ここから
入学式から1週間が経った
クラスメイトの名前と顔もある程度覚え、俺はクラスにも馴染んできた。クラスの中には少しずつ仲良しグループなどもできつつある。同じ部活同士だったり、席が近くだったり、中学からの友達だったりと様々なグループができていた。
その中でも一際目立つグループがある。いわゆるカースト上位といえる女子4人から成り立つそのグループの中にちさともいた。ちさと意外の残りの3人も当然のようにキラキラして見えるそのグループは、もはや1年の中でもかなり上位のレベルだろう。
昼休み、俺はクラスメイトの安達と山崎と購買で買ったパンを外の広場で食べていた。安達は俺の前の席で休み時間に話しているとすんなり気が合い仲良くなった。そして安達と山崎は元々中学が同じだったらしく、すんなりこの3人のグループができあがったというわけだ。
この学校には生徒玄関前にちょっとしたスペースがあり、そこで昼ごはんを食べる生徒がそれなりにいる。俺もこの場所は気に入っており、のんびり語ったりしながら過ごすにはピッタリの場所だった。
「なぁ、ぶっちゃけクラスの中で誰が1番かわいいと思う?」
安達からのありきたりな質問に山崎が答える
「まだ全然わからないけど、ハッキリ言ってあの4人は別格だよな!」
「わかる!あそこだけなんかオーラ違うもんな!マジで同じクラスで嬉しいし見てるだけで幸せになれる!」
2人はとても盛り上がっていた。
俺は「ははは…」とうまくはぐらかしていた。
「なんだよ一ノ瀬、お前は誰狙いなんだよ」
「いや、まだ高校始まって1週間で狙いとかなくね?正直ほとんど話してないからよくわからん」
「あーあ!でたでた!お前は水科さんと仲良しだからいいよなー!」
2人揃ってのセリフと視線がとても背中をチクチクする。
「いや、同じ中学だっただけだし何とも思ってないから!でもあいつ中学のときからめちゃくちゃモテてたよ?でも…」
「でも…なんだよ?なんか情報くれよー!」
思わず中学の頃にあった良くない噂のことが脳裏に浮かんだ。真意のほどがわからない情報を垂れ流すほど愚かな人間にはなりたくない。ちさとにもこの噂は耳に入っていたはずだが、否定も弁解もしなかった。それが噂が広がった理由の一つでもあったのだ。
「そんなに仲良しだったわけじゃないから、よくわからん。てかお前らは誰狙いとか決まってるのかよ?」
「あの4人なら誰でもいい!」
息ピッタリ。こいつら仲良しだな…。
でもうまく誤魔化せたようで安心だ。
「あ、そうだ話変わるけど2人は部活とかどうすんの?俺はもう野球部入るって決めたけど」
山崎が言った。
山崎は中学から野球一筋だったようだ。中学の最後の大会に涼太に打たれて負けたらしく、涼太のことを覚えていた。前に廊下で涼太といるときに会ったら「まさか同じチームになるとは思わなかったけど、今度は負けねー!」などと言っていたが「同じチームなのに勝つ…?負ける…?お前何言ってんの?」などと涼太は笑っていた。
「俺は部活は入らないよ。とりあえずバイトするかなーって感じ」
「安達は中学のとき部活やってなかったの?」
「やってないよー。学校終わって家帰ってマンガとかラノベ読んだりゲームしたりって感じで遊んでた。でも高校生になったんだし、さすがにそれだけだと寂しいからね。バイトでもしようかなって思ってる。一ノ瀬は?」
「俺は…まだ決めてないけど、とりあえず今日軽音学部に見学行く予定」
「けいおんぶ!お前そっち狙いだったかー!新田先生たまんねーもんな!」
「いや、全然違うぞ?なんなら俺は年上には大して興味が無い。…じゃなくて、俺も安達と同じで中学の頃は部活とかしてなかったんだけど、ドラム習ってたんだよね。だから高校入ったら軽音部入りたいなーって思ってた」
「いいじゃん!バンドってかっこいいしモテそうだよな!」
「いや、モテないし…。仮にモテたとしてもそれはボーカルとかギターとかベースで基本的に前にいるやつよ?ドラムなんて全然見られないんだから」
「あー確かにそれわかるかも。やっぱライブとか見てもカメラに映るのは前にいる人ばっかだもんね。てかさ、じゃあなんでドラムやってんの?」
「昔さ、とあるバンドのライブ見たときにドラムの人がめちゃくちゃかっこよかったんだよ。それで俺もこんな風になりたいって思ったんだよね」
「一ノ瀬ってさ…」
安達が言った。
「なんだよ」
「意外とかっこいいんだな」
「意外とってなんだよ!てか別にかっこよくねーから!ありきたりな理由だから!」
などと談笑をしながら昼ご飯の時間が過ぎていった。俺は高校での居場所を見つけたような気がしてこの時間がとても好きだった。
そして放課後を迎えた。
軽音学部の部室は3階の音楽室の隣にある。
「さてと…」
教室から出ようとしたらすると、明るい声が俺に向けられた。
「おーい!結人ー!」
「なんだよちさと。これから部活見学に行くんだけど?」
「あ!ついにやることにしたの?軽音でしょ?」
「え…なんでお前が知ってるの?」
「あっと…なんとなくそうかなー?って思って!ほ、ほら!前に中学の頃さ、ドラムのスティックケース持ってたでしょ?だからひょっとしてドラムやってるのかなー?とか思ってたり?」
「んだよそれ。まあ合ってるんだけどさ」
「じゃあ吹奏楽部は部室音楽室だし、となりだから一緒に行こうよ」
「おう」
クラスには慣れた?友達できた?などと軽い話をしているうちにあっという間に部室の前に着いた。
「ねえ結人…1つだけ言っておきたいことあるんだけど…」
「ん?なに?」
「あのね…新田先生は高嶺の花だと思うよ?」
「お前までバカなこと言ってんじゃねーよ!」
「あはは!じゃあまったねー!」
そのままスタスタとちさとは音楽室に入っていった。
ったく…なんでどいつもこいつも恋愛脳なんだよ。高校生になって浮かれすぎじゃね?まだこないだまで中学生だったのに…などと思っていたが身近に彼女持ちの奴がいるから何とも言えない気分になった。
それにしてもやっぱ初めての見学は緊張する。これなら安達にでもついてきてもらった方が良かったかもしれない。
好きな音楽が同じ人とかいるといいな。緊張しながらも俺はその重く固い部室のドアを開けた。
「失礼します…」
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