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秘密結社海星堂  作者: ぱるこμ
7/9

見世物小屋

読んでくださりありがとうございます

新聞が郵便受けに入れられる。新聞を取るところから朝が始まる。伸びをすると、朝の澄んだ空気が肺に満たされる。それが気持ちよくて、楓は気に入っていた。今日が始まる、ルーティーンだ。

居間に戻れば白米とだし巻き卵、焼き鮭にお味噌汁が用意されていた。


「藤志朗、はい新聞」

「どうも」


藤志朗は毎日欠かさず新聞を読む。何か事件が無いか、面白そうなことは無いかと見張っている。


「また怪盗が出たのか」

「怪盗って、宝物盗んだりする?」

「あぁ。盗んでは貧困地域に宝を捨てていくから、今じゃ義賊として貧困層から熱烈歓迎されている」

「本当にいるんだ…」

「それと」

「ん?」

「最近奇妙な殺人事件が多すぎる。お前も気を付けろ」

「うん…」


藤志朗から新聞紙を手渡され、その記事を読む。昔の新聞だから読みにくいが何とか解読する。


「発狂した犯人、また現る…被害者とは面識無し。マジかよ」

「マジだ」


溜息を吐くと、「いただきます」と言い藤志朗は味噌汁に口を付ける。

最近。物騒な世の中だと思う。現世で言うテロリストは、先導者だった男が死体となって発見された。誰が殺したのかは未だ不明。警官もピリピリしているのが、なんとなく解る。浅草も巡回する警官が多くなった気がする。

喫茶海星で手伝いをしている時も、秘密結社海星堂の事務所から窓を覗いていても、警官が定期的に見回っている。


「ねぇ、今こそ秘密結社海星堂の出番じゃあないの?」

「それならもう雅比古が動いている」

「あー、はい。そうですか」

「冷めないうちに早く食え」


炊き立てのご飯の味は、幸せの味だと思う楓だった。



―見世物小屋―


「楓君の髪の毛って不思議ですよね。会ったときより明るくなっているし、根本は黒いの」


寧々が尋ねて来る。繁忙時間を過ぎた午後のことだ。


「え?!あぁ…。もっと時間が経てば黒髪に戻るよ」

「黒染めなら知ってるけど…明るくするのは聞いたことないです」

「俺もどうやってこんな色になったのか解らないんだ!あはは、不思議だよねぇ、人って」


寧々達が信じるか解らないが、タイムトラベルを信じてくれるか解らないのに無暗に喋るのは得策じゃあないと、藤志朗が言った。

正一に話したのは、知っていれば都市伝説や民話を調達してきてくれる可能性があるからだ。それに、下手に干渉したくなかった。無駄に現代の知識や文明をひけらかすことはしたくなかった。


(黒に染められる染料ってこの時代にもあるんだ…。お給料で買えそうなら買おうかな)


そもそもお給料が出るか解らないけれど。

カランコロン―客が入店した合図の呼び鈴が鳴る。


「いらっしゃいませ」

「あぁ…コーヒーを一杯」


明らかにやつれた男性が、注文する。


「かしこまりました」


コーヒーを淹れる珠子の視線が、客に向く。

本来なら寧々か楓が持っていくが、今は珠子が持っていく。


「寧々、休憩入って良いよ」

「はぁい。休憩いただきます」


寧々と交代で、アズサが奥から出て来る。そして珠子が客…男にコーヒーを提供する。


「お客さん、随分疲れているみたいだけど…。何かあったんですか?」

「え…あぁ、そうだ、そうなんだ。頼みがあるんだ。このチラシを店に貼ってくれないか?娘が一週間も前から行方知らずで…!捜しても、なんの手掛かりもなくて!」

「そういうことなら、是非協力するわ」


珠子は男からチラシを貰うと、店で一番目立つ場所に貼る。


「何枚か頂いてもいいかしら。知り合いにも頼んでみますので」

「ありがとう…!ありがとう!」


貰ったチラシを見ると、現代でも通用しそうなほど、鼻立ちが通り、くっきりとした二重を持った可憐な女性が写っていた。白黒写真だから解る。黒髪ではない、金髪であるため白く反映されている髪が。


「娘さん…ハーフ、じゃない。混血なんですか?」

「あぁ。妻は英国から来たんだ。まだ私が若い頃、開国した日本に海外留学するのが流行って、そのまま現地の日本人と結婚する外国人が多かったんだよ。所謂国際結婚。その走りだったんだ」

「へぇ…」


ここまで、習ってきた歴史と照らし合わせると、大正咲のほうがはるかに文明は上回っている。習ってきたことは、一旦捨てた方がいいと感じる。ここはお伽噺の世界じゃあ無いと、嫌でも思い知らされた。今生きている世界が現実なのだと。


「楓君。これ、事務所に持って行って水無瀬達に見せといて」

「はい」


受け取ると、楓はすぐに海星堂の事務所へと向かう。扉を開ければ、既に勢ぞろいしている面子がそこにはいた。


「あ、楓さんだぁ。もう喫茶店の方はいいんですか?」


雪乃進が言う。


「うん。珠子さんがこれを皆に見せてくれって。今行方不明になっている女性のビラなんだけど」

「うわぁ、べっぴんさん!この人外国人なの?」

「混血だって」

「混血…」藤志朗が意味深に呟いた。


雅比古がチラシを黒板に貼る。そこには被害者である人達の写真やチラシがびっしりと貼られていた。


「改めて見ると無差別だな」陵介が眉を顰める。

「無差別なのか、法則があるのか」雅比古は指を顎に当て考え込んでしまう。


凌雲閣で見た、美人百選よりも目鼻がはっきりとしている人物が多い気がした。黒髪だが、明らかに混血や外国人だと解る被害者もいる。楓が解る範囲で明らかに日本人である人物の方が三分の二。混血(だと思われる)及び外国人の被害者が三分の一の割合だ。


「雅比古、本当に無差別だと思うか?」

「いや、何か引っかかる。まるで…まるで偽装工作しているようで」

「それだ!」


思わず楓は叫んだ。


「偽装工作だ!多分、混血や外国人を狙った犯行のはずですよ!日本人で殺害されている人達って、お年寄りが多くないですか?若い人もいるけど…無差別に見せかけてるとか!」

「若い被害者の共通点は判るか?」

「あぁ。結核や四肢の欠損にて軍に入隊出来なかった経歴がある」

「なるほど。まるで弱気を罰し、異国の者も罰し、日本人による富国強兵を目指したかのような殺人だな」


陵介が煙草を吹かす。


「あ!思い出した!今度見世物小屋が浅草に来るんですよ!」


雪乃進が袖からくしゃくしゃになったチラシを取り出す。そこには腕の無い者、小人症、四肢欠損、結合双生児のイラストが描かれている。どんなタイミングで思い出しているんだと、楓は不謹慎を思う。


「もし軍に入隊出来ないで殺されているなら、この見世物小屋を見張っていれば、何か事件が起こるかもしれないですよ!」

「一理あるな…上手くいけば事前に止められるかもしれない。藤志朗、どう思う」


雅比古が訊けば、藤志朗はどこか楽しそうに答える。


「行ってみようじゃあないか!」

「あ、俺は寧々ちゃんと行こうと思うので抜きで考えてください。この結合双生児の歌姫、凄く評判いいんですよ」


雪乃進が指をさすのは、チラシに書かれている絵だった。腰の部分が繋がっているように見える双子らしき絵だ。


「ちょっと見せて」


楓がチラシを受け取ると、絵の横に名前が書いてある。結合双生児の横には藤緒と菫子と記されていた。

見世物小屋一押しの結合双生児の歌姫。その歌声に酔いしれるべからず。

昔は…いや、大正咲では、大正時代でも、身体に障碍がある人達はこういう見世物小屋で生計を立てるのが精いっぱいだったのかもしれない。解っているけれど、これを面白おかしく見る自分がどうしても嫌だった。だけど。もし見世物小屋で何か事件があったら、それは嫌だ。


「藤志朗、俺さ…事件が未然に防げるなら、防ぎたい」

「なら行こう」


こうして、海星堂一派は明日には開幕される見世物小屋へと行くことが決まった。



皆が帰り、雅比古が黒板を整理していると、陵介が声を掛けて来る。


「藤志朗の所の居候。結構正義感が強い子じゃあないか」

「そうだな。警官に聞かせてやりたいくらいだ」

「幼馴染が違う男と仲良くするのは不服か?」


揶揄いながら話を進める。


「お前はそういう話ばかりだな」


実はこの時代、学校では男色文化が広がっていた。同級生と。または先輩と後輩とで仲睦まじく、或いは学校の規則などを手取り足取り教えてもらっていた。雅比古と藤志朗も、そういう仲になった。それは言い寄られるのが嫌で、形状そうなっただけで、夜を共にし、手をつなぐというようなことは何もなかった。

陵介は、その事実を知っている。だから時折、揶揄ってくるのだ。


「楓君、囮にされっぱなしで可哀そうだよな」

「あれは藤志朗と雪乃進が悪い。それより…新田の出生が解らない。戸籍も調べたが無かった」

「そこまでしていたのか?そりゃあ膨大な戸籍から探すのは大変だろう。それに、無戸籍の子供なんて、いっぱいいるだろう」

「藤志朗は厄介な奴の面倒見ている。遅かれ早かれ、新田楓という人物の素性を調べる必要がある」

「藤志朗が気にしてないならお前は踏み込まなくていいだろう。心配しすぎだ。お前も見世物小屋に婚約者さんでも連れて行ったらどうだ?」

「彼女には刺激が強すぎる」

「過保護だねぇ」


喉の奥でクックックと笑う陵介を、睨むのであった。



当日。

雪乃進は宣言通り、寧々と一緒に見世物小屋へ行くことに成功していたので欠席。二手に別れることとなり、楓は雅比古と行動することになった。


(なんで久世さんと?!)


てっきり、ここは藤志朗と組むのかと思っていたから、緊張なんてしなかったのに。あまり言葉を交わしていない相手と組むなんて。ましてや、陵介みたいに気を使ってくれるような相手にも見えない。寧ろ、何か探られているような目で見られている気がする。

この嫌な感覚。久しぶりに感じた。人の顔色見て、何を話せばいいか伺って。


「おい」

「ッ!はい」

「これから演者がいる控えに潜り込んでほしい。何か言われたら迷ったと言え。いいな」

「解りました…。久世さんは?」

「俺は客から聞こえた妙な噂を深堀する。あとニ十分程で開演する。それまでには座席に戻って来い」


はい、と頷くと雅比古は客の波の中へと消えていった。


「妙な噂って何…てか、これから一人行動しなきゃいけないの、俺」


関係者以外立入禁止の看板が掲げられている縄を、潜る。

初めて目に映る光景だった。

両腕の無い者や、四肢が無い者、異常に背の高い者に、毛深い者。まだまだいる。健常者もおり、介護が必要な者を手伝っている。


「おい、新入り!プラント姉妹を呼んできてくれ!」

「はい!え、プラント姉妹?」

「藤緒と菫子だよ!あそこの小屋にいるから!」


何故か、どういう理由か新入りと間違えられた。これはチャンスだと思い、楓はプラント姉妹――藤緒と菫子が住居であるトレーラーハウス前までやって来ると、ノックをする。


「あの、そろそろ本番です」

「お兄さん、聞いた事の無い声」

「新入りの人?」

「え、新入りというか、そのぉ」


口籠っていると、「中に入って来てよ」二人の声が重なる。


困ったが、とりあえず気難しい性格だったら後々面倒なので、言うことを聞くことにした。


「失礼します…」

「綺麗なお召し物」

「本当にここの人なの?」

「えぇっと、えー、実は、迷い込んじゃって」

「迷子なのね」また声が重なる。


鑑写しをしたかのような左右対称の二人。綺麗で艶のある黒髪。まだ十五、六の女の子で、薄く化粧をしている。流行りを取り入れたであろう服。腰の部分が、繋がっている。

現代の医術なら、分離手術も出来ただろうに。


「ねぇ、藤緒」

「うん。解ってる」


菫子の方が、不安な表情を浮かべる。そして藤緒は、眉間に皺を寄せる。


「お兄さん、外に出られるんでしょう?」

「外?あぁ、演目が終わったら、帰るから、外に出るよ」

「それじゃあ、帰っちゃう前にまた私達の所に来てほしいの」

「聞いてほしいことがあるの」

「今は時間がもう無いから。終わったら来てくれる?」


脳裏に、弟の海斗が過った。同い年くらいの女の子が、見世物小屋で働いているのだ。そうしないといけなかった理由があるはずで。売られたのか、解らない。でも、良い理由でここにいるとは思えなかった。


「解った。また来る」

「ありがとう」二人の、安堵した声が返って来る。


本来なら呼び出し役が姉妹を案内するのだろうが、今回は姉妹に連れられて関係者口へとやって来る。


「ここから行けば、客席に戻れる」と教えられた通り行くと、座席が広がっていた。


楓は雅比古を捜し出すと、隣に座る。


「どうだった」

「帰る前にもう一度会いたいって言われました」

「そうか。こっちは、ここで実は殺人があったと噂が入った」

「じゃあ…」

「可能性が高くなったな」


開演のブザーが鳴る。幕が開くと、拍手喝采となる。部隊の真ん中にはプラント姉妹と呼ばれた藤緒と董子が立っている。そして、曲が演奏されはじめると、それに合わせて歌い、踊るのだ。観客は、そんな二人に夢中になり、歓声を上げる。

異様な光景に見えた。

本当に、観客は楽しんでいた。普段、お目にかかれない珍しいものを見たかのように。

雅比古も楽しんでいたらどうしようと思い、チラリと盗み見る。ブスッとした顔で、ただ真っ直ぐ見つめていた。


「…楽しいですか?」

「さぁな。ただ。これを取り上げたら彼等が食っていけなくなるのは確かだろう。俺は先に海星堂へ帰る。聞いた情報は忘れるなよ」

「はい」


奇妙な演目は順調に進んでいく。後はサーカスと変わりない内容だった気がした。



演目が終わると、楓はまた中へ入り込む。そして藤緒と董子がいる小屋に向かう。


「来てくれた」

「待ってたの」


どこか嬉しそうに出迎えてくれる二人に、楓も微笑んだ。


「それで、話したいことって?」

「実はね、一昨日見世物小屋の出演者が一人殺されたの」

「殺された…?」


嫌な予感がした。


「もしかして、四肢が無い人…?」

「そうよ、よくわかったね」

「新聞とか読んでいるから。それで、どうして俺に?」

「お兄さんなら揉み消そうとせずに警官に伝えてくれるかもしれないと思って」

「揉み消すって」

「開演を邪魔されたくないから、団長がうちとは無関係だって言っているの」

「でも本当は団員なのよ。だから、仇を打ってほしくて」


話を聞くと、気分が悪くなってくる。団員が一人殺されているのに、売り上げを気にして強硬開演する団長の銭ゲバっぷりに、呆れて何も言葉が出てこなかった。


「当時、何か気づいた事とかある?」


姉妹は顔を見合うと、言い辛そうに語りだす。どこか、怯えているみたいに。

それは夜の事だったらしい。人の気配を感じ、暗い中外を覗いたようだ。そうしたら、髪を結んだ男が被害者となる者の小屋へ、乱暴に開け入っていった。叫び声や揉める音がした後、しん…と静まり返ったのが不気味だった。男が出てきたときは、返り血で服も顔を汚れていたらしい。判るのは、男であることと、黒髪ではないということ。鋭くて冷たい眼と目が合い、姉妹は慌ててベッドへ駆け込んだ。次は自分達が殺されるかもしれないと怯えながら。


「それって、今は君達が危険じゃあないか!」

「大丈夫よ。警備してくれる人もいるし」

「この二日間、侵入者はいないから」

「でも現に、俺が中に入れている。黒髪じゃあ無いし、髪は束ねてないけど…新入りだと勘違いされて君達を呼びに行くよう言われたんだぞ!」

「そういわれても」

「どうにもできないよ」


三人は、うぅん、と首を傾げ悩んでしまった。どうしたらいいのか。姉妹が安全に避難できる場所をどうしても確保したかった。


「そうだ!俺の居候先においでよ!そうしたらまだ安全かもしれない」

「いいの?」姉妹の声が重なる。

「家主が了承してくれたらね。どこかで電話を借りて来るから、待っていて」


そうと決まれば行動は早かった。楓は電話を借りにそこそこ大きい店に入り、藤志朗へ電話をする。事情を話せば嬉しそうに了承してくれた。

あとは見世物小屋の主を説得するだけだ。目玉である姉妹を、簡単に外泊を許すのか心配だった。しかしそこは彼女達の話術は凄かった。主に「怖いから安全な場所に避難したい」「毎日そこから通うから」と約束を取り付けて許可を得ていた。

八千代丸が迎えに来る間、楓達は小屋の中に居た。


「でも。どうして俺のこと信頼してくれるの?今日初めて会ったばかりなのに。不審者だって思わないの?」


楓が聞くと、姉妹はクスクスと笑顔になる。


「どうしてだろう。お兄さんに親近感が湧いたの」

「私達、藤緒と董子って名前は芸名でね、本当の名前はアイリとユキナっていうの。ちょっと変わった名前でしょう?」


その名前はまるで、現代の名前だった。


「見て。このちっちゃい指輪のネックレス。ここに名前が彫ってあるの。きっと実母からの最初で最後の贈り物よ」

「私達、民家の家に捨てられていたんだって。結合していたから、君が悪いって理由でここに売られたの」


見せられたネックレスは、明らかにベビーリングと解るものだった。

姉妹は…楓と同じ、現代からタイムトラベルで大正咲へ来た女の子達だ。そう思いたかった。


「ッ…俺を信じてくれてありがとう」


自分だけじゃあないと知れた。だが、それと同時に彼女達は帰れずに今もこうして働いている。



「お待たせしました、楓様」

「八千代丸、ありがとう。向かって右が藤緒ちゃん。左が董子ちゃん」

「初めまして。八千代丸と申します。お屋敷で困ったことがありましたら私にお申し付けくださいませ」

「すごい!ロボットを間近で見たの初めて!」

「本当にロボットなの?」

「本物のロボットですよ」


きっと、表情があったら八千代丸は笑顔なのだろう。そんな声色をしている。

運転席に八千代丸、助席に楓。後ろに藤緒と董子が乗り込む。


「今日も安全運転でお願いします」

「ハイ」


運転しだして、見世物小屋が小さくなっていく。

これで目撃者をかくまうことが出来る。そう安心した時だった。

何が起きたか解らなかった。刃物が、刀が屋根を貫通し八千代丸を指していた。


「八千代丸!」

「きゃー!」


車内が一気にパニックになる。刀が引っこ抜かれると、車が停車する。そして目の前には、姉妹が言っていた黒髪でない…金髪の、髪を結った男が刀を片手に持ち立っていた。


「か、えでさ、あ、にげて」

「待って、あの人なの!仲間を殺したのは!」


藤緒の記憶が男の顔と合致する。あの夜、仲間を殺したのは、この男で間違いない。


「二人はここで待っていて!」


楓は迷わず外へ出て、男と対峙する。こっちは無防備だ。刀で切られたらひとたまりもない。


「お、お前が一連の事件の犯人だろ!彼女達を襲うな!」

「俺が狙っていたのはお前だ、混血児め!」

「は?」


反論しようと口を開くが、一気に距離を詰められる。気づいたら目の前にいた。刀は、首目掛けて斬ろうと迫っている。


(死ぬ?!)

「新田!」


パン!と発砲音がする。すると男は猫のように民家の塀に乗り、屋根へと移り逃げていく。

振り向くと、警官複数名と雅比古がいた。


「追いかけろ!」

「はい!」


警官が男の後を追い駆けて行く。残された楓達は、突然の出来事に脳が付いていけていなかった。


「大丈夫か?」

「久世さん、なんでここに?」

「藤志朗から護衛を頼まれていたから迎えに来た途中だった。まさか、襲撃されているとは思わなかったがな」

「そうだ…八千代丸!藤緒ちゃん、董子ちゃん!」

「私達は大丈夫」姉妹が同時に言う。「だけど八千代丸が!」


負傷部分からバチバチと小さな火花が散る。動かない八千代丸に、最悪の結末を覚悟した。


「修理屋へ連れて行け。記憶回路が無事なら、いつも通りの八千代丸が帰って来る」

「直せるんだ…よかった」


雅比古の言葉に安堵する。


「藤志朗には俺が連絡をする。お前達は警察署へ来ると良い」

「ありがとう、久世さん。…そうだ。犯人、混血児めって言ってた!俺の事、混血だと勘違いして襲ったんだと思う」

「混血を狙っているのか…それじゃあ、筋が見えて来たな」


この一連の事件は、混血児を狙った犯行だと仮定した。そして無差別に見せるために弱者と呼ばれる者達も何故か一緒に殺害した。おそらく日本にいらないと判断されて。真の目的は解らないが、大方狙いは解った。


「またお前を襲ってくるかもしれないぞ」

「俺は囮になれる男ですよ。それに、助けてくれますよね?いざとなれば」

「よく言う」


面倒臭そうに言うが、表情はどこか柔和な雅比古がそこにはいた。

八千代丸は修理に暫くかかるらしい。

警察署に駆けつけた藤志朗は八千代丸の件と、楓達が襲われた件で少々動揺している様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻した。


「楓が襲われたことに理由がある。それに。今回はバッチリと顔を見られた以上、彼女達もいつ被害に遭うか解らない。と、言うことで雅比古。お前もしばし同居するといい」

「どうしてそんな考えに辿り着くんだ…」


警察のコネをこれでもかと使いたい藤志朗の考えだった。



原作・ぱるこμ。原案・PaletteΔ

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