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秘密結社海星堂  作者: ぱるこμ
9/9

A街殺人事件貮・閑話休題

読んでくださりありがとうございます

その一報が入ったのは朝のこと。

見世物小屋がたった一人の男により襲撃されたのだ。死者九名。重軽傷者三十二名。そして被疑者死亡。生存者の話によると、鬼のように団員を襲い、プツンと糸が切れたかのように動かなくなった。そして地獄のような惨状に、急に喚き錯乱し、自身の首を切り自害した。これが一連の結末だった。

新聞記事に死亡者の名が記載されているのを見て、藤緒と董子は泣き崩れた。


「そんな、皆が」

「優しい人だったのに」

「何も…あの人達…私達は何も悪い事をしていないのに、どうして殺されなきゃいけないのよ!」

「きっと、私達もあの場所に居たら殺されていたかもしれない…。私達だけ避難していたの、申し訳なくて…」


鳴き続ける姉妹の背中を、楓が摩る。

どう声を掛けていいか解らなかった。まだ十五、六の女の子が、家族同然の人達を殺されて泣いているのに。胸が苦しくなって、楓は姉妹の肩を抱きしめた。

そのぬくもりに安堵したのか、緊張の糸が切れたのか。姉妹達はわんわんと泣き出した。


「仇は取るからね」


精一杯考えて、出た言葉がこれだった。だが、そう思っているのは楓だけではないようだ。


「藤志朗の話を聞く限り、富士川貞道。奴が関わっているのは確実だろう。奴等の拠点をすぐにでも見つけないと、終わりが来ないぞ」


雅比古が言う。


「その拠点だが、奴等の本拠地と薬品製造をしている二ヵ所か。それとも、一ヵ所に纏めた場所に身を潜めているのか…どちらだと思う?」


藤志朗の問いに、雅比古は顎に指を当てて考え始める。


「人を錯乱させるほどの薬品を作る…それならどこかの研究室を取り入れないと…。いや、錯乱させることが出来る代物がある」


アヘン。人を興奮状態にし、繰り返し使用すれば幻覚症状を見せる。これを改良―改造とでも言うか―しているとなれば、一回の注射でも人を狂わせることが出来るのかもしれない。


「待ってよ。アヘンってそんな簡単に栽培とか出来るの?」

「道端でも自生するぞ。勉強になったな、楓」


どこか子供扱いされた楓は、げっそりとした顔で藤志朗を睨んだ。


「叔父にもこのことは伝えるぞ。だが、仇を取ると言った奴がいる以上、海星堂でも動くからな」

「俺の勘だが、顔が割れた以上、奴等は楓と藤緒、董子をまた襲いに来ると思うぞ。こっちの警護も徹底しないとな。アイツ等は一度俺達に勝っている。また勝てると思っているだろう」

「…そうだな。一旦俺は客室へ戻るぞ。喫茶海星に行かなきゃならないからな」


そう言うと、雅比古は階段を上がっていく。ふと、気になった。昨夜、雅比古が来なかったのか。どうして護衛としている雅比古がいなかったのか。

楓は雅比古の後を追い、呼び止めた。


「久世さん。あの、話したいことがあって」

「なんだ」


「どうして、昨夜いなかったんですか…護衛として、一緒に生活し始めたのに」

「その事か。はぁ…情けない話だが。無事保護された娘さんがいただろう」

「あぁ、あの混血の子ですね」


「そうだ。その子のために、百羽でもいいから折り鶴を折れと藤志朗が言い出したんだ。俺に内緒で…藤志朗も、陵介も俺に相談せずにお前を迎えに行ったんだ。俺は何も知らずに、のうのうと折り紙をしていた、とんだうつけものだよ」


「久世さんって、結構勘が鈍いんですね。俺も人の事言えませんが」

「そうだよ。お陰で俺は躍起になって折り紙を折っていたんだ。所詮いた所で、拳銃を撃つこともままならない。俺が実戦向きじゃあないってことを、アイツ等は知っているからな。話はもういいか?」

「あ、はい。ありがとうございました。あの、あと喫茶海星に行く理由ってなんですか?」


その答えに、楓は納得した。


「売上金を集計しに行くんだ」


―A街殺人事件・閑話休題―


「富士川様。こちらが記録です」


菊子が、富士川に書類を渡す。そこには見世物小屋を襲う男の絵と、どういう症状があったかを細かく書いた紙が十数枚に渡りあった。


「昨日はすまなかったな。女にあんな重労働をさせてしまって」

「とんでもありません。富士川様のお役に立てるのであれば、私は苦労も買ってでますわ」


「しかし、これで奴等に近づく手段が断たれた。他に使えそうな奴はいるか?」

「それでしたら、私にいい考えがありますわ」


「そうか。では任せた。上手くいき次第、また瑠可を合流させよう」

「お任せくださいませ」


一礼すると、菊子は揚々と部屋から出ていく。そして入れ替わるように、瑠可が顔を出す。その様子はまるで失敗した幼子のようであった。


「怯えずとも、こちらへ来なさい。折檻などしないから」

「昨夜の失態。大変申し訳ありません。菊子様にもご迷惑を…」

「お前は私を庇った。そして倒れた。瑠可は私の身を挺して守ったのだ。胸を張れ」

「富士川様…!」


瑠可は頬を染めながら酔心していく。

富士川達は、生産した薬品を売っては資金源を蓄えていた。現に、富士川の演説を聞いた薬剤師が感銘を受けて協力しているのだから。

この金で更に大きな研究所を買収し、より効率良く生産していくのが目的だ。顧客も既に付いている。自分の手を汚したくない富裕層が買っていく。


「この薬は日本を変える。強き兵士を強制的に作ることが出来る」


富士川の夢は、瑠可の夢でもあった。


過去回想


瑠可の母は、位の高い遊女だった。誰の子か解らない赤子を身籠った。生まれたのは、金髪という混血児だった。それは、母がたった一回だけ相手にした外国人が父親だった。妊娠を気に、母を娶りたいという金持ちはいたが、混血児というだけで我が子の可能性が無いと知ると、挙手する者は誰もいなくなった。

母は、また遊女として身を売ることとなった。


男児だった瑠可は将来忘八者か、陰間として売られる予定だったが、短気で喧嘩っ早さから前者になるであろうと言われていた。そして、ある日母に頼んだのだ。剣術を学びたいと。楼主からの許しも得て、瑠可は剣道場へと通うこととなった。そこで、富国強兵の意味を知った。日本人が強くなければ、国は守れないこと。国が侵略の危機にあること。


そして、自身が混血であることを酷く憎んだ。


成長するにつれて、顔立ちが日本人とは違っていく。道場の連中からは混血児として馬鹿にされた。髪も、無理矢理染料を塗られたこともあった。

それでも負けずに道場へ通った。師範の考えに感銘を受けたからだ。ここで強くなれば、いつかお国のために兵隊になれると信じた。


続けるうちに、腕はみるみる上達していった。今では、瑠可を馬鹿にするものも、手を出す者もいない。

それから時が流れ、十五になった時だ。

しかし、その端正な顔立ちから、暴漢に襲われそうになった日があった。持っていた竹刀で撃退したが、心に傷を負ったのは確かだった。過去の記憶が蘇る。この顔のせいで、イジメにも遭い、差別され、暴行されそうになったと、嘆かわしくなった。

道端に落ちていた石を拾い、自分の額に打ち付けた。額の皮膚は薄いから、血がぶわりと溢れ出る。


「もっと、もっと傷をつけないと…!」


その手は震えていた。痛さや、自分で自分を傷つける恐怖や痛み。だが、そうしなきゃ気が済まない心。もう、ただ苛立ちと悔しさから涙が溢れた。


「泣くな、俺…!俺は、日本男児なんだぞ!だから、泣くな…」

「怪我をしているじゃあないか、少年」


そこで出会ったのが、富士川であった。


「ハンカチをどうぞ」

「い、いらない!これは自分でつけた傷だ!勇敢である印をつけるために!」

「そうか…君は今、いくつだ?」

「十五歳だ。今は、忘八者をやっている」


「そうか…君なら、立派な戦士になりそうだな」

「戦士…?兵士ではなくて?」


「私は、今国のために命をも惜しまない戦士を捜しているのだよ。君なら解ってくれるだろうか」

「国のために命を惜しまない…?俺は、俺はそうなりたいんだ!だから、二十歳になったら俺は兵士になるんだ!」

「残念ながら少年。徴兵の中には君のように命を捧げる覚悟の無い奴等がいることを知っておいてほしい」

「え…」


富士川はおもむろにズボンの裾を上げると、義足だった。


「命を懸け、死に際を逃した哀れな俺を、どう思う」

「どうって…どうして、死ねなかったのですか」

「助けられてしまったのだよ。同士にな。皆が死ぬなと声を掛けてきた。俺は足が無くても、敵陣へと特攻しようとしたのを邪魔された」


その話を聞いた瑠可の頬に、涙が流れる。


「酷い…酷い話だ。貴方は果敢にも挑んだのに、死ねなかったなんて」

「解ってくれて嬉しいよ。私の名は富士川貞道。君は?」

「桑野瑠可」

「そうか。瑠可と言うのか。良い名前だ。光をもたらす者という意味だ。瑠可がこれからの日本の光となってくれたら嬉しい」

「どういう意味ですか」


「私は富国強兵を目指し、侵略の手から逃れるために更なる強靭な精神を持った人間を育成することを目指している。まだ小さな活動だ。だが、瑠可を見て希望が見えた。まだ日本も捨てたものじゃあないな。それでは達者でな、瑠可」


そう言うと、富士川は立ち上がり歩き出す。


「待ってください!俺も、俺もその一人になりたい!」

「それは…同士となってくれるという意味か?」

「なります!俺は…俺は強くなり、外国からの魔の手を防ぎたい!今の日本は外国産業に溢れ、頼りすぎている!船だってそうだ、いつ攻められても可笑しくない!それなのに、呑気に毎日を過ごしている!」

「本当に君とで会えて嬉しいよ、瑠可」


男惚れだった。瑠可は、この日を境に遊郭から去った。富士川に着いていったのだ。

全ては彼の思想の現実のために。


回想終了


あの時、出会えたのが富士川でよかったと、瑠可は心底思う。文武両道であり、剣にも銃にも精通している彼を、敬愛してやまない。


「そうだ、瑠可。今度鎌倉にある別荘地へ行くぞ」

「取引ですか?」

「そうだ。今回は軍の要人もいる…。もし、仮に残念な結果となったら」

「はい。その時はお任せください」


瑠可は、刀を握りしめた。


藤緒と董子は気丈に振舞っていたが、やはり気落ちする場面もあった。

襲撃から数日が経ち、仕事も再会したが、上手く歌が歌えず、注文ミスがおかしたいりと不安定な面が見えた。


「藤緒ちゃんと董子ちゃん、心配です」


寧々がきゅっと唇を噛みしめる。


「藤志朗さん、なんか二人が元気出る案とかないんですかぁ?」


雪乃進がここぞとばかりに声を張る。

こんな事態で観光する場合なんかあるかと思うが、一旦の逃避行と考えれば飲まない手はなかった。


「そうだな。秋だが、鎌倉の別荘へ行くか。紅葉が綺麗な時期だろう。皆で慰安旅行といくか」

「やったぁ!鎌倉かぁ。二人が少しでも気持ちも晴れればいいんだけど」


雪乃進が言う。

こうして喫茶海星と秘密結社海星堂の合同慰安旅行が計画されることになった。


後日。電車を乗り継ぎ、着いた鎌倉は高級な洋館や日本家屋が並ぶ別荘地だった。楓が想像していた鎌倉とはがらりと変わっていた。雅比古が用意していた車で藤志朗宅の別荘へ移動する。紅葉が生い茂り、少し歩けば海がある。確かに、都心から離れるのであれば絶好の場所なのかもしれない。


藤志朗の別荘は、自宅にも負けないくらい立派だった。洋館で庭も付いている。緑に囲まれ、しかも海が見える。


スマホがあったら、写真を撮りたくなるくらい絵になる景色だった。


「八千代丸も一緒にこれたらよかったのに」


思わず呟く。八千代丸は依然修理の最中であった。アイツはあえて八千代丸を狙ったと言っていた。だが、もし助けが来なかったら。最初から自分を狙っていたら。人間は修理は出来ない。そう考えると、背筋が震える。


「新田」

「久世さん。なんですか?」


突然声を掛けられ、吃驚する。


「これから雪乃進達と散歩をしに行くんだがどうする?藤志朗は行かないと言っているし、陵介と珠子は昼から酒と煙草を吹かして出来上がっているけどな」


――アズサが、出来上がっている二人を呆れた目で見ているのを皆は知らない――


「じゃあ、俺も留守番しています」

「そうか。解った」


留守番でよかったのだろうか。答えが解らず、庭で読書をしている藤志朗の元へ行ってみる。


「どうかしたのか」

「うん…。俺、考えちゃうんだ。もしタイムトラベルした先が違う場所に居たらって。藤志朗じゃあない誰かの庭だったり、道端だったらって」

「急にどうした」

「いや、なんていうか。もし富士川と出会っていたら、俺はどうなっていたんだろうって。正義の基準が偏っていたかもしれないし、望ノ環教団にいても思想を洗脳されてきっと信徒になってたと思う。そう考えると、藤志朗と出会えてよかったなって」

「それは光栄だな。楓の基準に沿えたようで」

「なんだよ、ちょっと嫌味っぽいぞ」


藤志朗は、読んでいた本に栞を挟むとそっと閉じる。そして、楓と顔を見合わせる。


「楓は今、俺達しか頼れないからそう思っているだけかもしれない。もし望ノ環教団にいたら俺達は崩壊させた悪人だ。富士川側にいたら目のたん瘤だと思われていただろうな」

「でも、俺は藤志朗達が正しいことをしているって思ってる!」

「正義かどうかは、主軸にいる人物が決めるんだよ。賛同してくれる人々がいればそれが正しさとなる。現に、お前は富士川に賛同している同年代の青年を見ただろう」


混血を、弱者を襲うことに躊躇しない真っ直ぐで邪悪な瞳を持った人物に、楓は見えていた。しかし、別の誰かから見たら美しい瞳に見えるのかもしれない。また彼に、人生を狂わされる人がいるのかもしれない。


「それでも、俺は藤志朗達が正義であることを信じてる…」


楓の真っ直ぐな視線に、藤志朗は少々たじろいだ後、思わず視線を反らしてしまう。


「そうか。ありがとう」


それだけ言うと、藤志朗はまた読書に耽り始めた。楓は向かいに座り、景色を眺める。楓も解っていた。藤志朗が少し照れていることを。


(アイツ等も鎌倉に居たのか…!)


瑠可はのしのしと歩きながら苛ついていた。辺りの警備をするにあたり、近場を歩いていると偶然、憎き新田楓と水無瀬藤志朗が会話をしている場面に出くわしたのだ。


(何が正義は主軸になる人間が決めるだ!正義は一つだけあればいい!強き日本を作り上げる富士川様ただ一人!)


アイツを…新田楓だけなら殺すことなど、造作もない。水無瀬藤志朗が邪魔なのだ。しかし、瑠可はすぐにでも帰らなければならない理由があった。

屋敷に戻ると、会議はすでに始まっていた。瑠可は扉を叩き、一礼してから入出する。角には菊子も立ち、様子を見守っていた。

薬についての説明は一通り終わっているようだった。


「本日はありがとうございます。私が開発した薬品Xをご紹介したくお集まりいただきました」


富士川が挨拶をすると、菊子が鞄を開く。その中には薬瓶に入った薬品Xが十本程並んでいた。


「この薬品Xはアヘンを原材料に、幻覚、疲労感回復、強靭な肉体と精神を兼ね揃えた一品となります。これを打てば死をも恐れぬ、愛国心溢れた兵士が完成します。いかがでしょうか、皆様方」


富士川が各重要地位に席を置く軍人等に問いかけるが、あまりいい顔はされていない。


「馬鹿げた話だ!死をも恐れない精神など、我が軍隊で恐れている者などいない!」

「しかも本当に生成出来たかすら怪しい。時間の無駄だ。富士川。昔のよしみで来てやったが、我々には必要ない代物だ。時間の損だ」


一人、また一人と席を立ち上がる。瑠可は富士川が侮辱されたことに腹の虫が治まらず、刀に手を置く。その時だ。


「一回だけでも見てみましょう」


陸軍少将が言い出したのだ。


「富士川。薬はあるのかね」

「こちらに」


そう言われ、菊子が鞄から一人分の薬瓶を取り出す。


「君、これを打ちたまえ」

「え…自分がですか?」


少将の部下は突然話を振られ、動揺する。話を聞く限りではとても危険で、命にすら関わってくる代物だ。正直言えば打ちたくない。しかしここで断れば、殺されるということだけは肌で感じ取った。少将や、富士川の眼がそう語る。


「しょ、承知しました」


あまりの恐怖に声が震える。額から噴き出す脂汗が止まらない。腕を差し出すと、菊子が器用に注射器に薬を注入し、空気を抜く。そして、血管を探し柔らかい肌に針が刺さる。ドクドクと脈が強くなる。


「はぁ、はぁ、アハハハハ!」


部下は倒れ込み、呼吸が荒くなる。襟のボタンを外し、喉元を掻きむしる。他の軍人等は困惑し、部下をただ見ている事しか出来なかった。


「訊こう。今どんな気分だね」

「今、とても気分が高まっております!こんな高揚した気分は、初めてです!少将殿!見ていてください!貴方への忠誠心を!」


部下は銃を抜くと、少将以外の、薬への反対派を躊躇いなく撃ち殺してしまった。


「素晴らしい出来だな。正気に戻るのに何分かかる」

「現在確認できているのは十五分です」

「ふむ…。それでも十二分だ。その薬、我が軍で使用する」

「ありがとうございます」


富士川がお辞儀をすると、瑠可、菊子も続けて頭を下げる。


「時に富士川。お前の部下もいずれは薬を使うのか?」

「どうでしょうか。彼等は薬を使わずとも命を懸けています」


富士川が瑠可を見る。


「はっ。自分は富士川様の為なら、この命尽きる所存」

「素晴らしい心意気だ!なぁ」


少将が自身の部下を見る。その間、部下は呼吸を荒げながらも、殺意が高まっても、少将の指示が無い限り力を制限し続けていた。もはや自我を保とうと歯を食いしばり、涎を垂らしていた。そして


「これは部下が起こした悪しき事件として犯人を作り上げなければならない。私のために何をすればいいか解るな?」

「はい、少将!勿論です!貴方様のために、この命捧げます!」


バン!と自らこめかみを撃ち抜いた。

少将が帰宅したあと、屋敷には三人と死体だけが残る。庭では、菊子のS達が菓子や紅茶を嗜みお喋りを楽しんでいる。


「富士川様。計画通りになりましたわね」

「あぁ。この強化版を外国に売りつける。強化した薬品は最終的には体が着いていけず死ぬだろう。他国の戦力を消耗させるのが狙いだが…そう上手くいくだろうか」

「きっと上手くいきます!」

「ありがとう、瑠可。さぁ、次の屋敷に行く準備をしよう。さもないと、警察が来てしまうからね」



「藤志朗」

「なんだ」

「やっぱりさ。俺達も紅葉見に行かない?紅葉を、見に行こうよ!って」

「俺は読書をするために断ったんだ。行くわけ無いだろう」


恥ずかしさを殺してのギャグを無視されて、楓はムッとする。


「俺と二人でも?」

「二人でもだ」

「ふぅん。じゃあ、一人で行くよ。」


楓は袴をひらりとさせ、庭から出ていく。藤志朗は無視して読書を続けたが、これっぽっちも文字が頭に入ってこない。そんな自分にも苛々するし、邪魔して気分を変えた楓にも苛々していた。


「おい、楓!まだ近くにいるか!」


帽子とコートを取り、楓を追いかける。楓は玄関を出てすぐの所に立っており、待ちわびていたかのような笑顔で藤志朗を出迎える。


「まだここに居るよ。なんだよ、結局来たの?」


落ち葉を拾い、茎を指で持ちクルクルと回して遊んでいる。


「誰かに阻害されたせいで集中できなくなったんだ。気分転換だ」

「ふぅん。困った誰かさんだね」

「本当だ、まったく」


寒さのせいで頬がヒリヒリとする。襟巻が必要な季節が近づいていた。

その頃、藤緒と董子も、心境の変化が訪れていた。


「ふじちゃん、すみちゃん、紅葉が綺麗ですよ!すごいですね!」


寧々は紅葉のトンネルを潜りながらはしゃいでいる。

その後ろを、雅比古と雪乃進が何か喋りながら歩く。内容は楽しい話題であるのは確かだった。今日の夕飯はなんだろうとか、八千代丸がいつ治るだとか。


「ねぇ、董子」

「何、藤緒」

「私達が生きていても、死んでいても、明日って来るんだよね」

「うん…来るね。世界が終わらない限り誰が死んでも、生きていても。平等に来る」


二人は、自分のネックレスを握りしめる。母の形見。母が遺してくれた本当の名前であろう、宝物を。赤子の指くらいの指輪に、ローマ字で刻まれた名前。


「なら私達」

「生きていくしかないね」

「うん。その時が訪れるまで」


二人は、手を繋ぐ。


「生きようね、董子」

「うん、藤緒」


二人は綺麗な足並みで雅比古達の元へ駆けだす。

向こうでは寧々が楽しそうに手を振っている。雪乃進は両手いっぱいに紅葉を持っていて、雅比古は呆れながら雪乃進を見ていた。彼等にも過去は合って。乗り越えている。



原作・ぱるこμ。原案・PaletteΔ

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