幸せと迷い
何事もなく1週間が経ち、土曜日を迎えた。
今日は付き合ってから初めて美優とデートをする約束をしている。そう、お決まりの映画館デートというやつだ。
美優が観たい映画があるとのことで、一緒に行くことになった。流行ってる恋愛系の泣けるストーリーらしい。あまり見ないジャンルだが、付き合ってから初めてのデートなのでとても楽しみにしていた。
前回は俺が遅刻したので、今日は待ち合わせ時間の30分前に着いた。早く来すぎたが遅刻するよりはいいだろう。美優が来るまでベンチに座り、音楽を聴きながら待つことにした。
「結人ー!」
かわいらしい柄のワンピースを着た美優が手を振りながら来た。
「遅くなってごめん。待った?」
「全然。まだ10分前だし」
「だってこないだは誰かさんが遅刻したからね!」
「う…その節は申し訳ございません…」
「なーんてね!さ、行こ!」
美優が俺の手を握ってくる。俺もその手を握り返し、一緒にすぐ近くの映画館まで歩いた。映画館に着きチケットを買い、ポップコーンと飲み物を買って俺たちは席に座った。
「やっぱり映画といえばキャラメルだよね!」
「実はあんまり映画館って来たことないさ。小さい頃に親と来たことあるけど、あまり覚えてない」
「そうなんだ!私は結構来るから、じゃあこれからたくさん連れてこよーっと」
「あのさ、美優」
「ん?なに?」
「いや、めちゃくちゃ幸せだなって」
「ばか。恥ずかしいじゃん」
夫婦だろうか。後ろにいる大人の男女がニヤニヤしながら俺たちを見ている。
「いいねー。初々しくて」なんてセリフが聞こえてきた。俺も恥ずかしくなって予告が流れてる画面に集中した。
そして映画が始まり俺も美優も集中して見ている。たまにポップコーンを取ろうとするときに手がぶつかったりしてドキっとする。スクリーンの中でカップルがいちゃいちゃするシーンが流れ、いつか俺もこうやって美優とすることがあるのだろうか。
あの時はただ勢いに任せていた感じがあったから、ちゃんと好きという気持ちを確かめるように行為を行う。そんなことを考えていると、美優が俺の手を掴みポップコーンの位置へ運んでいく。もっと食べてほしいのかな?と思いポップコーンを手に取ると、その手は美優の口元に運ばれた。美優の柔らかい唇に指が触れる。映画のワンシーンで行われている行為と比べると子供みたいなことだが、俺には十分だった。何回か繰り返しているうちに、美優が俺の指をペロっと舐めてきた。
そこから先はもう映画には集中できなくなってしまった。
そして映画も見終わって、カフェに来た。
「映画どうだった?」
何か思うことがあるようなニヤニヤした顔で俺に聞いてくる。なんて答えるかわかっているようだ。
「誰かさんのせいで途中から全然集中できなかった」
「なんで集中しないのかなー。すごくいい話だったのに!」
「いや、美優があんなことするから!いろんなこと思い出したり想像したり…」
「ストップ。い、一回落ち着こうか?」
「あ、ごめん。次映画行くときはさっきみたいなの禁止だから!」
そんなやり取りをしたあと、デートは終わり俺の家に来てライブの曲決めを手伝うことになった。
「おじゃましまーす」
俺の家に来るのも慣れてきたのか、鞄を置くとすぐにソファでごろんとしている。好きな人が家にいる空間がたまらなく幸せを運んできてくれる。
「どうしたの?そんなとこに立って」
「いや、なんか幸せすぎていいのかなって思って。普通なら親がいたりして気まずいとかあるじゃん?そういうのもないし、2人っきりでこうして一緒にいれるのが本当に幸せなんだ」
「結人…私もすごい幸せだよ。結人のおかげ。ありがとう」
そう言って俺たちはキスをした。優しいキスだ。
「あ、そうだ夜ご飯はどうする?一緒に食べれる?」
「何か頼む?またピザだとちょっと飽きるよな。うーん、正直美優の手料理食べてみたい…」
「ええ!私の手料理…?うーん。実はですね、料理だけはあまり通って来なかったわけでですね、お腹壊しちゃうかもだし…その…水科ちゃんの美味しいご飯食べてたなら比べられるとヘコむし…」
「そんなことするわけないだろ。俺も料理は苦手だからさ、一緒に作らない?って言っても片手だからあまり手伝えるかわからないけど…」
「面白そう!それなら作る!じゃあメニューは…」
俺たちは口を揃えて「カレー!」と言った。初めての共同作業はもちろんカレーだとずっと思っていた。そうと決まれば曲決めはご飯を食べながらにしよう。2人は近所のスーパーに買い出しに行くことにした。
カレーには何を入れるかなどの話で俺たちは盛り上がっていた。その家庭によって変わるのがカレーだ。今回は美優の家のカレーに合わせることにした。材料を2人でカゴに入れている姿は、同棲しているカップルのように見えるだろう。カレールーをどれにするか悩んでる姿を見て俺はこの時間がずっと続いてほしいと思いながらただ美優を少し離れたところから眺めていた。
「結人兄ちゃん!」
その声は後ろから聞こえた。振り返ると悠太くんがいた。そして、当たり前のようにちさとも一緒にいた。
「あ…悠太くん…とちさと…」
「やっほー。お、ついに自炊を始めたの!って片手で作れるの?」
ちさとが俺に聞いてきた。
「お兄ちゃん、たまにはご飯食べに来て!姉ちゃんもいつも寂しそうにしてる!」
「ば、ばか!変なこと言わないの!」
そんなやり取りをしているときだった。
「ねー!結人は中辛と辛口だったら…あっ…」
美優がカレールーを持ちながら俺のとこに来た。そしてその瞬間、ちさとは驚きの表情を隠せないでいた。
「え、えっと…美優先輩。お疲れさまです」
「うん。水科ちゃんお久しぶり」
気まずそうな雰囲気が流れた。何も知らない悠太が首を傾げて言った。
「お兄ちゃん!この人事故あったとき助けてくれた人!お姉ちゃん、あのときはありがとうございました!」
「あ、うん。怪我とかは大丈夫?ちゃんとお礼言えて偉いね!」
ちゃんと覚えていた。そしてちゃんとお礼を言えて相変わらずえらい子だ。ただ、それ以上はどうか言わないでほしい。
「大丈夫!ねーねー!この人ってお兄ちゃんの彼女なの?」
純粋な子供のその質問は俺たちの心にそっと入ってきた。ちさとは俺がフラれたことを知っているが、その後付き合ったことを知らない。だからだろう。『なんで一緒にいるの?』という顔をしている。俺と美優は『内緒にしよう』ということで話をしていたため、こんな形でバレていいものなのかと…。
「違うよ?お姉ちゃんは結人くんの部活の先輩なんだ」
俺は美優を見た。確かに内緒にするという約束だったが、こうも違うと言われると少しだけショックを受ける。
「なーんだ!違うんだ!よかったね、姉ちゃん!」
「ほら!もう行くよ!じゃあ結人、また学校でね」
「バイバーイ!またねー!」
そして2人とは別れた。
ちさとはずっと違和感を覚えていた。何かが引っかかっていた。そして、それにすぐ気づいた。
「いま、美優先輩『いっちー』じゃなくて『結人』って呼んでた…?まさか…?」
振り返るも2人の姿はもう無い。確かめないといけない、と思うがどうしたらいいのかわからない。そして怖い…。
俺たちも買い物をして店を出た。
「いやー!さっきはビックリしたね。そっか、家近いんだしスーパーとかで会うかもしれないんだもんね!」
「うん…」
「次からスーパー行くときは気をつけないと!変装とかしたらいいかな!?どう思う?」
「そうだな…」
「なに。何か言いたいことあるなら言って」
「いや、2人で決めたことだからしょうがないんだけどさ、堂々と美優のこと彼女って言いたかったなって」
「私だって言いたいよ!結人の彼女だって!」
美優は声を荒げて言った。
「美優。あのさ、俺みんなに言ったほうがいいんじゃないかなって思う。美優が彼女じゃないって嘘でも言いたくないし、言われたくないってさっき思った。美優の彼氏だって堂々としたい。例え祝福されなかったとしても、それでもいい。俺は美優と一緒にこうしていれるのが幸せだから」
「結人…。ごめん、変なこと言って」
「何も謝ることないよ。じゃあカレー作りながらどうするかまた考えよう」
「結人は本当に優しいよ。ううん、優しすぎて困っちゃう。もっと年上らしくしないとなー!」
「そのままの美優が好きなんだけど」
「私もそのままの結人が大好き!もう大好きすぎる!」
そう言いながら俺に抱きついてきた。俺も美優を抱きしめて、愛情と温もりを感じた。
これからどうしよう。だけどそれを考えるのはもう少しだけこの温もりに浸ってからにしよう、今はただ美優と一緒にいれることを大切にしたい。
そう考えながら俺たちは家に向かって歩いていた。
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