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session  作者: 北稲とも
19/80

スタート

 全員のリハも終わり、会場内に部員全員が集まっている。お世話になるライブハウスのスタッフやマスターに挨拶をし、スタートまで30分を切った。


 新田先生がステージに立ち挨拶をする。


「今日は1年生にとって初めてのライブです。約1ヶ月という短い時間でしたが、皆さん必死に練習をして、今日を迎えられたことができました。初心者の1年生は、まだまだこれからです。経験者や先輩の演奏を見て、たくさん学んでください。あとは練習の成果を出し切って、みんなで楽しみましょー!」


 いつもは大人しい先生が腕を上げて盛り上げる。


「うおー!」「いえーい!」


 歓喜に満ちた声や拍手が会場に響き渡る。

 緊張感を払うように、ただ単純にライブを楽しむために、その歓声はいつまでも響いていた。


 オープンの時間になり、部員が誘った友達や恋人や家族がたくさん会場に入ってきた。


「結人ー!来てやったぞー!」


 涼太とひかりが一緒にいた。


「お疲れ。今日はわざわざありがとうな」


「久しぶりに結人がライブやってるの見れるからな。楽しみにしてるぜ」


「出番最後だからちょっと時間あるけど、楽しんでいってよ。えっと…ひかりさん?も楽しんでください」


「一ノ瀬くん久しぶり!元気だった?楽しみにしてるね!」


「うん。じゃあまた後でね」


 そう言って2人と別れ、安達と山崎が見えたのでそちらに向かった。


「安達、山崎。今日は来てくれてありがとな」


「おーっす!ライブってこんな感じなんだな!めちゃくちゃテンション上がるわ!」


 安達が少し興奮気味に話している。


「おい、あそこにいるの柊だよな?隣にいるかわいい子は彼女?」


「ああ、中学の頃からの彼女だよ」


「バット持ってきてたっけな…」


 山崎は相変わらずだ。もし山崎のことを気になっている女子がいたらすぐにでも教えてあげようと思う。可能性は限りなく0に近いが。


「おい!あそこ!」


 山崎が指をさした方向にいたのは、ちさと・梨木・星峰・横田の1組カーストトップのグループだった。


「し、私服姿も眩しすぎる…!!」


 安達も山崎もライブなんてそっちのけで女子をずっと眺めてそうだ。だが確かに4人ともかわいいと一言で表しきれない。会場にはいろんな女子も来ている。だが、どこにいてもすぐにわかるくらい目立っていた。


「あ!結人ー!来てやったぞー!」


 ちさとが俺に近づいてきた。


「ああ、今日はありがとうな。梨木に誘われたのか?」


「うん!初めてのライブって言ってたし応援しに来たんだ。あ、ついでに結人の応援もしてあげるからね!」


「俺はついでかよ」


「こんな美女に応援してもらえるなんてなかなかないよ?ほら、ありがとうは?」


「はいはい、ありがとうございます」


「よろしい」


 俺も少しは緊張していたが、ちさとと話しているうちにどこかへ消えてしまった。


「あ、あの…水科さん?お疲れ〜」


 恐る恐る声をかけたのは安達と山崎だった。


「あ!安達くんに山崎くん!来てたんだ!」


「う、うん。一ノ瀬に誘われて来た」


「そうなんだ!じゃあみんなで一緒に見ようよ!おーい!まどかー!結衣ー!」


 ちさとのみんなで見ようという声かけによりその場にいた1組の人が全員集まった。みんなで見ることに反対の人は誰もいなく、一緒に楽しもうとはしゃいでいた。


「じゃあそろそろ行くかな。梨木はまだいる?」


「ううん。私も行く。じゃあ楽しんでね」


 そう言い、その場から離れようとしたとき安達と山崎が俺にこっそりと「お前と友達でよかった。今日は忘れられない夜にする」などと伝えてきた。


「お前ら何しに来たんだ…」


 その声は梨木にも聞こえていたらしく、俺たちは笑いながらその場をあとにした。


 16時になり部長がステージに立った。

 スタートの挨拶をし、最初のバンドがステージに立つ。

 そして、いよいよライブが始まった。



 流行りの曲や盛り上がりやすいバンドの曲。アニメソングなどいろんなバンドがいろんな曲を披露していた。

 初心者はぎこちない演奏だったが、練習してきたというのが伝わって曲が終わるたびに会場から拍手が送られる。


 俺と梨木は控室にいた。演奏が終わり戻ってきた人はやり切った感じではしゃいでいる人もいれば、間違えたようで少し落ち込んでいる人もいる。それを励ましている先輩もいる。


「なんかいいな、こういうの」


「そうだね。みんな頑張って練習したんだもんね。私も負けないようにしないと」


「俺もだ」


 そしてあっという間に時間は過ぎていき、次が俺たちの出番となった。


「遥香、いまの気分はどう?」


 小笠原先輩が梨木に声をかける。リハ後に落ち込んでいた梨木のことを心配していたが、副部長のためやることがたくさんあり声をかけれなかったことが申し訳ないのだろう。

 そして、難しい曲を選んでしまった責任感もあったと思う。内緒にしていたが、初めてスタジオに3人で入った日から何度も「遥香、大丈夫そう?」と心配しているLINEが俺に来ていた。その度に「大丈夫です。きっとやってくれます」と返信していたが、やはり心配だったんだなと感じた。


「正直、リハのときより緊張しています。でも、みんなのこと見ていたら緊張よりも早く演奏したいって気持ちが大きいです。私たちの演奏で会場を盛り上げたい。すごいよかった!って言ってほしい。絶対に忘れられないライブにしたい。だから、大丈夫です」


「よく言った!それならもう大丈夫だ!」


 小笠原先輩は梨木の背中を叩いてギターを持ちステージの袖からじっと会場を見ている。


「小笠原先輩、誘ってくれてありがとうございます」


「ん?そんな改まってどうしたの?」


「いや、小笠原先輩が誘ってくれなかったら俺はこうしてこの場に立つことできたかわからかったので」


「なーに言ってんの!私が誘わなくてもいっちーは大丈夫だったよ」


「いや…。あの、1つ聞きたいんですけど、小笠原先輩、無理してないですよね?」


 その言葉のあと、小笠原先輩は無言で下を向いた。


「無理は…してないよ。いっちーはこういうときだけ察しがいいんだからかわいくない後輩だ!」


「やっぱり、あのとき話してくれた赤いテレキャスって部長のことだったんですね」


「…うん。あの人に追いつきたくて1年間必死に練習した。それで今日は一緒のステージに立てる。あとちょっとで3年生は引退するから、一緒にライブに出れる機会はこれが最後かもしれない。ほら、部長ってあんなだしさ。だから、このライブは私にとっても大切なものなんだ。ごめんね?本当は1年生が主役なのに」


「そんなことないです。それに、ライブは出る人全員が主役ですよ」


「あはは!なにそれ!くさいー!」


「演奏中に後ろからスティック飛んでくるかもしれないので気をつけてくださいね」


「やめろー!あ、終わるよ。よーし!頑張りますか!」


「はい!頑張りましょう!」


 小笠原先輩には本当に感謝している。

 俺を誘ってくれたこと、気まずいかもしれないのに部長を誘ってくれたこと、梨木のやりたい曲を選んでくれたこと。

 最高のライブにして恩返しをしようと心の中で強く思っていた。


 ステージに行き、セッティングをしている。準備が終わりライトが点いた。


「せーの、遥香ー!!」


 ちさとたちが声援を送っている。梨木は恥ずかしそうに手を振って応える。


「一ノ瀬ー!」「結人ー!」


 安達に山崎、涼太たちが声援を送ってくれる。

 気づけばみんな最前列に来ている。こりゃ失敗はできませんね。俺はふぅと大きく息を吐いた。


「どーもー!いよいよ最後のバンドでーす!みんなまだ盛り上がる元気はあるかー!」


 部長が会場を盛り上げる。こういうときイケメンの陽キャは便利だ。


「うおおおお!」


 会場が今日1番の盛り上がりを見せる。


「じゃあさっそく始めるぜー!」


 そのかけ声とともに小笠原先輩がギターを鳴らし、俺たちの演奏が始まった。

ご覧いただきありがとうございました。

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