9.本当の演説の天才はあなたですよ。
「サイラス様、私、レイモンド様に昨夜かなり失礼な言動をしてしまいました。今から謝罪にいこうと思っております」
「イザベラ、彼はあなたに申し訳ないことをした。イザベラが魅惑的すぎて我を失ったと謝罪していました。ルイ国からの輸入品の関税を1年撤廃するのは謝罪の気持ちだそうです。私は、イザベラを心配しています。我を失った彼に何かされませんでしたか?彼はとても優秀な方なのですが、女性が好きすぎるという弱点を持っています。正直、魅力的なイザベラを前に大人しくしている彼を想像できません。ライ国と部屋を離すことに気を取られ、猛獣の近くにイザベラを置き去りにしたようで申し訳ございませんでした」
「特に何もされていません。彼は優秀な方だったのですね、よく知らないのに弟君に地位を譲るよう言ったりとんでもない発言をしました。やはり、謝罪のお手紙だけでも渡したいと思います」
そもそも、レイモンド様があれほど失礼な態度をとった私に会おうと思ってくださるか自信がない。
「イザベラ、彼に手紙は禁止です。彼は基本、全ての女性は自分に気があると思っています。彼に手紙を出したら、今までのやり取りは全て駆け引きで自分に気があると考えるのが彼です。それにしても、レイモンド王太子殿下ではなくイザベラにもう名前を呼ばせるなんて彼は人の心を掴む天才ですね」
サイラス様に私の気持ちを疑われるのは絶対嫌だと思い私は慌てて否定した。
「レイモンド様に心など掴まれていませんよ。私の心を掴んでいるのはサイラス様だけです。ただ、レイモンドと呼ぶように言われたので、立場上従うべきかと思っただけです。確かにレイモンド様の演説は大衆の心を掴んでいましたね。私はまた空気も読まず場違いなことを皆さんの前で話してしまった気がします。レイモンド様はルブリス王子と同じで自由な方ですね。一見場違いな演説なのに、彼はそこにいる人を掌握していました」
「彼が自由なのは女性関係だけですよ。彼は非常に場の空気を読むのがうまくて、完全に計算した上であの演説をしています。我が国のピンチに援軍を送ると発言したのもも、サム国の侵略を狙う隣国であるアツ国を牽制するための言動です。軍事力で抜きに出ているサム国とルイ国に協力されたら、アツ国は完全に敗北するであろうサム国の侵略戦争を諦めます」
確かにレイモンド様は女好きだと言っていたが、本当に女性が好きなのだろうか。
彼はアツ国のお姫様を不細工と言ったり、女性をお古と言ったり、女性を商品のようみ見ている感じがしてあまり良い気分はしなかった。
「完全に計算し尽くされた演説だったのですね。軽快な感じで話すので、そのような印象を受けませんでした。ララアが彼を演説の天才だと言っていましたが、その通りですね」
彼の軽快な話ぶりから、思いつくまま私をネタにして気を引きながら話しているのかと思っていた。
私が原稿を読む自信がなくて、思いつくままに言葉を紡ぐしかないからって原稿を用意しない彼も同じだと考えてしまった。
「本当の演説の天才はあなたですよ、イザベラ。あなたは全く計算せず、思いのままを伝えています。多くの大衆があなたの言葉に涙をしていたのに気が付きませんでしたか?イザベラが話し出すと一語一句漏らしてはいけないと、皆が聞き入ります。そして、心からのあなたの言葉は皆の心を動かすのです。ルイ国の国民はイザベラに是非自分の国に来てほしいと思うあまり、「イザベラ王妃万歳」とまで大合唱していました。私と結婚する気が全くないと言うのも私は心からの言葉と受け取り、傷つきました。それに私と目があったら逸らすのに、ルブリス王子を見て微笑んでいたのでショックでした」
サイラス様はそう言うと私をふわふわなソファーに座らせ、私の太ももに頭を置いてきた。
膝枕は前に彼にしてもらったと思うが、膝枕をするのははじめてで緊張してきてしまう。
「サイラス様、申し訳ございません。あなたを傷つける気はなかったのです。サイラス様と釣り合っていない自分や周囲からどう思われているかを考えすぎてしまい目が合わせられませんでした。ルブリス王子殿下が退屈そうに眠そうにしていたので、私のベットを奪って寝たのにまだ眠いのかと笑ってしまったのです」
「イザベラ、私がこれほどあなただけを求めているのに、釣り合ってないなどと言わないでください。あなたは私にとって唯一無二の存在です。ライ国を私が去るとき私と結婚したいと言ってくれたのに、結婚する気が全くないという考えにイザベラの気持ちが変わってしまったのは何が悪かったのでしょうか。どうしたらイザベラの気持ちを取り戻せるのでしょうか」
取り戻すも何も私は出会ってからずっとサイラス様に夢中で、日に日に気持ちを深めている。
気持ちが深まり、周りが見えてくる程に自分とは釣り合わない夢のような存在の彼を遠くに感じてしまっているだけだ。
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