4.私の目がどこにあるか分かるのですか?
真夜中に声が聞こえて目が覚める。
「男に貞操観念を求める我が国がおかしいのですよ。結婚した途端、他の女性を抱いたらいけないのですよ。生物的に無理を強いていることを全く理解できていない。どれだけ仕事をしっかりしていても、不倫をしただの言われて要職を解かれる貴族を何人見てきたことか。ライ国は一夫多妻制で羨ましいです。我が国も私が国王になったら、速攻一夫多妻制にします」
会話の内容から話しているのはサム国の王太子とライ国の人間だ。
サム国は一夫一妻制な上に、男性に貞操観念を求める。
それゆえに、サム国は女性に優しい国と思われていて優秀な女性を集められている。
他国に比べてサム国は地の利にも優位だが、優秀な女性の活躍よりサム国が世界一裕福な国とも言われているまでになったのに彼は分かっていないのだろうか。
サム国が一夫多妻制になってしまったら、せっかく1人の男性から愛されることを夢見て移民した女性はがっかりしてしまう。
私は彼の話し相手のライ国の人間も気になって、そっと扉を少しだけ開けて廊下を覗いた。
「赤い髪に黄金の瞳の美女、あなたはサイラス様の婚約者のイザベラ・ライト公爵令嬢ですね。聞いていた以上ではないですか」
私が少しだけ扉を開けたつもりが、サム国の王太子殿下と目が会ってしまった。
私は肖像画と照らし合わせ招待客の名前を覚えていたので彼が誰だかわかった。
黒髪に海色の瞳の彼はサム国の王太子レイモンド・サムだ。
サム国の王族の瞳は海色の瞳と言われる、青色なのだがサム国が海上貿易が盛んなことを示すように王族の瞳を海色と言うそうだ。
「それでは、僕はこれで失礼します」
私を一瞥すると去っていったのはエドワード王子だった。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、あなたと話してみたかったんです」
ずんずんとレイモンド王太子殿下が近づいてくるのが怖くて仕方がない。
私は慌てて扉を閉めようとした。
「あの寝巻きなのでこれで失礼します」
「ふふ、大胆な誘い方ですね。私があなたの部屋に参りますよ」
閉めようとした扉に、彼の足が挟まってしまい扉が閉められない。
「な、何をおっしゃっているのですか? こちらに来ないでください」
「痛いです。イザベラ様、私を扉に挟まないで下さい」
レイモンド王太子は何故か、私の部屋に入ってこようとするが絶対に阻止したい。
彼と部屋に2人きりになるのが、私は怖くて仕方がないのだ。
断固として部屋に入れる訳にはいかない。
「すみません。でも、入らないでください。聞き耳を立ててた訳ではありません。声が聞こえたので誰が話しているか気になってしまったのです。会話のお邪魔をして申し訳ございませんでした」
「では、廊下で私を立たせてないで、お部屋で丁寧に謝罪をしてください」
彼はサム国は代表として招かれていて、大切なサイラス様のお客様だ。
彼に失礼があるとサイラス様に迷惑がかかるので、私はひとまず彼の言うことを聞くことにした。
「あの近づかないでください。私の個人的なことで申し訳ないのですが、黒髪の人が怖いのです」
レイモンド王太子は現在18歳だ。
背が高くて威圧感があり、なんだか怖い。
「もしかして、それで黒髪のルブリス王子を振りましたか? 私の知っているルブリス王子殿下は権力のバランスを考えたりする方ではありませんでした。イザベラ様のような美女を手放すなんて男としては考えられません。あなたはどんなことを言って彼からサイラス王太子に乗り換えたのでしょうか?確かに、サイラス王太子殿下は私と良い勝負ができるくらい良い男ですよね」
レイモンド王太子殿下の自信満々の発言に驚いてしまう。
サム国もかつてのライ国のように王位は長子が相続することになっている。
生まれながらの次期国王として育てられると、これ程自由で自信家になってしまうのだろうか。
私はルブリス王子に絶望の中で死んだ綾を見ていたが、彼の本質は綾ではなくレイモンド王太子に近い気がする。
「私を前にして他の男のことを考える女性がいるのですね。それよりも、聞いていた以上で驚きました」
レイモンド王太子殿下が私の胸のあたりを見ながら話してくるのが不快だった。
私は前世で綾だった時に中学時代の給食残飯処理のいじめで豚のように太った。
不登校になり引きこもった後はトラウマで食事が食べられなくなった。
通信制高校を出て、やっと地元から東京に出て大学に通い出すと男子学生が胸を見ながら話しかけてきた。
太ってた時代の脂肪が胸だけ残って、他が痩せていたので目に入ったのだろう。
「目を見て話してくれませんか?」と私が恐る恐る言った言葉に、「目が小さすぎどこにあるか分からないんだよ、ブス。」と怒られた記憶が蘇る。
♢♢♢
「私の目を見て話してはくれませんか?レイモンド王太子殿下。」
「ドキッとするようなことを言ってきますね。あなたの黄金の瞳は確かに美しい。私のことはレイモンドと呼んでください」
「私の目がどこにあるのか分かるのですか?」
パニックになり思わず私が言った言葉に、レイモンド王太子殿下は驚いた顔をした。
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