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session  作者: 北稲とも
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試練と決意

 あれから数日経ち、GWが始まった。

 父親が帰ってくることもあり、俺は家の掃除を念入りにした。約1ヶ月ぶりに会う父親とはたまに電話をしたりLINEをするぐらいのため、久しぶりに会えるのが少し楽しみだった。


 そして正午を迎えようとする頃に父が帰ってきた。


「ただいま」

「寂しい思いをさせてすまない」

「学校はどうだ?」

 など、これまでは電話越しで話していた内容を繰り返し聞いてくる。父はいつも俺に謝ってばかりだった。「気にしなくていいよ」とは言うが、やはり親なのだろう。俺のことが心配で仕方ないのだ。だから俺も父に心配はかけないよう上手く生活をしていた。


 父は俺に何か欲しいものがあれば買ってやると言ってくれたので、一緒に楽器屋に行くことした。いつものsingに着くとマスターが挨拶をしてきた。


「結人くんのお父さん!いや〜久しぶりです!」


「こちらこそいつも息子がお世話になっています」


 大人同士の会話が始まったので、俺は新しいスティックを買うためドラムコーナーに向かった。


「あれ?一ノ瀬くん?」


 聞き覚えのある声がしたので、振り返ると新田先生がいた。


「あ、先生。こんにちは。こんなとこで会うなんて驚きました」


「そうだね。GWだからってハメを外したらだめだよ。ちゃんと学生らしく〜」


 どこからどう見ても先生には見えず年上のお姉さんに見える。そして隣にはかなり若めの男がいた。大学生のような感じのイケメンな男だったので「彼氏かな…?」と思ったので聞いてみることにした。


「あれ、先生、ひょっとして彼氏ですか?」


 ちょっとした冗談混じりの感じで聞いてみた。


「あれ?会ったことないの?部長の『橘 隼人』くんだよ。ほら、橘くん挨拶しなさい」


 そう言うとその人は怠そうな感じで答えた。


「橘でーす。あれ、お前軽音なの?あ、ゆづちゃん、俺そういや3年になってからまだ部活行ってないから誰も知らないわ。あはは」


 これは仲良くはできなさそうというのが第一印象だった。何事においても適当という感じが伝わってくる。


「こら、部長なんだからもっとちゃんとしなさい」


 新田先生もその態度を見て思わず怒っているようだ。それでも部長はヘラヘラしているので俺は少しイライラしてきた。いや、それよりもこの人と一緒にバンドを組むことを思い出し、小笠原先輩が誘うのを躊躇っていたのも納得できた。俺は本当に大丈夫なのか?と心配な気持ちになる。


「初めまして。1年の一ノ瀬といいます。今度の5月のライブで小笠原先輩と一緒に組む話聞いてますよね?俺がドラムなのでよろしくお願いします」


 俺は少しだけ口調を強めに言った。先輩に対して大丈夫なんだろうな?と感じとれるように。


「ん?ああ、そういえば美優がそんなこと言ってたな。てことはお前が噂の1年ドラマーか。それよりさ、ベースの女がめっちゃかわいいんだろ?そっちは今日いないの?見たいんだけど」


 俺はあまり感情を表に出さないタイプだ。物事には1歩引いて、冷静に考えるようになるべくしている。だがそんな俺でも怒りが湧いてきた。


「梨木なら今日はいませんよ。ていうか部長ならちゃんと部活来てくださいよ。小笠原先輩に任せっきりじゃないですか」


「美優がちゃんと部をまとめてるだろ?なら俺は別に好きにしていいじゃん」


 そのときだった。部長の頭に思いっきり平手が飛んできたのだ。


「痛い!」


 新田先生が思いっきり部長のことを叩いていた。


「ゆづちゃん酷い!体罰!この時代に体罰はダメ!」


 俺は思わず口をポカンと開いてそのやり取りを見ていた。新田先生の無言の平手打ちは止まらず続いている。


「ちょ、ちょっとゆづちゃん!わかった!俺が悪かった!ごめんって!…でも叩かれてちょっと嬉しいかも!」


「一ノ瀬くん、ごめんね?こんなだけど私がしっかり言い聞かせるからよろしくね?」


「は、はい…。部長、改めてよろしくお願いします」


 俺はさっきまでの怒りがすっかり消えていた。むしろ新田先生の連続平手打ちを見て笑うのを我慢してたくらいだ。この2人のやり取りがとても面白かったのだ。


「おう。ていうかさ!お前そこそこドラムできるんだろ?暇ならスタジオ入らねーか?」


「いや、今日は父さんと買い物に来ただけだから…」


 そういうとタイミングよく父がマスターとの会話が終わりこちらに来た。


「あれ?結人の友達かい?」


「いや、軽音部の部長と担任の新田先生」


「え!い、いつも息子がお世話になってます!えっと…失礼ですが本当に担任の先生?いや!とてもお若くて美人なのでつい…」


 わかるぞ、父よ。俺ら高校生から見ても美人だと思うくらいだ、おじさんから見たらたまらないのだろう。


「だってよ、ゆづちゃん。よかったな」


 部長がそう言うとまた頭の上に手を向けられて部長は逃げて行った。


「お世話になっております。担任の新田です。軽音部の顧問も務めておりますので、よろしくお願いいたします」


 父親を見るとデレデレしている感じがとても気持ち悪い。おい、三者面談とかあっても絶対来るなよ。むしろ今後学校には近づくな。


「父さん、ちょっとスタジオ入ってから帰ってもいい?」


「ああ。先に帰ってるから、ゆっくりしておいで」


「ありがとう」


 そう言うと俺は新田先生と部長と一緒にスタジオに入った。


「じゃあ適当にやりますか。合わせるからとりあえず好きに叩いていいよ」


 部長がギターを準備しながら言った。小笠原先輩の話だとかなり上手だということは聞いている。一緒にライブに出ることもあり実力が気になっていた。そしてもう一つ俺が目についたのは新田先生だった。


 どこから出したのか、スティングレイのベースをアンプに繋げ、チューニングをしている。俺はその姿をじっくり見ていた。


「おい、お前聞いてんのか。早くなんか叩けよ。ははーん、さてはお前ゆづちゃんに見惚れてるな?」


「あ…すみません。ていうか先生ってベースだったんですね」


「そっか。1年生は知らないよね。これでもちゃんと軽音部の顧問なんだってとこ見せてあげるよ〜」


「ていうか2年も知らないんじゃねーの?ゆづちゃん去年ライブ出てないし誰かに見せたことある?」


「あ、確かにないかも。どうする?一ノ瀬くん適当に叩いて合わせる?それとも何か曲のほうがいいかな?」


「何か曲のほうがいいですかね。みんなできる曲あればですけど…」


「3人だしお前がどれくらい叩けるか知りたいからな。俺もガンガン音出したい気分だしホルモンでもやるか。できる?」


 いきなり激しいところを選んできたなと思った。だがこれは俺が試されているから当たり前なのだ。


「有名な曲なら大丈夫です」


「いいね。じゃあブラックパワーで」


 そう言うとすぐにギターを弾き始めた。俺もそれに合わせると新田先生も合わせる。

 この曲はイントロからベースがかなり激しい曲なのだが、新田先生がすごすぎた。全くズレることなく、完璧な演奏だった。そして部長も完璧だった。小笠原先輩が言う通りとても上手かった。


 あっという間に曲が終わり、新田先生が「あー!楽しい!さいこー!」とはしゃいでいる。その姿はいつもの綺麗で清楚な先生とは別人だった。


「ゆづちゃんのベース最高!大好き!」


 部長がふざけているとまた平手打ちを喰らっている。カップルがふざけ合っているようにしか見えないやり取りだ。


「いいじゃん、一ノ瀬。気に入ったわ。5月のライブ楽しみにしとくぜ」


「先生も楽しみにしてるから頑張ってね!」


 こうしてスタジオから出た俺は1人帰り道を歩いていた。

 部長と先生の実力は明らかにレベルが違った。先生はさすがの顧問といったところだが、部長があれほどまでに上手いとは思っていなかった。


「あの人と一緒にライブに出るのか…」


 俺のモチベーションは高まった。思えば中学時代にドラムを習っていた頃、singのイベントのライブに出るときは大人たちに囲まれていた。上手な人だらけで支えられていたことを思い出し、同時に小笠原先輩が言ったことが浮かんでくる。


「俺なんて全然上手じゃない。もっと練習して上手くなってやる」


 やる気に満ちた俺は残りのGWをドラムの練習に費やした。

 父はそんな姿の俺を見ると微笑ましく、「頑張れよ」と言ってくれる。

 父も、先生も、ちさとも、梨木も

 みんなが俺に頑張れと言ってくれる。なら俺はそれに応えるだけだ。やってやる。最高の演奏を見せてやる。



 そして、父はまた単身赴任先へ向かいGWも終わりを迎え、学校が始まった。

ご覧いただきありがとうございました。

もしこれから先も読んでみたいと思っていただけたら、ブックマークや評価などして頂けるととても嬉しい限りです。

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