちらかとくっつくと思ってたから。告白されたときは本当に嬉しかった。選んでくれた!って思ってはしゃぎそうになったけど、同時に君たちの顔が浮かんだ。これは裏切り行為になるんじゃないかって。だからすんなり受け入れることができなかった。私が我慢すればいい。誰も傷つけたくないって思った。でも違った。どんな答えを出しても誰かは傷つくことなんだよね。天秤にかけたわけじゃないけどさ、私が1番好きな人が傷つくのは見たくない。私が守ってあげたい。そして私のことも守ってほしい。だから…選んだ。ごめん」


 少しの間沈黙が流れた。横田はずっと梨木の背中をぽんと叩いている。


「じゃあ…2人とも…好き同士で付き合ったってことなんですよね。幸せなんですよね」


 梨木が泣かないように必死に言葉を吐き出した。


「うん。少なくとも私はすごく幸せ。結人も…幸せだったらいいな」


 美優が遠くを見るように話した。


「一ノ瀬も幸せですよ」


 ずっと梨木を支えていた横田が言った。


「遥香、ごめん。そりゃあ遥香のこと応援してたからさ、こんな結末になってビックリした。でもさ、ハッキリ言っていい?今回の話はさ、さっさと自分の気持ちを伝えなかった遥香にも、ちさとにも悪いところあったと思うよ。別に美優先輩が奪ったとかじゃなくてさ、一ノ瀬が好きになった人に告白して、それが実は両想いだったから付き合うって別に変じゃないと思う」


 横田は冷静に言った。その言葉に2人は口を開けてポカンと聞いていた。


「私は当事者じゃないからこうやって言えるのかもしれないけど、結ばれた2人を応援したいよ。その相手が遥香じゃないってのは確かに悲しいけど、美優先輩ならきっと一ノ瀬のこと大事にしてくれるだろうし全然任せられると思う。今は辛いかもだけどさ、祝福してあげようよ。遥香だって美優先輩のこと嫌いになったわけじゃないしょ?」


「そんなの…嫌いになんてなれるわけない…!だっで…わたじの…憧れの先輩だもん…!」


「遥香…」


「美優先輩、そんなわけで一ノ瀬のことよろしくお願いします。あいつ色々と大変みたいなんで、手がかかるかもしれないけど何かあったら相談には乗ります。ほら、遥香もちゃんと言うことあるでしょ!」


 誰もよりも大人だったのは横田だった。いつも冷静に周りを見ていたこともあり、こういった判断がすぐにできた。


「美優先輩…まだ負けたわけじゃないでずがら!グスっ…一ノ瀬のこと不幸にしたら許さないですし、すぐ奪いますがら…!それと…おめでとうございます!!」


 梨木は泣き顔でぐしゃぐしゃになりながら祝った。今回は負けた。でもまだ勝負は続くんだ。新しい恋を見つけるまで、私はずっと一ノ瀬のことを想っているだろう。それぐらい許してくれてもいいよね。

 梨木と小笠原先輩は「ごめんね」と言いながらハグをした。最悪な展開にならなかったのは横田のおかげだろう。


「と、まあこんな感じで収まったけどいいかな?一ノ瀬」


 横田が言うとドアが開いて照れくさそうな顔をしている一ノ瀬が教室に入ってきた。


「まあ…その…なんていうかサンキューな」


「結人!?なんでここに…?え、ずっと聞いてたの?」


「途中からだけどね…。美優、ありがとう。そして梨木も…ありがとう…?」


「なんで疑問系なんだよ!祝ったんだから心からありがとうって言え!」


「あ、ありがとうございます!」


「ったく…世話が焼けるよね。ここに入ったとき一ノ瀬にLINEしておいたんです。修羅場になったら私だけだと不安だから入って来いって」


 そう、横田の機転により最悪な事態は起こらなかったが、いざという時の保険はかけておいた。結果として丸く収まったが、今回は頭が上がらない。


「そんなわけで、今度一ノ瀬と美優先輩にはカラオケを奢ってもらおうと思います!もちろん全員分!ごちそうさまでーす!」


「ええ!そんなの聞いてない!」


「私たちだって付き合ってるの聞いてなかったんだからこれでおあいこだね!」



 こうして俺たちが付き合っていることはみんなに伝わった。心配していた最悪の結果にはならず、祝福される結果となった。


 これからはコソコソせず堂々と美優の隣を歩けることに喜びを感じながら、横田と別れを告げ俺たちは3人で仲良く部室に向かった。


ご覧いただきありがとうございました。

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