ともに
あれから数日経ち、約束していたみんなでカラオケに行く日がきた。
退院した次の日から学校に行き、涼太や安達、山崎にとても心配され、梨木や星峰、横田たちも同じくいろいろと手伝ってくれると言っていた。そのおかげで学校生活で困ることはほとんど無かった。
部活に関しては、前にちさとに言ったとおり初心者の指導を中心に行うことにした。自分が出れるかわからないため、8月のライブに向けて他のドラムの人の技術向上に努めることにした。
「小笠原先輩、本当にありがとうございました」
「無事退院できてよかったよ。いろいろあったけど安心した」
部活が終わり、俺は小笠原先輩とバス停にいた。
「あの、何で事故った理由誤魔化してくれたんですか?」
「別にちゃんと言ってもよかったんだけどさ、それを聞いて傷つく人がいるしょ?そしたらその子はきっといろんなものを捨ててでもいっちーのとこに行ったと思う。ひょっとしたら病院が修羅場に…!なんてこともあったかも。でも今回のことは水科ちゃんだっけ?あの子が問題の話でしょ?そこに遥香が混ざるのは何か違うかなって思っただけ」
「確かにそうですね。さすが何でもお見通しってわけだ」
「でも後から本当のこと知ったら大変なことになると思うから、どこかで教えてあげてほしい。私が言えるのはそれだけ」
そう言った小笠原先輩の顔はどこか遠くを見ているようだった。先輩なのにかわいらしい外見の彼女がとても大人に見えて、俺は少し戸惑ってしまった。
「あの、今回のことでいろいろ迷惑かけたのでお礼したいんですけど、それとは別に1つ相談がありまして…」
「お礼とお願いが同時に来たね!?とりあえず聞いてあげようじゃないか」
「日曜に俺らのグループで退院祝いってことでカラオケ行くんですけど、先輩も来ませんか?」
「えっ。さすがにそれは気まずいかも…」
「やっぱりそうですよね…いや、ちさとがお礼したいらしくて、大丈夫だったら呼んでほしいって言ってるんですよ。みんなもライブ来てたから先輩のこと知ってるし、梨木も喜ぶかなって。あと…俺も小笠原先輩に退院祝ってほしいな〜なんて…」
「あはは!最後のセリフは無理矢理でしょ!でもそう言ってくれるなら、どうしよっかなー。本当に気まずくならない?大丈夫?」
「大丈夫です。先輩もカラオケ行ってストレス発散してください」
「そんなストレス溜まってるように見える?ならお言葉に甘えてお邪魔しようかな!」
こうして、小笠原先輩もカラオケに来ることになった。
14時に俺たちは大型ショッピングモールの近くにある、ボーリング場とゲームセンターとカラオケが一体型になっている『スガイ』に来た。小笠原先輩がさすがに1人では行きづらいと言ってたので一緒に来て、みんなに紹介した。
「こちら、軽音部副部長の小笠原美優先輩です。俺が事故ったときに一緒にいて、この人が俺の命の恩人です。むしろ女神様です」
「どうも、女神の小笠原です。えっと、今日はいっちーの退院祝いに呼んでもらってありがとうございます。今日は楽しむつもりなんでよろしく!」
みんな笑って小笠原先輩を迎えた。さっそく遥香がくっついている。とても可愛らしいガーリー系な服装だったこともあり、みんな「めちゃくちゃかわいい!」と集まりすぐに人気者になった。
あの、主役がポツンですよ?もしもーし?
部屋に入り、みんながソファに腰かけ飲み物を頼む。もちろんアルコールなどはなくジュースだ。
「じゃあ飲み物も揃ったし、乾杯しますか!主役の一ノ瀬くーん!こちらへどうぞ!」
山崎がふざけて俺を前に呼んだ。
「ったく…。えっと皆さんいろいろとお騒がせしました。治るまで学校で迷惑かけることもあるかもしれないけど、その時はよろしくお願いします。ってことで、かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
俺たちはたくさん歌って騒いだ。流行りの歌や懐かしい歌を歌ったり、星峰と横田が2人で踊ったり、安達と山崎がバカやったり。思えばこうやってみんなで遊ぶのは初めてだった。これからもたくさんこうして思い出を作っていきたい、と誰もがそう思っていた。
「じゃあみんな今から1周好きな人に歌うつもりで恋愛ソング歌おうよ」
そう言い出したのは横田だった。
「面白そう!やろう!」
あっさり山崎が賛成して、変なゲームが始まった。
幸いなことに、ここにいる人はみんなそれなりに歌が上手い人ばかりで酷いことにはならないだろう。だが、このゲームにあまり乗り気じゃない人がいた。
「好き」とか「会いたい」などの言葉が並べられている歌詞をみんなが歌う。好きな人が、自分の彼女がこんな歌を自分に対して歌ってくれたら嬉しいんだろうな、という気持ちになる。
そして、梨木の番になった。その瞬間、このゲームの本質に小笠原先輩と俺とちさとは気づいた。
みんなは梨木の気持ちに気づいているのだ。それで俺との距離を縮めようと計画したものなのだろう。小笠原先輩は心配そうな顔をして梨木を見ていた。
『遥香はこのゲームのことに気づいているの?』
梨木が選んだ曲は椎名林檎の『ギブス』だった。俺はその歌声に、歌詞に耳を傾けて聴いた。その場にいる誰もが、梨木が誰に対して歌っている曲なのか理解していた。もちろん俺も。そして、俺の隣に座って気まずそうな顔をしているちさとも。
「めちゃくちゃよかった!マジで最高だった!さすがバンドマン!」
歌い終わって安達が言った。確かに上手かったし、心に響くものがあった。
「一ノ瀬、いまの遥香めちゃくちゃよかったよね!」
星峰が俺に言った。そこで俺に振るなよなどと思ったが「めっちゃよかった。今度ライブでボーカルやってもいいんじゃない?」と誤魔化すような回答をした。
「私はベースしかやりません」
どこかトゲのあるようなセリフに少しだけ気まずくなる。すると小笠原先輩が「じゃあ次は私の番だね!」と意気揚々に声をあげた。
「これってガチで歌っていいの?」
その一言にみんなが盛り上がった。「え!好きな人いるってことですか!聞きたい!」などと騒いでいた。俺も部長のことはもう忘れて新しい恋を見つけたのかな、などと思った。
「有名じゃないかもだけど、聴いてくださーい」
そう言って小笠原先輩が入れた曲は、Softlyの『あなたのことを想って指先でなぞる文字は』という曲だった。
それは叶わない恋をしている女の子の恋、という感じの歌詞で誰もがその曲に聴き入っていた。俺はその選曲に「なんだ…全然諦められてないんですね」と胸が苦しくなった。
優しくて頼りになって後輩想い。この人には幸せになってほしい、と心から願っているからこそ、こんなに苦しい曲は歌ってほしくないな、などと思った。
「あースッキリした!ってえ!そ、そんなに!?」
小笠原先輩がそう言った瞬間、ちさとが泣いてることに誰もが驚いた。
「あれ?ご、ごめんなさい。すごくいい曲だなって思って感動しちゃいました。美優先輩、いい曲教えてくれてありがとうございます」
「まぁ私の歌唱力なら当然だよね!ほら、いっちー私にもボーカルやりませんか?って言っていいんだよ?」
「いや、泣いちゃう人増えたら困るんで大人しくギター弾いててください」
「なんでよ!」
みんな私たちのやり取りに笑っていた。
本当はこんな曲歌いたくなかった。この曲は私が部長を好きだった頃によく聴いていた曲。
あーあ、思い出しちゃったな。ほんと、いつまでも引きずって情けない。でもどうやっても忘れられないんだ。ほんと、泣きたいのは私なんだけどな…。
「さーて!次はちさとの番!ほら!泣いてないで入れて!」
星峰がちさとにデンモクを渡した。
「そうだね。よし!じゃあ歌います!」
そう言ってちさとが入れた曲はクラムボンの『幸せ願う彼方から』という曲だった。昔のアニメで使われていた曲のカバーソングらしい。
そしてその曲は、好きな人に対して遠くから見守っている、という内容の歌詞だった。どこか切なく、寂しさも感じ取れるがとても温かい曲だった。
「そっか…この子はいっちーのこと…」
小笠原先輩は何かに気づいたようにその曲を聴いていた。
「め、めっちゃいい曲なんだけど…」
歌い終えたら今度は山崎が泣いていた。
「いや、お前が泣いたらなんか台無しなんだけど…」
そう言ってみんなが泣きそうになっていた。それは俺も梨木も同じだった。そして歌い終えたちさともどこか悲しそうな表情をしていた。
「じゃあ最後は俺だな」
「よ!待ってました!主役!」
正直言って俺はラブソングというものに疎かった。この曲聴いたことあるくらいの感覚だったが、今日みんなが歌っていた曲はこっそりプレイリストでも作ろうなどと考えた。
そして俺が入れた曲はWANIMAの「ともに」だった。
「えー!これラブソングじゃない!」と横田が言った。
「大切な人に歌うからいいだろ!なんか湿っぽい雰囲気になってるから騒ぎたいんだよ!」
そして俺は歌った。
それは間違いなくちさとに向かって歌う応援ソングだった。あの日から毎晩一緒にご飯を食べて、寝るまで電話して一緒にいる時間が増えて、俺はちさとがどれだけ辛い想いをしてきたのかわかった気がした。
好きとかの気持ちじゃなく、ただちさとの背中を押したい。夢に向かってほしい。頑張れと言いたい。
それだけを想い、大きな声で歌ったその曲は、その日の1番の盛り上がりをみせた。
この想いよ届け
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