Make a Wish
部屋に入ると私の好きな曲が流れている。
「いい曲聴いてるね」
「小笠原先輩が好きな曲です」
「…そうだね」
私が橘部長のことを好きだった頃にいつも聴いていた曲。この曲を聴いていつも励まされていたっけ。あのときの私の恋は実らなかった。歌詞のとおり棄てられちゃった。
ねえいっちー、君の恋も棄てられちゃうんだよ。
私が棄てるんだ。
だからお願い
そんな顔しないで
辛そうな顔をしないで
じゃないと決心が鈍っちゃうよ
「遥香、大丈夫だった?」
きちんと話さないとダメだとはわかっているけど、何から話せばいいかわからなかった。とりあえず1つずつ、今日の出来事から整理しようと思った。
「たぶん…大丈夫です」
「たぶん、か。そうだよね。いつも恋愛相談してた相手と好きな人がいろいろあったら当たり前だよね」
「そんなの…小笠原先輩は悪くないです。俺が…俺がはっきりしなかったからです」
そう言うと小笠原先輩は哀しそうに笑顔を浮かべた。
「いっちーは本当に優しいね。それでも私は遥香のことを考えたら、君と付き合うことはできないかな。もちろん水科ちゃんのこともね」
俺は何も言い返せない。これは俺の片想いだから。ただ小笠原先輩を好きになって、フラれただけの話。初恋は淡く消えるなんてよくある話だ。
「だからこれまで通りさ、部活で顔合わせるいい先輩後輩でいようよ。もちろん一緒にライブも出たいし、いっちーとやりたいバンドだってあるし。最初は気まずさとかあるかもしれないけど、すぐ無くなるよ。私のことは何年か経って『あぁ、そういえばこの人のこと好きだったことあるな』くらいの想い出にしてよ。いっちーなら大丈夫」
なんだよそれ。そんなこと言いにわざわざ来たのかよ。そんなこと言われて納得できるわけない。
「ほら、もう水科ちゃんがご飯作ってる時間じゃない?私はこれだけ言いたかったから、聞いてくれてありがとう。また学校で会おう?」
小笠原先輩は一方的に話を終わらせようとした。けれど俺はそれを許さなかった。
「ちさとはもうご飯を作りません」
その言葉に小笠原先輩は玄関に向かって歩こうとした足を止めた。
「ちさとにも…梨木にも言いました。俺が好きなのは小笠原先輩だって。だからもう2人とはそんなに近い関係になれないって2人とも話しました。もちろん友達だけど、好きになったりとかは無いです。だから梨木がとか、ちさとがとかじゃなくて小笠原先輩自身の気持ちを聞かせてください!それでも付き合うのは無理っていうなら…俺も諦めます」
いまの気持ちを全て伝えた。ただ真っ直ぐに、嘘偽りない俺の気持ちを。その小さな背中を見つめながら、俺は小笠原先輩の返事を待った。
「前に言ったよね。こんなつもりじゃなかったって」
「それは…はい」
「その言葉通りだよ。君のことを好きになるつもりなんてなかった」
「えっ…」
「あの日、部長のこと忘れるつもりでいっちーを誘ったのに。気づけばいっちーのことばかり見てた。いろんな話してる時間はあっという間に過ぎて、ソファで並んで座ってるときはドキドキして、私が強がってるのに気づいて優しくしてくれて。隣で寝ている姿を見たときは愛おしくてたまらなかったよ」
「小笠原先輩…」
「だけど私は君を傷つけた。あの夜に新しい恋を見つけてさ、それもやっぱり叶わぬ恋になるんだなって。私は応援する立場にいるんだからこんなのダメだよって。だけど我慢の限界だった。だってあんな雰囲気で隣に気になる人がいたら、私だってあんなことしちゃうよ。でも結果、君を傷つけることになってしまった」
「傷ついてなんていません。俺も…嬉しかったです」
小笠原先輩は首を横に振った。
「私ってさ、ズルいんだ。いまだって2人が諦めたのならいいのかな?って思ってる。自分から断っておいてだよ?本当はいっちーの気持ちに全力で応えたいけど、そんな都合のいい話ないよね」
俺はその言葉を聞いて、その小さな背中を思い切り抱きしめた。
「それは違います。ズルくなんてないです。それは小笠原先輩の優しさです。先輩のことを頼ってくれる気持ちに、自分の気持ちを殺してまで背中を押してたんですよね。あの2人のことを想って身を引いてただけでズルいなんて無いです。むしろ俺がハッキリしなかったのがダメだったんです。でも今回は…この気持ちだけはハッキリしています」
俺は小笠原先輩をこちらに向けて、ただ真っ直ぐに目を見て伝えた。
「好きです。頼りにならないところもあるかもしれないけど、精一杯小笠原先輩を幸せにします。だから、俺と付き合ってください」
ずっと我慢してたのであろう小笠原先輩の目から、涙が溢れてきた。
「いっちー…いっ…いっぢいいい」
俺の胸に飛び込んできた。
「ほ、ほんとに?本当にいいの?幸せになってもいいの?いっちーのこと好きでいいの?うわああああん!!」
「大丈夫です。俺も小笠原先輩のことが大好きです。これから一緒に幸せになりましょう」
小笠原先輩は長い間、泣くのをやめなかった。
こうして俺に初めての彼女ができた。そして、叶わぬ恋をし続けてきた、小笠原美優の恋が初めて叶った。
2人はそのままそっと目を閉じ、あの日とは違う優しいキスをした。
「ご飯買いに行くので、家まで送りますよ」
さすがに明日も学校があるので、今日もお泊まりというわけにはいかない。むしろ泊まったら…と考えると恥ずかしくなってしまう。
「ありがとう。あのさ、これからのこといろいろ決めながら帰ってもいい?」
「これからのことって、例えばどんなことですか?」
「はい!それ!」
ビシッと俺のことを指をさして言うが、俺は意味がわからず首を傾げた。
「彼氏彼女なのに敬語はおかしいと思いまーす!」
「ま、まあ確かに…。でも小笠原先輩に敬語使わないのもなんていうか…」
「はい!もう1つそれ!彼氏に小笠原先輩なんて呼ばれたくないんですけどー!」
「う…じ、じゃあなんて呼べば…」
小笠原先輩は無言でじっと見ている。『言わないとわからないのかな?』といった感じで、首をちょっとだけ斜めにして。正直めちゃくちゃかわいい。
「み、美優…先輩」
まだ無言のプレッシャーは続いている。恥ずかしくて死にそうだ。
「…美優」
「なあに?」
「恥ずかしくて頭おかしくなりそう」
「すごく嬉しいよ。結人」
そう言って帰る前に玄関でもう1度キスをした。
これからこんな幸せな日々が始まるだなんて考えてもいなかった俺は、この恋に、この人に溺れてしまおうと考えながら彼女を家まで送った。
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