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秘密結社海星堂  作者: ぱるこμ
8/9

A街殺人事件

読んでくださりありがとうございます

一連の犯人だと思われる男の顔を目撃した楓、藤緒、菫子を護衛するため、雅比古も水無瀬家で生活を一時的にすることになった。死者は幸い出なかったが。楓の傷は深かった。襲われたことにではなく、八千代丸にたいしてだった。


「大丈夫か?」


藤志朗が紅茶を人数分置く。


「八千代丸。治らなかったらどうしよう。俺のせいで、今までの記憶が全部無くなっていたらどうしよう」


ロボットごときにそこまで感情移入するなと雅比古が言おうとすると、藤志朗に止められた。


「修理屋が言っていた。記憶回路は無事だと。だから心配するな」

「俺の髪色のせいで…八千代丸は壊されて、藤緒ちゃんと董子ちゃんも怖い思いさせた」

「楓さん…」姉妹の声が重なる。

「藤志朗。お願いがあるんだ」

「なんだ?」

「俺を囮にして、また犯人をおびき出してほしい」


藤志朗よりも先に声を荒げたのは雅比古だった。


「何馬鹿なことを言っている!命を危険に晒すようなことをするな!」

「でも、俺は顔を見てるし、相手も俺の顔をしっかり見ている。だから…捕まえてやるんだ。そうしないと、悲しむ人が絶えない」

「私達も協力する」董子が言う。

「囮なら、私達にも出来ます」藤緒が言う。

「お前達…自分を犠牲にするような行動は、俺達がするから!」

「雅比古、もういい。彼等の度胸を買おう。そして利用する手はないぞ。まず、楓と藤緒、董子には喫茶海星堂で働いてもらう。民衆喫茶だからこそ得られるものがある!そこから情報を得るぞ」

「正気か、お前」


雅比古の言葉に、藤志朗がムッとする。


「俺は常に本気だ。コイツ等の根性を買わない方が失礼だろう」


昔から、こんな奴だった。相手の素性なんてどうでも良くて。性格が良かろうと、悪かろうと、気合や根性が気に入れば買うような奴だった。かくいう自分も、藤志朗に買われた一人だということを思い出す。


「…はぁ。あれだろう。海星堂らしいとか言うんだろう、どうせ」

「よく判ったな」


正直、どこをどう思って買われたのか解らない。子供の頃に出席した立食会の時に出会い、正義について熱く語ったら腐れ縁になった。…どんなことを語ったかは覚えていない。

基準は解らない。だから、余計選ばれたような気がして嬉しかった。そのことを思い出し、口角が不思議と上がった。



―A街殺人事件―



白襟の黒いワンピースの上にフリルの付いたエプロンを付けて、姉妹達が店の扉の前で歌いだす。

美味しいごはんを食べるなら、喫茶海星、喫茶海星。思わず頬が落っこちる、喫茶海星、喫茶海星

彼女達の唄を聞いた通行人たちは、繋がっている姉妹を見て足を止めていく。はたから見たら、仲の良い姉妹がべったりくっついて綺麗な唄を歌っているのだ。そして姉妹を知っている者達からすれば、何故プラント姉妹が喫茶店で働いているのか不思議でしょうがなかったろう。


「癒しのお時間提供します。コーヒーを飲めば、あら不思議。あっという間に夢心地!」


寧々が堂々と歌いながら姉妹にコーヒーを提供する。それを飲んだ姉妹たちは、「はぁ」とホッと溜息を吐く。


――「ちょっと疲れたし、寄っていく?」

――「プラント姉妹がいるなら寄ってみよう!」

――「休んでいきましょうよ」


ぞろっこ、ぞろっこと、人はあっという間に喫茶海星へ流れていく。


「楓君、これ五番テーブルに!アズサ、こっちは一番テーブル!」

「はい!」

「承知」


店は大繁盛。いつもぽつぽつとしかいない時間帯なのに、中は大賑わい。外にも行列、いや人だかりができていた。不思議な姉妹見たさに、群がっているのだ。


「藤緒ちゃん、董子ちゃん、配給できる?」

「出来ます、多分…」

「練習したじゃない、やれるわ!」


藤緒が意気揚々とお盆を受け取る。

珠子が心配そうに様子を伺うが、無事提供できていた。杞憂だったようだ。


「珠子、ちょっと時間いいか?」

「藤志朗。どうしたの?楓君達なら上手くやっているし、変な客もいないけど」

「この手配書を張りたいんだ」

「手配書?まさか」

「そうだ、八千代丸を襲った奴の似顔絵だ。楓も、藤緒と董子も完成した後に見せたらハッとしていた」

「でも、この人…混血か、異国の人よねぇ…」


珠子が手配書を見ると、描かれていたのは金髪に碧眼の、楓とさほど変わらない年齢の青年だった。長い髪を結い、何かを恨んでいるようなキツイ目つきをしている。


「同族嫌悪ってところか」

「でも、楓君は混血じゃあないんでしょ?」

「あぁ。染料で黒に染めたらどうだと言ったんだが八千代丸の仇を取るまでは染めないと聞かん坊でな」

「ふふ。短い付き合いだけど、なんとなく楓君のこと解ってきた気がするわ」


珠子が豪快に笑う。

そして、藤志朗から貰った手配書を壁に貼る。以前訪れた娘を捜している男の進展も今のところない。雪乃進に捜させているが、目ぼしい情報は入ってこない。

ただ言えるのは、ここで楓がいること、そして姉妹がいると解ればあの青年が嗅ぎつけてくる可能性がある。それに藤志朗達は賭けていた。

すると、一人の女性が入店してくる。着物はボロボロで、足袋も汚れていた。女はブツブツと何か譫言を呟いている。


「あの、大丈夫ですか?」


楓が近づいた時だ。


「……ッ!日本の敵め!お前等がいるから悪いんだ!」


包丁を懐から取り出し、楓に襲い掛かる。

乱れた髪から見えた顔には、見覚えがあった。先日、男が捜している娘本人なのだから。


「何?!なんで?!」

「貴様は悪だ!」


店が大混乱に陥る。


「楓!」


娘が楓に夢中になっている隙を見て、藤志朗が背後から迫り裸締をする。娘は暴れだしたが、限界が来たのか気絶した。


「楓、皆、大丈夫か?」

「な、なんとか…」

「その人は誰ですか?」姉妹の声が重なる。

「珠子、彼女の父親に連絡は取れるか?病院へ連れて行く」


アズサが客を落ち着かせ、藤志朗が娘を担ぐと、車へと運んでいく。

よく見ると、体中に怪我、火傷、爪が剥がされていた。

父親に連絡を入れると、早急に駆けつけてくれた。


それから娘が目を覚ましたのは、夜の事だった。娘は憔悴しており、昼間の殺気が嘘のように消えていた。弱り切っている。治療を受け、怪我の手当てもしてもらった。

それが終わると、今日は入院ということになった。


「本当に、ありがとうございます…!そして、娘が大変ご迷惑をおかけいたしました」

「いや。無事に見つかってよかった。出来れば、明日聞きたいことがあるんだ。それに協力をしてほしい」

「はい。娘が覚えていることを、話すよう伝えておきます」


父親に見送られながら解散となった。

翌日。

藤志朗は楓を連れて、娘の病室前まで来ていた。楓は一旦廊下で待機。また襲われる可能性が無いか確認が出来たら入室となった。


「昨日、君は人を殺しかけた」

「そう、みたいですね。でも私、幻覚を見ていたんです。怖い怪物が私の事を殺しに来る幻覚です。それ以外、何も覚えていなくて」

「そうか。それと、君の身体の傷だが」

「これは…これは、拷問を受けて出来た傷です…。このまま死んだら、父が独りになってしまうから。私は、確か、条件を飲んだんです。解放される条件。そうしたら、何か注射を打たれました。それから、それから…!」


娘は混乱し、発作を起こす。父が背中を摩っている間に、藤志朗は看護婦を呼ぶ。

拷問を受けた恐怖が体に染みついているのだろう。


「藤志朗、あの子大丈夫?」

「俺が嫌な事を話させてしまったからな。ただ…これからその恐怖と戦わなくてはならない。癒せる日が来ればいいんだが」


楓が病室を覗くと、娘が怖い、怖いと父に抱き着き泣いていた。

この親子。去年妻を、母を亡くしていた。だから、親子二人三脚で頑張ってきたのだ。そんな中、娘が誘拐された。そして心に大きな怪我を負った。治るか解らない怪我を。


「あの混血の子に、謝りたい…」


落ち着きを取り戻した娘が泣きながら言う。


「まずは、貴女が心身ともに退院できるまでになってください。俺と彼は、それまで待っています」


そう言うと、藤志朗は頭を下げ、病室から出て来る。


「俺、あの子に対面しても大丈夫だよ?」

「目標がある方がいいと思ってな」

「なるほど」

「これで…ある程度仮説が出来た」



海星堂に集まった面子は藤志朗の仮説に耳を傾けていた。


【仮説】

興奮剤なり、薬物を使用し、実行役に注射をする。それは幻覚を見て、標的が化物にみえるらしい。

そして標的は、混血、そして老人や徴兵を免れた若者。これは無差別に見えて計画的に殺害している。一番の目的は混血の殺害。他は一番の目的に辿り着かせないために殺害。これは楓を襲撃した奴が実際に言っていた言葉なので間違いない。

そして。裏に組織的な何かが実行に移している事。


「これが俺の仮説だ。敵は混血や外国人を嫌っているようだな」

「だから俺、襲われたのか…。実際に混血って言われたし」

「組織はどこから出てきたんです?」


雪乃進が首を傾げながら言う。


「薬や誘拐を、新田を襲った青年一人で出来るとは思えないからな。そいつは実行役の一人として考えていいだろう」


雅比古が言う。


「なるほど、把握した。それでも引き続き楓君を囮役にするってことな」


陵介の言葉を聞き、楓が頷いた。


「これで敵の尻尾を掴めるなら、俺はまた襲われても構わない」

「確固たる意志ってわけね。よし。相手は楓君が喫茶海星で働いていることも把握している。なるべく一人にさせないように気ぃ引き締めていくぞ」

「はーい」雪乃進の適当な返事が返って来る。



また殺人が起きた。犯人は何も覚えていない。被害者と面識もないと騒いでいたと新聞紙が報じる。

世間は次第に、犯人は狐憑きなのではないかと噂するようになっていった。そして次に起きたのは、狐憑き狩りだった。少しでも変な行動を起こせば、家族、親戚一同から寺へ連れて行かれ、お祓いを受けさせられるのだ。それだけならまだいい。酷い所では暴行事件へと発展するものもあった。

そして、追っている事件も止まることはなかった。日々、世間を騒がせている。


「どうして俺が囮になっているのに襲ってこないんだよぉ!」

「焦るな。向こうは楓の襲撃に二回も失敗しているんだ。もう来ないか、来ても暫く先だろう」

「そんな。それじゃあ、被害がもっと増えてくよ!」

「落ち着け…。危険を承知で、俺の作戦に乗る気はあるか?」

「…ある」


この作戦を聞いた楓は、後悔した。

何故なら、喫茶店の閉店後に藤緒と董子と歩いて帰るというものだった。しかも、三人で。自分独りだけならまだしも、姉妹も同行するのは危険に晒す行為だから嫌だった。しかし、この組み合わせで数日間護衛がいなければ引っかかるかもしれないと藤志朗の無茶から、楓は腹を決めるしかなかった。


翌日。閉店後、楓は姉妹に藤志朗が迎えに来る場所が変わったことを説明し、数百メートル離れた待ち合わせ場所まで歩くこととなった。


「どう?仕事には慣れた?」

「とっても楽しいわ!」姉妹の声が重なる。

「ずっとここに居たいくらい!」

「だって見世物小屋よりも楽しんだもの!」

「それは良かった。…団長が許せば、藤志朗が許してくれるなら、うちにずっといられるのにね」


弟の面影が二人に重なる。こうやって、弟にも優しく、一緒に買い物とか行ってやればよかったと後悔する。戻れたら、必ず一緒にどこかいこう。だが、帰れるか解らない。


「楓さん、後ろ!」


董子が叫ぶと、楓は二人を庇うように押し倒した。間一髪のところで、斬られずに済む。


「お前、この前の!」


振り返ると、そこにはこの前の青年が立っていた。


「ずっと見張っていた甲斐があったよ。そんな娘達と混血のお前がのこのこ夜道を歩いているなんてな!」


また斬ろうと刀を振り上げた瞬間だった。バン!と青年の太ももが拳銃で貫かれる。


「ックソ!まだ人がいたのか!」


「貴様は随分と短気のようだな。もっと注意していれば、俺と合流する楓達を見ることが出来たのにな」

藤志朗が銃を手にし、近づいて来る。

「お前の…お前等の目的はなんだ」

「日本人による愛国心の強さを今…あのお方は試されておられる。俺は純日本人じゃあないが…認めてくださった。その為なら、俺は障害となる人間を殺すまでだ!」


楓に刀を向けるかと思った。が、その刀は青年の首に当てられる。自害する気だ。


「止めろ!」


叫んだ時だった。


「止めろ、瑠可」

「ッ、富士川様!何故貴方がこのような所まで…」


楓は思わず唾を呑んだ。この富士川と言うと事は、背が高いだけでなく鍛えられているせいで、さらに大きく見えたのだ。そしてこの異様な威圧感。手が自然と震える。まるで弱肉強食の世界に放り出されたかのようだった。

富士川は瑠可と呼ばれた青年の頬をそっと触る。


「お前は私の右腕のような存在なのに、足枷になると思うとすぐ自害しようとするからな」

「富士川様…」

瑠可が、どこか恍惚の表情を見せる。

「富士川…まさか、お前は富士川貞道か?」


藤志朗が正体に気付く。


「あぁ、私こそ富士川貞道だ。水無瀬藤志朗。どうやら探偵ごっこをしているようだが、お前達に私の計画を止める術は無いぞ」

「なら、今ここで全て片付ける!」


いち早く藤志朗が銃を撃つ。富士川は所持していたライフルで猛攻してくる。


「キャー!」

「楓さん、怖いよ!」

「大丈夫だから!」


楓は姉妹に覆いかぶさる。そして隙を見て建物の間へと逃げ込む。

長いようで短い銃撃戦を制したのは富士川だった。それは、藤志朗のガンボックスが珠切れになったからだった。


「哀れだな、水無瀬。貴様を始末した後、あの混血の男と結合双生児の姉妹も後を追わせてやろう」

「逃げろ、楓!」

「藤志朗!」


ライフルが、藤志朗の頭部に狙いが定まった。

バン!と発砲音が鳴り、楓は口を押えた。しかし、最悪の結末はどうやら避けられ、幸運が来たようだ。富士川が、ライフルを手から落とす。肩を押さえ、辺りを見渡す。


「お前ばっかりかっこいい真似されちゃあ年上の顔が立たないぜ」

「標的確認。攻撃を開始します」

「りょ、陵介さん、アズサちゃん!」


陵介とアズサの息の合った連携は最高だった。肉弾戦をアズサが担当し、遠方攻撃を陵介がする。しかも、アズサに当たらないように計画的に発砲している。

しかし恐ろしいのは富士川だった。ロボットのアズサに引けを取らない格闘技で対抗しているのだ。そして陵介の銃撃も解っているのか、必ずアズサが盾になるような体勢で戦っていた。


(クソ!こっちの戦法はお見通しって訳か!)

「アズサ、撃て!」


陵介の命令に、アズサが反応する。


「承知」


アズサは距離を取ると、右腕を前に突き出す。


「発射」


すると右腕から火花が散り、ボン!と発射される。発射した腕は富士川…ではなく、庇いに入った瑠可の顔面に当たった。かなりの威力だったのか、瑠可は気絶していた。


「全く。余計なことをする」


今だと思い、陵介が銃を定めると今度は車が乱入してきた。


「富士川様、瑠可君を乗せていきますわよ」

「その声清閑寺の…!」

「え、菊子さん?!」


思わず、藤志朗と楓は声を上げた。すると、菊子はふふ、と笑う。


「ごめんなさいね。私も富士川様の思想に賛成なの。いつか邂逅すると思っていたけど、こんなすぐになるとは思わなかったわ。それじゃあね、坊や達」


菊子は富士川と瑠可を回収するとペダルをベタ踏みし、颯爽と撤退していった。

あまりの出来事に、楓達は言葉が出ずに、その場で立ち尽くしていた。ただ、アズサだけが飛んでいった右腕を「右腕、右腕」とブツブツ言いながら取りに小走りしている。

先に我に返ったのは陵介だった。


「大丈夫か、藤志朗、楓君!嬢ちゃん達も怪我はないか?!」

「あ、あぁ…」

「藤志朗、お前怪我してんじゃないか!急いで医者へ行こう。向こうに車を止めてある。楓君達は喫茶海星にいるんだ。雅比古が迎えに来るから」

「わ、解りました」

「行こう、藤志朗」


このまま。このまま怪我をした藤志朗と別れていいのか解らなかった。お礼なら戻ってきたときに言えばいいじゃあないか。今は一刻も早く怪我の治療だと解っているのに。どうしても何か一言伝えたかった。


「と、藤志朗!また後でね!」

「あぁ。また後で」


藤志朗がフッと笑う。どうしてこんなどうでもいいことを言ってしまったのだろうか。楓は恥ずかしくなり頭を抱えた。


「楓さん、大丈夫?」

「どこか怪我したの?」

「怪我じゃないけど、俺って気を遣うのへたくそだなって」

「そうかな?」

「カッコ良かったの、助けてくれた楓さん」

「俺も、そう言える性格でありたかったよ…」


暫くすると、雅比古が迎えに来る。そして水無瀬家へ無事に帰宅出来たことに、安堵を覚える。幸いなことに、楓も、藤緒と董子にも怪我はなかった。後は家主である藤志朗が帰って来るのを待つだけだった。

藤志朗が帰ってきたのは明け方近くになってだった。静かに「ただいま」と告げる藤志朗に、寝ずに待っていた楓が出迎える。


「お帰りなさい」

「寝ていればよかったのに」

「あんなことがあって簡単に寝れるわけ無いだろう。それより、怪我は平気なのか?」

「掠った程度だ。命中していないことが不幸中の幸いだな」

「よかった…。そうだ、お茶入れるよ」


楓は緑茶を淹れ、藤志朗の据わる席へ置く。


「ありがとう」

「いいよ、別に」

「…また後で、と言われた時。久しぶりに両親の事を思いだしたんだ」

「ご両親のこと…?」

「あぁ。父と母が別行動する時、いつもまた後でとよく言っていたことを思い出した。何故だろうと。お前といると家族の事を思いだす」

「それって、いい事だって受け止めていいのかな」

「いい事だろう」


藤志朗がお茶を飲む。ふぅ、とどこか安心したような溜息を吐いた。


「俺も疲れた。今日は寝よう」

「うん。俺も安心したら眠くなってきたよ」


二人は寝室へ向かうため二階へ上がる。各自の部屋に入ろうとした時、藤志朗が思い出したように言葉に出した。


「楓、また明日。おやすみ」

「おやすみ、藤志朗」


***


「うぅ」


瑠可が、魘されながら目を覚ます。


「起きたか」

「富士川様…ハッ、アイツ等は?!」

「仕留め損ねた。何、また会う日も近いだろう。今後はアイツ等に構わなくていい。邪魔な存在として扱う」

「はっ、承知しました」


瑠可が頭を下げる。

コンコン、と部屋に戸を叩く音が響く。富士川が「入れ」と許可を出すと、菊子が顔を覗かせる。


「富士川様、準備が出来ましてよ」

「解った。もう始めてくれ」

「了解です」


菊子は取り巻きを連れて、広い倉庫へと向かう。椅子に縛り付けられているのは、立派な日本人男性だった。口は猿轡をされ、言葉を発せないでいる。


「んぅ、うー!」


騒ぐ男性に麻袋を被せ、数人で運び出す。車に乗せると、目的地まで菊子が運転する。


「ごめんなさいね。貴方には実験体になってもらう必要があるの。この国のために、私達は強くならなきゃいけないの…そう愛国心。判るわよね。それが必要なの」


菊子が、嫌がる男性に針を刺す。注入すると男性はどんどんと血管が浮き上がる。


「いい…?これは今までとは違った、より強力にした薬よ。貴方はこれから弱者を襲ってもらうから。無事に帰って来てね」

猿轡を外すと、男は「ぐあああああ!」と叫び声を上げる。そして、ドアを開け、男を野に放つ。

男の懐には包丁が隠されている。そして男は、目的地…見世物小屋へと入っていく。そして男は一人の団員を殺害した。


一方、富士川と瑠可が、このような会話をしていた。


「我々の目的は富国強兵よりも、さらに上を行くものだ。愛国心に溢れ、死をも恐れない兵隊を作るのが目的だ。その計画も順調にいっている」

「そして異国の血を引く者を抹殺…日本人のみの、鎖国時代を取り戻すため」

「異国から多くの事を学んだ。しかし、侵略の恐れも出てきた。そうならないために我々は強き兵士を育成する必要がある。例えそれが薬の力を使ってでも」

「貴方の思想に着いていきます」


瑠可が酔心する。

その間にも、見世物小屋では被害が止まらないでいた。それは、障碍者だけではなく、団員すべてに及んでいた。


原作・ぱるこμ。原案・PaletteΔ

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