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session  作者: 北稲とも
34/80

ブラック

「一ノ瀬、部活行こ」


 放課後、私はさっそく声をかけた。ちさとや安達、山崎に「任せろ」と言わんばかりのアイコンタクトをして声をかけるも相変わらずうわの空といった様子。


「いや、今日は行かないで帰る」


「ダメ。松下がドラム教えてほしいって言ってたから行くよ」


 松下とは同じ1年のドラム初心者の1人だ。最近コツを掴んできたのかスキルも上達している。そういえば今日、教える約束をしていたがとても部活に顔を出す元気はない。どんな顔して小笠原先輩に会えばいいのかわからない。


「ほら立って!行くよ!」


 そう言って梨木は俺の手を掴み部室まで引っ張って行った。部室に入り辺りを見回しても小笠原先輩の姿は無かった。ホッとした素振りを見せ、スタジオに入り松下と練習をした。


 1時間ほど経ちスタジオから出ると部室に人は増えていたが、小笠原先輩の姿は無かった。そして梨木の姿も無いことに気づいた。


「あれ?梨木は?」


「ん?さっき美優先輩と出てったよ」


「それ、どれくらい前のこと!?」


「30分は経ってないと思うけど…」


 俺は急いで部室を出て、梨木に電話をしたが出ない。小笠原先輩にも電話をしようと思ったが、躊躇ってできなかった。


「くそっ!」


 辺りを見回してもいない。どこに行ったのかわからない俺は、学校の至るところを探した。しかし見つからずもう帰ってしまった可能性も考え、梨木からの連絡を待つことにして玄関に向かった。

 すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。声がした方へ向かうと、梨木と小笠原先輩が話していた。我慢できず、顔を出した。


「何の話をしているんですか?」


 2人は驚いて俺を見た。その瞬間、梨木は逃げるように走って玄関から出て行った。


「遥香!」


 小笠原先輩が呼びかけるが、決して振り返ることはせず。俺はどんな話をしたのかすぐに理解した。


「行って」


「いや…でも俺は…」


「いいから行って!!」


 行くしかなかった。好きな人といたい気持ちを押し殺して俺は梨木を追いかけた。走ると左手が痛む。上手く走ることができないがそれでも必死に追いかけた。


「梨木!」


 俺が呼びかけると梨木は走るのをやめて立ち止まった。そこは校門の前の駐輪場で、他に人は誰もいなかった。

 俺も梨木も息を切らしている。


「はあ…はあ…ったく、走ったらまだ痛いんだぞ…」


「なんで追いかけてきたの」


「いや…それは…」


「どうせ美優先輩に行けって言われなかったら来なかったんでしょ」


「…そんなこと無い」


「嘘つき!それぐらい私だってわかるよ!」


「ごめん」


「謝らないでよ!…謝らないでよ…待って、待っててくれるって言ったのに…うわああああん!!」


 また俺は梨木を泣かせてしまった。思えば俺は梨木に辛い思いばかりさせている気がする。俺に背を向けて泣いている梨木のことを抱きしめることはできない。

 だって俺の好きな人はあの人だけだから。俺が抱きしめたい人はあの人だけだから。俺はただ、「ごめん」としか言えなかった。


「もうご飯は作らないほうがいいかな。電話もしなくていいよ」


 そう聞こえた瞬間、俺は後ろを振り返った。するとちさとが立っていた。


「全部を理解したわけじゃないけど、遥香を見ていたらなんとなくわかった。結人にも好きな人ができたんだね。それじゃあ私も邪魔者になっちゃうから、あまり近付くのはやめたほうがいいかな」


「いや…ちゃんと聞いてほしい。梨木も」


 梨木もちさとも頷き、学校の近くの公園に行った。2人はブランコに腰掛けながら、俺の話を待っている。梨木はちさとがいるおかげで泣き止んでいた。


「一昨日、確かに俺は小笠原先輩とデートした。カフェ行って、マンガ喫茶行って、ライブ行って。でもそれは、俺とのデートってより小笠原先輩の恋を終わらせる手伝いみたいなものだったんだ。あの人にはずっと好きな人がいて、それを諦めるために一緒にデートしたんだよね。俺のこと助けてくれた恩人だから、そのお礼に何でもするって約束したから」


 2人は黙って聞いている。


「それで遊び終わってさ、吹っ切れた、新しい恋探すって言ってたけど、俺にはどうしても無理をしている様にしか見えなかった。この人のこんな顔は見たくない。幸せになってほしいって思ったけど違ったんだ。俺が幸せにしてあげたい。小笠原先輩ともっと一緒にいて、いろんなこと共有してその先も…って」


「わかるよ。いい先輩だと思うし惹かれるもん」


 ちさとが言う。


「もちろん梨木とも、ちさととも色々あったよ。悲しんでる姿も見た。その時も同じように悲しまないように励ましたいって思った。その気持ちは嘘じゃない。でもそれは友達として助けてあげたいって気持ちだったんだと思う。『好き』って気持ちに気づいたのは小笠原先輩が初めてだったんだ」


「そっか」


 ちさとはどこか納得したように答えた。梨木はずっと黙ったままブランコに乗っている。


「まぁでもさ、俺じゃダメだったんだけどな」


「どういうこと?」


 驚いたように梨木が口を開いて言った。


「言ったんだ。好きだって、付き合ってほしいって。でもそんなつもりじゃないって言われた。フラれたんだよ。そりゃそうだよな、せっかくずっと引きずってた恋愛が終わった途端にそんなこと言われたって、はい次!なんて行かないよな。あーあ、わかってたんだけどな…わかってたんだよ、ダメだってことは…」


 俺は梨木とちさとのおかげで自分がフラれたことを自覚することができた。最低なことだと思うが、それでも必死で認めたくない事実に背を向けることができなくなったから。


 こうして話は終わり、梨木とちさとは「話してくれてありがとう」とだけ言って帰っていった。俺もバスに乗って帰った。

 バスの中、イヤホンから流れるアカシックの「ブラック」を聴いていた。恋愛ソングなんていま聴いても辛いだけなのに、それでもこの気持ちを忘れないために聴いていた。

 それは小笠原先輩が好きだと言っていた曲だから。



 家に帰ってもずっとその曲が部屋で流れていた。ソファで横になりながらその曲を聴いていると、少しお腹が空いてきた。


「そういや何も食べてないな。ちさともご飯作らないって言ってたもんな…」


 コンビニに行こうか迷っていると玄関のチャイムが鳴った。なんだかんだでちさとがご飯作ってくれたと思い、返事をしてドアを開けた。


「…やっほ」


「小笠原先輩…」


「お話し…できる?」


 俺は「はい…」と言って首を縦に振り、小笠原先輩を家の中に入れた。


ご覧いただきありがとうございました。

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