DISCO FLIGHT
あれは初めて部長と会った日、スタジオから出ようとしたときだった。
「なぁ、一ノ瀬。お前ライブの日さ、別にもう1つやらね?」
誘ってきたのは部長だった。
「どういうことですか?」
すでに出演バンドのエントリーは終わっている。ここからさらに追加でやるというには時間も無さすぎる。
「いや、さすがに今からなんて無理ですよ。それにエントリーも終わってますし」
「うん。だからね、サプライズ枠でやろうかなって考えてるの」
そう言ったのは新田先生だった。
「え、先生がベースやるんですか?」
「私さ、ライブって大好きなんだよね。だからみんなが演奏してる姿見てたら絶対自分もやりたくなっちゃうの。教師としてどうなの?って思うかもしれないんだけど、最後にサプライズでやったらみんな盛り上がるかなって」
確かに新田先生が弾くのなら間違いなく盛り上がる。しかも部長と一緒にやるということは間違いなく最高のライブになるはずだ。だが、そこに1年の俺が混ざっていいのか?先輩たちがやってこそ盛り上がるのではないだろうか。
「嬉しい誘いですけど、1年の俺が出るのはなんていうか…」
「ばーか。学年なんて関係ねーよ。他にもドラムはいるけどよ、俺らと同じレベルの奴なんかいねえしな。いいか?これは部長命令だ。ゆづちゃんをヨイショできるのは俺とお前しかいない。やるぞ」
「ええ…ていうか結局新田先生のためじゃないですか」
「当たり前だろ!ね!ゆづちゃん!」
部長が先生のほうを振り返るより先にビンタが飛んできている。これに関してはもう何も言うことはない。だが、さっきの部長の一言は俺をやる気にさせた。
「同じレベルか…わかりました。やります」
俺は心の中から溢れ出る思いを必死に抑えて笑顔で言った。こんな上手な2人と同じレベルと言われたのが本当に嬉しかった。
「よし、決まりだな。曲どうする?何かやりたい曲あればそれでもいいけど時間無いからなー。お前今まででやった曲とかなんかないの?」
「うーん。一応、去年ここのスクールのライブで『凛として時雨』やりました。」
「お!時雨いいじゃん!お前の激しいドラムも目立つしな。ゆづちゃん大丈夫そう?」
「大丈夫だよ。曲は何やるのかな?」
「曲はーーーーー」
こうして、サプライズライブをやることが決まったのだ。ライブまでにスタジオに入ったのは1回しか無かったが、俺は元々やったことのある曲。部長と先生はさすがの実力で問題ない出来だった。
サプライズのライブが始まり、私はただ一ノ瀬を見つめていた。最前列でみんな騒いでいるが、私は違った。そして、それは隣に来ていた美優先輩も同じだった。
「いっちー上手いとは思ってたけど、まさかここまでとは思ってなかった。これが本当の実力なんだね」
隣で美優先輩が一ノ瀬を見ながら言った。私も今日までたくさん練習して、隣に立てたと思ったのに全然違った。一ノ瀬はずっとずっと先にいる。落ち込んでる暇なんてない。もっともっと上手くなって堂々と隣に立ってやる。だから。
今日だけはかっこいい一ノ瀬を目に焼きつけてやる
1曲目が終わり、MCで先生が話している。先生はベースも最高に上手いし、歌もすごく上手だった。みんなが笑って話を聞いてるとき、ふと周りを見渡すとちさとの姿が見えなかった。あれ?と思っているうちに次の曲が始まり、また会場内が歓声に包まれる。
最後の曲は『DISCO FLIGHT』だった。みんな思いっきり騒いで暴れてもうめちゃくちゃだった。楽しい。最高に楽しい。ライブってこんなに楽しいものなんだ。
初めてのライブ。いろんなことを学んだ。たくさん練習して演奏した。できなくて流した涙も、抱きしめてくれたときの温かさも、一緒に過ごした時間も全部忘れない。
待ってろよ、一ノ瀬結人!
私は思いっきりの笑顔を一ノ瀬に向けていた。
ライブが終わるころにはすっかり夜になっていた。みんなライブに来てくれた人たちと外で話をしている。
「今日は来てくれてありがとう」
俺と梨木は1組のみんなに挨拶をしていた。
「一ノ瀬くんも遥香もめっちゃかっこよかった!」
まどかと結衣が言った。
「ありがとう。またやるときは誘うね!あれ、ちさとは?」
「なんか予定あったらしくて最後の途中で帰っちゃったよ」
「そうなんだ。最後一ノ瀬かっこよかったのにね」
まどかと結衣がニヤニヤしながらこっちを見てくる。俺は恥ずかしくなって見てみぬふりをした。
「な、梨木さん!俺たちもまた見に来るから誘ってくれ!」
安達と山崎も楽しかったようだ。こいつらはライブが楽しかったのか、女子と一緒にいれたのが楽しかったのかわからないが…。
「みんなー!そろそろ片付けて帰るよー!」
小笠原先輩がみんなを集める。「それじゃあまた学校でね」そう言ってみんなは帰っていった。
そして片付けも終わり、部員もみんな現地で解散となった。もう時間も遅くなってきているので、打ち上げなどは別日にやるらしい。
「さてと、俺たちも帰るか」
「うん。帰ろっか」
「梨木は迎え来るの?」
「終わったら連絡してって言われてるから、連絡したら来てくれるかな」
「そっか。じゃあここで解散だな」
「もしさ…よかったら少し話さない?」
「ん?いいけど…じゃあ俺ん家に機材置いて近くの公園行くか」
「うん!ありがとう」
歩いて家まで歩いている途中、今日の感想などを話していた。
「それにしてもまさかあんなサプライズがあるなんて思ってなかった」
「そう思ってくれたならサプライズは成功だな。練習期間も短かったしマジで大変だったよ」
「それなのにあんなかっこいい演奏に仕上げてくるんだもんな〜。やっぱり一ノ瀬はすごいね」
「部長と新田先生がすごいんだよ。俺なんてついて行くので必死だった」
「ううん。そんなことないよ。私なんて今回のライブは必死にみんなの後ろ追いかけてた。正直さ、まだ一ノ瀬が正式に入部する前にスタジオ入ったときあったしょ?あの時初めてギターとドラムと合わせてベース弾いてさ、私もやれるんだ!って思ったんだ」
「あのときの梨木はキラキラしてたからな」
「なんか恥ずい…。でもそのキラキラってさ、みんなと合わせるのがすごく楽しくて、私もバンドやってる!っていうキラキラだったと思う。ベースを上手く弾けてキラキラしてるのとは違ったんだ。だから今回みたいにちょっと難しい曲とかやるってなったら全然ダメだった。できなくて泣いてばかりだったもん」
「でも梨木は最後にはちゃんとしっかり仕上げてきた。練習の成果を発揮できた。今日のライブのときの梨木はあのときと同じようにキラキラしてたよ」
「そっかな…」
そんな話をしているうちに家に着いた。エレベーターに乗り、部屋の玄関を開けて機材を置いた。
「とりあえず梨木は親呼ぶ?」
そう言って梨木のほうを振り返った瞬間、梨木が俺を抱きしめてきた。
「今日まで本当にありがとう。情けない姿をたくさん見せたのに支えてくれてありがとう。本当はもっと言いたいことあったんだけど、もっともっとベース上手くなって、一ノ瀬に追いついたら…話したいことあるから聞いてほしい」
「…わかった。じゃあそのときは楽しみにしておく」
そう伝え俺も梨木を抱きしめて一言だけ小さく言った。
「よく頑張ったな。お疲れさま」
「ありがとう…本当にありがとう。あとすごくかっこよかったよ」
「なんだそれ」
俺にありがとうと言ったときの梨木は震えていて、泣いていた。それがどういう意味の涙だったのかは知る由もないが、ただ1つだけ言えることは俺と梨木の関係はこれから始まるということだ。
梨木は公園には行かず、親を呼んで帰っていった。
「橘先輩」
「どうした美優」
「私、橘先輩のことが好きです。ずっと前から憧れてました」
「知ってる」
「だけど私はこの恋が叶わないこと、知ってます」
「…そっか。悪い」
「謝らないでください。気持ち伝えないと後悔するって今日のライブ見て思ったから言っただけです。あースッキリした」
「なんだよそれ。なんか俺だけ悪者みたいじゃん」
「先輩が悪いんですよーだ。こんな美少女をフるんですから!ずっとこの気持ちを隠したまま毎日過ごすのも限界でしたからいいんです。でも!今日だけ悪者になってもらいます」
「ったく。コンビニで肉まん買ってやるよ」
「やったー!ごちそうさまです!」
「なぁ、美優。あいつらは俺らみたいになってほしくないよな」
「そうですね。遥香には頑張ってほしいです」
「一ノ瀬もだよ」
こうして俺たちの初ライブは終わった。
ご覧いただきありがとうございました。
第1章はこれで終わりです。2章からは部活以外の生活編が始まります。
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