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session  作者: 北稲とも
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君と羊と青

 次の日、昼過ぎに梨木は俺の家に来た。


 ややワイドサイズの黒いパーカーに白の細身のボトムスというシンプルだけどオシャレなのが伝わってくる服装。そして背中にはその容姿に似合わないベースを背負って来た。玄関を開けてその姿を見たとき、思わず見惚れてしまいそうになるくらいかわいいと思ってしまった。


「おじゃまします」


 少しばかりぎこちなく入ってくる姿は普段クラスで見せている梨木とはどこか違う印象を与える。この梨木遥香を知っているのは俺だけなのだという優越感に少しくらいは浸ってもいいのだろうか、などと考えながら居間に案内をしてお茶を出した。


「ベース、持って来たんだな。大変だったろ?」


「大変だったよー。でも前に次来るときは持って来てって言ってたし、曲決めるならあったほうがいいかなって」


「わざわざご苦労さま。じゃあちょっと休んだらさっそく決めていきますか」


「うん。お茶ありがとう。いただきまーす」


 梨木は少し緊張しているようだったが、前に来たときよりリラックスしているようだ。そして少しの会話のあとに曲決めを始めた。


「美優先輩が言ってたけど、なるべくみんなが知ってそうで、それでいて難しめの曲にしてほしいんだって」


「ふーん。みんな知ってるって言ったら…この辺のバンドとかかな…?」


 俺たちは王道ともいえるようなバンド名をいくつも挙げていく。しかし、肝心のボーカルをどうするか決めれないため、小笠原先輩がいないと先に進めないことに気づいた。


「とりあえずいくつかバンドは挙げたな。ちょっとこれ以上は決められないから、小笠原先輩にLINEしてみない?」


「そうだね。美優先輩、い、ま、暇ですかっと…送ったよ」


 すぐに返信が来たらいいが、そればっかりは小笠原先輩次第になってしまう。かれこれ梨木が家に来てから1時間以上経っていた。


「そういや梨木は事変好きなんでしょ?やりたいんじゃないの?」


「んー。やりたいけど、キーボードがいるかわからないんだよね。それも美優先輩に聞かないとわからないし」


「確かに。むしろ今日の曲決めに小笠原先輩も呼べばよかったなって思ったわ」


「あははっ。確かに」


 確かに小笠原先輩がこの場にいたほうがスムーズに2年生の部員のことも教えてもらえただろう。今日はあくまでも曲決め。そのために来たんだから。


「あ、返事きたよ。暇だってさ、なんて聞く?」


「うーん、とりあえず電話するわ。…あ、もしもし小笠原先輩ですか?お疲れさまです。一ノ瀬です」


 ---えっ…いきなり電話するんだ。


「いっちーお疲れ〜。どうしたん?」


「いま梨木と曲決めてるんですけど、なかなか決まらなくて。小笠原先輩もしよかったら今から一緒に決めませんか?」


 ---今日は2人きりで決めると思ってたけどしょうがないよね。2人じゃ決めれないもんね。


「お!やる気満々だね〜。全然いいよ!このまま電話でいいのかな?」


「うーん、俺ん家で決めてるんですけど、よかったら小笠原先輩も来ませんか?」


---なんで?電話でいいんじゃないの?来ることないでしょ。


「い!え!…いっちーと遥香2人っきりなの?そんなとこお邪魔になるから行けないよ〜」


「いやいや、なんでそうなるんですか。小笠原先輩いないと部活内のことよくわからないので、よかったら来ませんか?住所は…」


 ---邪魔。邪魔だよ!!来ないでよ!!


「15分くらいで来るってさ。小笠原先輩、割と家近いらしい。ギター持ってきてくれるみたいだし、これで今日中に決めれそうだな」


「うん。そうだね。曲決まったらあとは練習するだけだね。早く美優先輩来ないかな〜。一ノ瀬と2人きりも飽きてきたし」


「おい、ここは俺ん家だぞ」


 自分が嫌いになる。必死にこの卑しい気持ちがバレないように、笑顔をつくって思ってもいないことを言って。でもこれでいい。今日は曲決め。一ノ瀬も美優先輩も悪くない。悪いのは私だ。また遊びに行っていいんだって昨日から浮かれていた私が悪いんだ。


「ちょっとトイレ貸りてもいい?」


「ん?そこ出て右のドアね」


「ありがとう」


 トイレの中で必死に自分の気持ちに蓋をした。もうすぐ美優先輩も来る。こんな気持ちになってたらダメだ。切り替えないと。


 Bluetoothのイヤホンを付け、シャッフルで音楽を流す。そこから流れてきたのはRADWIMPSの「君と羊と青」だった。

 その曲を聴きながら目を閉じると、あの日の一ノ瀬の姿を思い出す。


 眩しかった彼を。

 ずっと憧れてた時間をくれた彼を。

 これからたくさんの時間を一緒に過ごすことになる彼を。


「そっか…わたし一目惚れしてたんだな」


---------------------------------------


 トイレから出ると、美優先輩がもう来ていた。


「やっほー。大丈夫?お邪魔じゃなかった?」


「美優先輩。全然邪魔じゃないですよ。急な誘いだったのにありがとうございます。助かります」

美優先輩はさっきまで2人で出してた案のプリントを見ていた。


「一ノ瀬、美優先輩。わたしこの曲やりたいです。聴いてください」


 スマホから流れた曲は、梨木遥香がさっきまで聴いていた、自分の気持ちに気づかせてくれた曲だった。

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