28.彼女には彼が必要だ。
「あなたはアツ国の次期女王に対しての態度がなっていません。下がってください。当たり前のように僕たちについてきて入室して来ましたが、ここはルイ国の次期王妃になられるイザベラ様の自室です。あなたは国家のことに関して、問題があるかどうか発言する立場にもありません。どうぞ、部屋を退出してください」
エドワード王子殿下の言葉に使いの人は退出していった。
「アザのある醜い王女として縁談など来なかったのに、女王になると分かった途端、権力欲しさに縁談が舞い込んでくるのですね。私には何の力もないので、夫になれば王権を欲しいままにできると思われているのでしょう」
震える声で言うビアンカ様の手を握る。
「ビアンカ様、ご自分に政治をする力があることを見せつけて縁談を断りましょう。そして女王になったら、今までのカルロス卿の功績を讃え伯爵位を授けるように持っていき彼と結婚すれば良いと思います。愛する人が側にいれば不安な時も頑張れると思うのです。私もルイ国の次期王妃としてできる限り、ビアンカ様を支えて行きます。まずは、ルイ国が地下資源をライ国からだけでなくアツ国からも輸入することをビアンカ様の交渉により獲得したということにしましょう。サイラス国王陛下はライ国の資源に依存した体制を変えるとおっしゃっていました。それから、アツ国の国内がバタバタするとサム国がアツ国を狙ってくると思います。サム国はルイ国との軍事同盟を結ぶとレイモンド様がおっしゃっていましたが、それを拡大してサム国とルイ国とアツ国とライ国で向こう10年は戦争をしないといった平和同盟を結んではいかがでしょうか」
初めてできた友達を助けなければと思うと、私は王妃になるのも全く怖くなくなってきた。
彼女の為にできることは何でもしてあげたいと思った。
「イザベラ様、すみません。唐突に登場したカルロス卿とはどなたですか?」
エドワード王子の言葉に、私は勝手にビアンカ様の想い人を口走ってしまったことに焦ってしまう。
彼の正体が弟の優太だからと言って、私は完全に油断してしまった。
「エドワード王子、カルロス卿は私の想い人です。カルロスと結ばれるなら夢のようですが、イザベラ様のおっしゃるような平和同盟のようなものを結ぶことは可能なのでしょうか?もしそのようなことが出来れば、国内情勢の不安定なアツ国にはありがたいことです。しかし、同盟を結ぶことによる他国のメリットが思い浮かびません」
カルロス卿の名前が出た途端、気持ちに落ち着きを取り戻したビアンカ様を見て彼女には彼が必要だと思った。
「平和同盟に関しましては、ライ国にもメリットがあります。ただ、サム国には全くメリットがないことなので応じてくれるか分かりません。ビアンカ様が今日にもアツ国に戻らなければならないのなら、その前にルイ国で各国の要人が揃った場で平和同盟を結んだ方が良いでしょう。4ヶ国の要人が揃う機会はそんなにありません」
エドワード王子が、私の無理があるような提案をについて何とかしようと知恵を出してくれる。
彼がとても頼りになることは私が誰よりも知っている。
「サイラス国王陛下とサム国のレイモンド王太子を呼んで、4ヶ国の会談を行いましょう。平和同盟を結ぶようレイモンド王太子を何とか言いくるめるのです。ライ国も10年は侵略の危機に晒されないのは、ルイ国の資源の輸入を独占していることにも勝るとも劣らないメリットだと思います。エドワード王子殿下がこの平和同盟の調印に加わり、確実に立太子できるようにしましょう。ルブリス王子には1度席を外したら、2度と席はないという世の中の厳しさを思い知らせるのです」
私はルブリス王子のことを何も知らなかった。
彼は次期国王として育てられながら、全く国をどうしたいとか考えないふざけた男だったのだ。
そのような男を支援して、エドワード王子の努力を踏み躙ってしまうところだった。
そしてルブリス王子の価値観は私とは全く異なるので、彼が次に何を言い出すか怖くて仕方がない。
彼は気まぐれに、やっぱり王太子になりたいとか言い出しかねない。
今のうちにエドワード王子の地位を固めておく必要がある。
「イザベラ様、兄上に何かされたのですか?」
エドワード王子が心配そうに尋ねてくる。
ルブリス王子に何かされたと言えば、急に押し倒されたことくらいだろうか。
サイラス様の姿を見て力が宿ったことで、強いキックを出せてルブリス王子を撃退できたから問題はない。
「ご心配には及びません。ただ、ルブリス王子殿下の振る舞いにもう振り回されたくないだけです⋯⋯」
一方的な気持ちを押し付けて、押し倒してきたルブリス王子がやはり許せない。
王子だから何をやっても良いとでも勘違いしているのではなかろうか。
私の感覚だと同意のないそういった行為は犯罪に等しい。
私はルブリス王子殿下が何に悩んでいるのかいつも考えてきた。
そして、私が好きなのはサイラス様だと彼に伝えてきた。
しかし、ルブリス王子にとって大切なのは自分の気持ちだけで、私の気持ちも、彼の存在に悩む弟の気持ちも興味の対象ではないのだ。
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