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session  作者: 北稲とも
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ストラトキャスター

 5月末のライブまで残り2週間を切った。

 ライブが近づくにつれて不安と焦りが俺に歩み寄ってくる。梨木も同じことを考えているらしく、「大丈夫なのかな?」とLINEで相談を受けたりしていた。

 そう、本来なら合わせ練習で1回はスタジオに入っている時期なのだが、俺たちのバンドはまだ1回もしていない。


 原因は2つある。

 1つは1年の部員数が多いこともあり、バンド数が例年より多いこと。そのため部室のスタジオが埋まっているのだ。他の部員たちも同様に練習不足になることを懸念し、外部の有料スタジオに行く人もいる。もちろん初心者にこうした経験を積ませるのも目的となっている。


 そしてもう1つの理由が、部長だ。

 結局5月になっても部活には顔を出してなく、1年はまだ会ったことない人がほとんどなのだ。小笠原先輩が連絡を取ってくれているが、本番の1週間前に1回だけ部室に来てくれると言っていたようだ。


「いっちー、遥香、ごめんね」と小笠原先輩は言っていたが、俺たちは「気にしないでください」としか言えない。こうして俺たちは個人練習だけを続ける毎日を過ごしていた。


 ライブまで残り10日を切ったある日の夜、梨木から電話がきた。


「ねえ、ライブとか初めてだからわからないんだけど、こんなギリギリで大丈夫なの?」


 不安になるのもわかる。技術は高いが梨木もライブは未経験なので、ライブで演奏することに関しては他の初心者と同じようなものだ。


「正直、本当なら何度か合わせるのにスタジオ入りたいと思うけど、部長忙しいみたいだからしょうがないかな…」


「美優先輩がずっと険しい顔してた理由がわかったよ。てか今まで1回も来てない部長ってどうなの!?」


 そこからの梨木の愚痴は止まらなかった。いろいろと言ってスッキリしたタイミングを見計らって俺は言った。


「部長の技術は間違いないから、俺らがちゃんとできてたら問題無いと思うよ」


「なんで一ノ瀬は部長が上手いの知ってるの?」


「実はGWにsing行ったとき、たまたま部長と新田先生が一緒にいてさ。3人でスタジオ入ることになったんだよね。めちゃくちゃ上手かった」


「ふーん。初めて聞いた。教えてくれなかったんだ。ふーん。」


 拗ねてる感じが伝わってきて、少しだけかわいいなと思ってしまう。


「それよりゆづ先生もスタジオ入ったの!?ゆづ先生って何やるの!?」


「あっ…と…新田先生は見学してただけだよ」


「なーんだ。ゆづ先生って担当音楽だしギターとかできて顧問ってわけじゃないんだね」


 3人でスタジオに入った日、帰り際に新田先生から「このことは内緒にしてね」と念を押されたのだ。だから申し訳ないが梨木にも嘘をついた。


「梨木さ、心配ならボーカルいないけど小笠原先輩誘ってsingのスタジオ入るか?」


「行きたい!」


「明日空いてるから小笠原先輩にも聞いてみるわ。わかったらまたLINEする」


「うん!じゃあ連絡待ってる。おやすみ」


「おやすみ」


 こうして電話を終えてすぐに小笠原先輩に電話をした。小笠原先輩も空いてるらしく、明日は3人でスタジオに入ることになった。



 次の日の放課後、俺と梨木は2人でsingに来た。小笠原先輩はクラスの仕事で少し遅れるらしく、現地集合にした。


「おう結人!いらっしゃい!あれ!一緒にいるのは彼女さん?」


「マスターお疲れ様です。って違いますよ!今度のライブで一緒にやる梨木です」


「は、初めまして。梨木遥香です。よろしくお願いします」


「うん。よろしくね!…ほうほう。なるほどね〜」


マスターの顔がやけにニヤついている。


「いや、マスター何ニヤニヤしてるんですか。気持ち悪いですよ」


「いや、なんでもない。梨木ちゃんよろしく。結人のドラムはもう見たことあるの?」


「は、はい。最初にスタジオ入って一緒にやったので…」


「あ〜そっかそっか。結人ってさ、ドラム叩いてるときかっこいいでしょ?」


「ちょ、マスター!?何言ってるの!?」


 俺は顔を真っ赤にして大きな声を出してしまった。あまりの恥ずかしさに動揺を隠せない。チラッと梨木の顔を見ると、俺と同じように少し顔を赤らめた梨木がいる。


「…はい。正直ドラム叩いてるときはかっこいいです」


「おい!お前まで何言ってんだよ!てかドラム叩いてるときだけって失礼だろ!」


 梨木の発言でマスターが大きな声で笑っている。そうこうしている間に小笠原先輩が来た。


「あ!いっちーと遥香いる!遅くなってごめんね!」


「小笠原先輩、ナイスタイミングです。遅れて登場したヒーローに見えます」


「ん?どゆこと?」


「なんでもないです。さ!練習行きますよ!練習!」


 さっきより顔が熱い。あんなこと言われたら練習もやりにくいだろ。気にしないようにしようと思うが、目の前に顔を真っ赤にしている梨木がいた。


----なんでお前が顔を赤くしてるんだよ


 スタジオに入り、それぞれセッティングしている。小笠原先輩のギターは赤いストラトキャスター。かわいらしい身なりにピッタリ似合っている。


「小笠原先輩って赤のストラト似合いますよね」


「え?いきなりどうした?何も奢らないよ?」


「いや、改めてこうして見てたら似合うなーって。なんでそのギターにしたんですか?」


「前は違うの使ってたんだけどね。好きな人が赤いテレキャス使っててカッコよくてさ。同じの欲しいって思って、その人と新しいギター見に来たときに、ストラト似合うって言われて」


「美優先輩、その話めちゃくちゃいいです!もしかして彼氏さんですか?」


 梨木がその話にとても食いついた。15歳の女の子らしく恋愛に興味津々なのだろう。


「いやいや!彼氏じゃないから!ていうか私彼氏いないし!」


「えー。美優先輩こんなにかわいいのにその男見る目ないですよ!私だったら絶対付き合う!」


「私も遥香とだったら絶対付き合うよ〜!どう?この百合いい感じになりそう?」


 小笠原先輩は梨木にハグして顔を近づける。美女同士でとても似合いすぎている。


「さ、練習始めますよ」


「いっちーから聞いたくせに!」


 恥ずかしそうに答える小笠原先輩はどこか悲しそうな表情を一瞬だけ見せた。その恋はまだ続いているものなのだろうか。もしそうなのであれば、いつか叶ってほしいと思いながらスティックでカウントを取り、曲合わせが始まった。


-----そして俺は同時に橘部長が赤いテレキャスを弾いていたのを思い出していた

ご覧いただきありがとうございました。

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