約束
楽しかったカラオケが終わり現地解散となった。
それぞれ自転車やバスで帰り、俺とちさと・梨木・小笠原先輩が残った。この組み合わせになったのはちさとの提案だった。
「やっぱり遥香には本当のこと話したい。このまま隠してコソコソするのはなんか嫌だ」と昨日の夜に言われ俺も承諾した。
本当は俺・ちさと・梨木の3人で話す予定だったが梨木が小笠原先輩に同席してほしいとお願いしたようだ。俺もちさとも了承して、今に至っている。
俺たちは10分ほど歩いて、いつもの公園に来た。そう、俺が事故に遭った公園だ。
「それで?話ってなに?」
梨木がちさとに向かって話を切り出した。
「うん。遥香に謝らないといけないことがあるんだ」
俺と小笠原先輩はただ黙って2人の会話を聞いている。特に小笠原先輩は気まずそうにしていた。
「なに?」
梨木の頭の中にあったのは、ちさとが一ノ瀬の家で寝ていたことだった。あの頃のちさとは毎日どこか疲れているように見えていた。何があるのかは知らないけど、私たちに言えない何かがちさとにはある。そんな気がする。
「怒らないで聞いてほしい」
「うん」
「結人の事故、私が原因なんだ」
それは思いもしなかった言葉だった。
どうゆうこと?なんでちさとのせいで一ノ瀬が怪我したの?
「なに…それ…。どうゆうこと?」
「私の弟がバイクに轢かれそうになったところを結人が助けてくれた。本当は私が助けないといけなかったのに。結人が庇ってくれた」
バン!
何か言葉を返すより先に、梨木がちさとの頬を叩いた。
「なんで!なんで一ノ瀬が轢かれなきゃならないの!?ちさとの弟なんでしょ!?なんで…!」
我慢できず、再度ちさとの頬を叩こうとしたとき小笠原先輩が梨木の腕を掴みその行為を止めた。
「遥香、落ち着いて。怒るのはわかるけど、ちゃんと話を聞いてあげて」
「なんで美優先輩がちさとの肩を持つんですか!美優先輩だってライブどうしようって困ってたじゃないですか!一ノ瀬だって!部活しばらく出来なくなるし!全部ちさとが悪いのになんで!」
梨木は感情に身を任せて思いつく言葉を全て投げかけていた。
「なぁ梨木。お前はちさとのこと嫌いか?」
俺は梨木に聞いた。それは梨木を信頼しているからだ。友達だと言ってくれると信じていたから。そしてそう答えたのなら、ちさとも全てを話してくれると信じたから。
「そんなの…嫌いなわけないじゃん…!大事な友達に決まってるじゃん!でもこの気持ちをどうしたらいいかわかんなくて…」
小笠原先輩は梨木をただギュッと抱きしめながらちさとに聞いた。
「ねえ、水科さん。もし大丈夫なら全部話してほしい。君といっちーの間にどんなことがあるのか」
ちさとは静かに頷き、全てを話した。
中学の頃のこと。家族のこと。夢を諦めたこと。眠れない日々が続いていたこと。事故に遭ったあの日のこと。
そして…今の俺との関係のこと。
誰も途中で口を挟むことなく、ただちさとの言葉に耳を傾けていた。
「…これで全部。遥香に嫌な気持ちさせたし、美優先輩にも迷惑をかけました…。本当にごめんなさい」
そう言ってちさとは涙を流し、身体を震わせながら深く頭を下げた。
「そっか…遥香、もう落ち着いた?大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」
そう言うと小笠原先輩は梨木から離れて、今度はちさとのことを抱きしめた。
「…頑張ったんだね。思い出したよ。中3のとき、1つ下に吹奏楽部に目立ってる女の子がいるって話題になってた。いい意味でも悪い意味でも。君のことだったんだね」
小笠原先輩も泣いていた。ちさとの辛い過去を聞いて一緒になって泣いていた。そして、それは梨木も同じだった。
「ごめんなさい。何も知らないで私、ちさとに酷いことした」
小笠原先輩がちさとから離れ、2人は再度話しをした。
「ううん。こんなの結人の痛みに比べたら何ともない。あのさ、遥香。1つだけお願い言ってもいい?」
「…うん。なに?」
「これからもずっと友達でいてほしい」
ちさとの願い。嘘偽りない真っ直ぐな願い。
「じゃあ私からも1つお願い言ってもいい?」
梨木がそう言うとちさとは「うん」と首を縦に振った。
「一ノ瀬と一緒にステージに立つとき、私も一緒に弾きたい。それでめちゃくちゃカッコいいステージにしたい」
その言葉はちさとを笑顔にした。涙は止まっていないが夕陽に照らされている2人はとても眩しい笑顔で約束をした。
「なんかいいね、こういうの。お姉さん感動しちゃうよ」
いつの間にか隣にいる小笠原先輩も泣きながら言った。
「そうですね」
俺も小笠原先輩も笑顔で2人を見守っていた。このままずっとこの関係が続いてほしい。俺はそう考えながら見守っていた。
「じゃあそのときのギターは美優先輩ですね」
「ええ!私卒業してもこの街から出れないじゃん…。せめて私がいるうちにやってくれー!」
みんなが笑いながら小笠原先輩を見ていた。
いつかそんな日が本当に来たらいい。みんなでちさとの夢を叶えようと遠い未来を夢見て語り合っていた。
「ちさと、ビンタしたお詫びに私のことビンタして」
梨木が言った。
「え!そんなことできないよ!」
「じゃないと私が自分のこと許せない。お願い」
「じゃあ…ビンタの代わりと言ったらアレだけど、結人にご飯ご馳走してるの許してほしい」
「許すも何も…べ、別に私は一ノ瀬のこと何とも思ってないし!」
俺はどういう気持ちでそのやり取りを聞いていればいいんですかね?むしろこの場にいていいんですか?
気づけば隣で小笠原先輩がニヤニヤしながら俺のことを見ている。勘弁してほしい。
「むしろ一ノ瀬、これで健康のことは気にしなくていいし良かったんじゃない?」
「まぁ、そうだな。気のせいか最近目覚めもすごくいい」
「あ、でも一ノ瀬。あのさ…ちさとが大丈夫ならだけど、土日とか学校休みの日に今度ご飯作りに家行ってもいい?」
梨木がとても恥ずかしそうに言った。
「じゃあ一緒に結人の健康管理しよう!」
ちさとも賛成している。
俺はもう恥ずかしさが限界を迎えていた。小笠原先輩が肩をバンバン叩いて、笑いを堪えるのが限界といった感じだ。
「ま、まぁ…ご飯は常に困ってるので…その…お願いします…」
梨木とちさとが「わーい」といった感じでハイタッチしている。
「小笠原先輩は作ってくれないんですか?」
ずっとイジってくる小笠原先輩に言った。
「私はどちらかというと食べる側になりたいかな?あ、でもいっちーそういえば私のお願い何でも聞くって言ってたよね?」
「命の恩人なので、ある程度のことなら聞きますよ」
「遥香ー!水科さーん!今の聞いたー!?」
「「聞きました」」
声を揃えて応えた。どこか嫌な予感がする。どんなお願いをされるのだろう。
「じゃあいっちー、今度デートして」
「はい!?」
俺もちさとも梨木も声を揃えて驚いたが、「絶対だからね」ということで、俺と小笠原先輩がデートすることに決まった。
そう言って「じゃあとりあえず解決!ってことで帰るね」と言い、小笠原先輩は帰っていった。
その場に残った3人はどういうこと?といった感じでその場に取り残されていた。
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