8.結婚したいとは全く思っておりません。
「皆様、ただいまご紹介に預かりました。イザベラ・ライトと申します。サイラス国王陛下、この度はおめでとうございます」
壇上に上がり私がサイラス様に笑いかけると、彼が笑顔で返してくれた。
私は無敵の力を彼からもらったような気になってくる。
1万人以上もいそうな大衆の視線も全く気にならない。
「何だか信じられないようなお褒めの言葉を頂いていましたが全てはネタでしょう。そして、私は自分がライ国の代表という意識は全く持っていません。自分がルイ国の次期王妃に相応しいとも全く思いません。私はただサイラス国王陛下を愛しているだけです。願わくばお忙しい陛下が、たまに眺めて心を癒されている木になりたいと思います。しかし、私は未熟ながらも人間の形を保っています。なのでこれより私はサイラス国陛下を愛するものとして、陛下の心を察し、陛下の愛するルイ国のことを第一に考え、陛下のために生きることを誓います」
私の言葉に周りから歓声があがる。
人にどう思われているか気にし過ぎてはいけないと分かっていても、私がサイラス様のことを好きだという気持ちを疑われるのは嫌だ。
「恋に盲目な私は自分の出身国のことなど忘れて、陛下に夢中です。陛下の愛するルイ国のことを考えると、全ての地下資源の輸入をライ国に頼っている状態に疑義を唱えたくなります。2つの国が兄弟のように仲が良いのはとても素晴らしいことです。でも距離が近すぎたり、仲が良すぎるあまり大喧嘩になりそうになったこともありましたよね。地下資源を他の国からも輸入してはどうでしょう。せっかくだから、他の友達も作りましょう。このような議論を私がルイ国に留学している時にアカデミーの3年生がしていました。各国のバランス関係を理解し国のことを自分ごとと捉え、闊達な議論をする先輩方に圧倒されたのを覚えています。彼らは未来に渡り私の愛するサイラス国王陛下を支える臣下たちです。ルイ国の人材は素晴らしいです。私がサイラス国王陛下に再び会いたかったからだけではなく、ルイ国の心温かく素晴らしい方々とも再会したかったということを信じてくださいね。最後に、サイラス国王陛下、私は陛下と結婚したいとは全く思っておりません。一生側にいさせてくれて、陛下のお役に立てれば私にとってはこれ以上ない幸せです」
私はできるだけサイラス様の側に置いて良いと思われる女性に見えるように、優雅にお辞儀をすると壇上を降りた。
「イザベラ王妃万歳!」
突然、大きな声で言われた言葉にギョッとする。
また、私はネタにされているのだろうか。
「イザベラ王妃万歳! イザベラ王妃万歳!」
私は今日から王妃の仕事を代理として行うとは聞いていたが、王妃ではない。
何だかよくわからないけれど、みんなが私のことを注目しているのが恥ずかしくなり少し足早に席に着いた。
「感動した。なんて、ロマンチックで素敵な告白なの。イザベラは天才的に素敵だわ」
席に戻ると隣のララアが人目を気にしつつも涙を流していた。
「私がサイラス様を愛していることが伝わりましたでしょうか?」
私がハンカチを渡しながらララアに言うと、ララアは沢山頷いてくれた。
式典が終わり、一度部屋に戻る。
今日は夜には舞踏会もあるのだ。
ベットに寝転がり休みたいが、ドレスも髪も崩れてしまうのでできないのが悲しい。
トントン!
扉をノックする音が聞こえて緊張する。
「イザベラ、私です。」
サイラス様の声が聞こえて、私は嬉しくなり扉を開けた。
扉を閉めるなり、サイラス様に頭を抱えられて大人の口づけをされる。
私が彼にこの口づけをされるのは2度目だが、全く慣れていない。
膝がガクガクして立っていられなくなり、必死に彼の首に手を回ししがみつく。
長い口づけが終わり唇が離れると、私を愛おしそうに眺めるサイラス様の美しい青い瞳がそこにあった。
「イザベラ、申し訳ございません。我慢ができなくなってしまいました。髪型を乱してしまったので、今メイドを呼びますね。」
「メイドは呼ばなくて大丈夫です。髪のセットは得意なので自分で直せます。それよりもサイラス様は今日はお忙しいですよね。私には構わず、少しでも休んでください。」
髪のセットは得意なので、私は鏡の前にいき一度髪の毛を解いて先ほどの髪のセットを再現した。
中学の時、不登校になり将来を悲観した。
手に職をつけて美容師になれば、社会に戻れるかもしれないと家で自分で髪をカットしたりセットしたりした。
現実的に人とまともにコミュニケーションを取れない自分がつける仕事ではないと分かっていた。
しかし、何かやっている間は、将来への不安や闇に囚われずに済んだからだ。
「イザベラに癒されたくてここに来たのです。追い出さないでください。それにしてもイザベラは刺繍にしても、髪のセットにしても手先が非常に器用ですね。」
サイラス様が褒めてくれた言葉に嬉しくなる。
「私、元、自宅警備員ですから。」
「今度は王宮で私の警備をしてください。結婚する気がないなんて言わないでください。私はイザベラを早く自分のものにしたくて仕方がないのです。」
サイラス様が私をまた抱きしめてくれたので、その温もりを独り占めしたくて私は彼を抱きしめ返した。
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