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session  作者: 北稲とも
20/80

Tornado

 誰にでも忘れられない曲というものがある。小さい頃によく親が口ずさんでいた曲。友達がカラオケでいつも歌っていた曲。彼女と1つのイヤホンで一緒に聴いていた曲。

 そして、初めてのライブで演奏した曲。それらはいつまでも心の中に思い出として残っていて、ふとした時に聴きたくなり、聴く度に思い出がよみがえる。


 私にとって今日演奏する曲は間違いなく忘れられないものになる。

 この瞬間をいつまでも忘れない。

 君も、あなたもそうだったらいいな。

 梨木遥香と小笠原美優はそれぞれの想いを胸にステージに立った。


 1曲目は「おしゃかしゃま」から始まった。俺たちの演奏はライブの最後に相応しく1番の盛り上がりをみせた。部長は相変わらず歌もギターも上手く、観客も見惚れてしまっている。

 小笠原先輩も部長に指摘を受けていた箇所をしっかりと修正し、完璧にこなしている。

 そして、リハでミスをしていた梨木も完璧に弾いている。スラップが多く、ベースが目立ちやすい曲のため同じクラスの人はみんな梨木を見ていた。


「遥香めっちゃカッコいい!!」


 そんな眼差しで見ている姿を見て、俺はホッとした。梨木は演奏中に俺のほうをチラッと見る。「リズムはズレてない?ちゃんとできてる?」


 そういった心の声が聞こえてくる。俺はリズムに乗るように頷きながらドラムを叩いている。それを見て梨木も演奏をこなしていく。

 間奏に入り、ステージライトが落ち着いた光になった。ここから小笠原先輩のギターソロが始まる。観客に、そして憧れた部長に「私を見ろ!」という気持ちが伝わるようにギターソロを弾いている。


「ああ…かっこいいな。小笠原先輩やっぱすごいな」


 後ろからその姿を見ている俺は、その小さな体からは想像できないギターの音の圧力を感じていた。梨木がこの短期間で必死に練習したように、小笠原先輩は1年間たくさん練習したのが伝わるような音だった。副部長ながら部活をまとめ、練習も人一倍頑張って掴んだ実力。

 みんなの憧れの先輩。俺もいつかこうなりたい。


 そして1曲目が終わった。


「うわあああああ!!!」


 歓声と拍手が会場中に響き渡る。俺たちは誰も文句のつけようがない演奏を披露した。


「めっちゃかっこよかった!」


「橘部長ー!」


「美優ー!」


「遥香ー!」


 フロントマンを中心に声がかけられている。こういうとき、後ろにいるドラムはなかなか呼ばれないものだ。だけど俺はそれでよかった。前を支えているのは俺なんだぞ、と自分の中で感じることができればよかったのだ。


「結人ー!かっこいいぞー!」


 声が聞こえたほうを見るとちさとが手を振っている。


「あいつは本当に…」


 何とも言えない嬉しい気持ちになった。思えばライブでこうして声をかけられたのは初めてだった。俺はその声に対してスティックを回して応えた。


「調子に乗るなー!」


 あ、あれ?さっきのかっこいいはどこにいったのかな?

 会場に笑いが起き、小笠原先輩のMCが始まった。

「今日は私たち軽音学部のライブを見にきてくれてありがとうございます!次で最後の曲となりますが、最後まで盛り上がっていけるかー!」


「おーー!!!!」


「じゃあ、1年生の紹介をします!ベース!みんなのヒロイン梨木遥香ー!」


 梨木が恥ずかしそうに頭を下げる。


「遥香ー!かわいいー!」


 1組のみんなや女子の部員が声援を送る。


「梨木さーん!好きだあああ!」


 声援に混じって2年の先輩や同級生の男が変なことを言っている。まんざらでも無い顔をしているので、これも声援の1部ってことにしておこう。


「次はドラムー!一ノ瀬結人ー!」


 俺はその場に立ち頭を下げた。


「一ノ瀬ー!」


「結人ー!」


 梨木と比較したら明らかに声援の量が少ない気がするが、気にしないことにしよう。1組のみんな、声援ありがとう!嬉しいよ!


「じゃあ最後の曲の前に遥香から一言もらおうかな!」


 小笠原先輩が梨木にMCを振った。梨木は想定外だったらしく、「え!え!」と焦っている。


「話したいこと何でもいいから、話したらいいよ」


 マイクを渡すときに、そう一言梨木に伝えた。


「えっと…今日は本当にありがとうございました。最後にやる曲は、私がやりたいってみんなにわがままを言った曲です。初めて聴いたとき、歌詞とかなんか自分に重ねちゃった部分もあって、これだ!って思いました。みんなも盛り上がってくれたら嬉しいです!よろしくお願いします!」


「わあああああ!!!」


 ヒロインのお願いにみんな歓声と拍手で応える。

そう言ってマイクを返し、梨木は俺に向かって小さくピースをした。俺も拍手をしていた。


「え!梨木ちゃん、ひょっとして俺のことそんな風に…どうしよう…」


 部長がふざけて梨木をいじった。


「絶対にありえません」


 また会場が笑いに包まれた。みんなが笑っている中、部長は俺を見て小さく「だってよ」と口元を動かした。


「じゃあ行くよー!」


 そのかけ声と共に小笠原先輩のギターが始まり、最後の曲が始まった。


 ステージ上の4人は最後の曲を思いっきり演奏している。俺たちも観客のみんなも笑顔で全力で楽しんでいる。そして今、この瞬間1番眩しい笑顔をしているのは梨木だった。その笑顔をこちらに振りまくたびに、ドキドキしてしまうのと同時に、しばらくはこの笑顔も見れなくなることを想像すると少し寂しい気持ちになる。


 次のライブは夏休みだったっけな。どうなるかわからないけど、またその笑顔を見れる日を楽しみにしておくよ。



 こうして俺たちの初ライブは終わった。

 演奏が終わり、ステージから出ても観客の盛り上がりは続いていた。それくらい良いライブができた。控え室に戻り、梨木が俺にハイタッチを求めてきた。


「お疲れ。頑張ったな」


 そう伝え俺と梨木はハイタッチをした。その横で橘部長と小笠原先輩もハイタッチをしていた。まだ余韻が残っている最中だったが、先生の最後の挨拶が聞こえてきたので、小笠原先輩と梨木は急いで観客席に戻った。俺と橘部長は控え室に残っている。


「さーて、お前の本当の本番はこれからだな」


「そうですね」


 そして俺と部長はステージの袖口に戻って行った。



「今日は皆さんお疲れ様でした。どのバンドも素晴らしい演奏で、先生感動しました。今日という日を忘れずに、これからもたくさん練習をして、最高のライブをしましょう。そして短い高校生活でいろんな思い出を作ってください」


 部員も観客も拍手をしている。


「あれ?一ノ瀬と部長まだ控え室にいるんですかね?」


「本当だ、もー最後なのに何やってるんだろう」


 先に戻った梨木と小笠原先輩は困ったような顔をしている。


「さて!これで終わりだと思ったみんな!まだ盛り上がれる体力は残ってるかなー!?」


 新田先生が今まで出したことのないような大きな声で叫んだ。みんな「え?え?」といった表情をしている。


「こんなの見せられたら私だってライブしたくなるよー!ということで、かもーん!」


 その言葉とともに俺と橘部長がステージ上に上がった。


「み、美優先輩…!あんなの知ってました!?」


「いや、全然…」


 部員も観客も誰もが驚いていたが、まだライブが終わりじゃないという現実に気づき、再度盛り上がりが会場を包んだ。


「遥香ー!まだあるって!ほら!こっちこっち!」


 ちさとが遥香を呼んで最前列に連れてきた。ベースを構える先生がいる。


「先生ってベースだったんだ。あ、ひょっとして一ノ瀬が私にアドバイスしてくれたときも…」


 先生と梨木は目が合い、先生はグッと親指を立てて梨木に良かったよとジェスチャーしていた。一ノ瀬は先生がベースを弾けるのを知っていたんだ。それでこっそりアドバイスもらって教えてくれたんだ。


「あー梨木ちゃんはもっと真ん中に来てね」


 部長がそう言って梨木を真ん中に引っ張った。その場所から1番見えるのはドラム。一ノ瀬だった。


「じゃあ勝手にアンコールっつーことで!本当に最後だ!お前ら騒げーー!!」


 ハイハットで4カウントを鳴らし俺と部長と先生の3人で最後の演奏が始まった。

ご覧いただきありがとうございました。

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