27.突然の知らせ。
「イザベラ様、ビアンカ王女、宜しければこちらのデザートを食べませんか? とてもおいしいですよ」
エドワード王子が微笑みながら私たちに差し出してきたケーキには、私の好きな苺がのっていた。
「ありがとうございます。エドワード王子殿下。私は苺が大好きなんです。そういえば、ライ国に戻ったら立太子されると聞きました。おめでとうございます」
私は今朝サイラス様からエドワード王子が、レイラ王女を大切にするということと国に戻ったら立太子することを聞いていた。
「ありがとうございます。兄上の気まぐれの発言による棚ぼた立太子ですけどね」
エドワード王子が笑顔で謙遜したような言葉を吐くと、ビアンカ様が微笑みながら言った。
「エドワード王子殿下は謙虚な方なのですね。殿下は、とても優秀だと兄より聞いていました。殿下が国王になるならばライ国は安泰ですね」
彼女の言葉に思わず私とエドワード王子は顔を見合わせた。
優太は傲慢な性格ではないが、決して謙虚でもない。
昨日はビアンカ様を簡単に落とせるようなことまで言っていた。
「ビアンカ王女、失礼します。即刻、アツ国にお戻りください。ルドルフ王子殿下がレオ国で逮捕されました。レオ国のルイス王太子の婚約者であるシュガー公爵令嬢を一方的に追いかけたという罪状だそうです。国王陛下が交渉して、レオ国からルドルフ様の身柄はアツ国に渡っています。しかし、王子妃のビアンカ様のご実家のスリ公爵家が殿下との離縁と王家への支援を止めることを宣言しました。ルドルフ様は、スリ公爵の要望に従い廃嫡になりました。来月、王位につく予定だったルドルフ様の代わりにビアンカ王女が王位につくことになりました」
突然、やってきたアツ国の使いの人の言葉に驚いて絶句する。
確かにアツ国のスリ公爵家というのは、アツ国以上に歴史の長い力のある公爵家と聞いていた。
しかし、王家がすぐに公爵家の要望を聞き王子を廃嫡にしなければいけない程の力を持つとは思ってもみなかった。
レオ国はいわゆるストーカー規制法的なものが存在するらしい。
ルイ国とレオ国は距離もあり国交がないので、今回の招待客のリストにもなかった。
「場所を移しましょう。それと使いに過ぎないあなたは、どうして次期女王になられる方へそのような横柄な態度なのですか?態度を改めてください。そして、このように誰が聞かれるか分からない場所で、不用意に国の危機を知らせるべきではないです」
エドワード王子殿下の言葉にその通りだと思った。
ビアンカ様のか弱そうな雰囲気に甘えているのか、使いの人はどこか偉そうだった。
そして彼のいう通り、このような場でする話でもない。
私は勝手に優しい優太はいなくなったと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
エドワード王子の中に、優太らしい人の心の機微に敏感で気遣いができる優しい心があることをを感じた。
場所を移して私の部屋で話すことになった。
声を出そうとすると咳き込み、常に酸素が足りなさそうな状態にビアンカ様があったからだ。
前世で優太は私がこのような状態に陥る場面を何度も見ていて、この症状が極度のストレス状態によるものだと分かっているのだろう。
ビアンカ様を安心させようと仕切りに声をかけている。
「兄は生まれた時から3つ年上のスリ公爵家の一人娘のビアンカ様と結婚することが決まってました。2人は全く気が合いませんでした。しかしスリ公爵家と王家の関係を考えると必要な婚約だったので、当人達の気持ちは関係なく婚約関係は続きました。スリ公爵家はアツ国にとって、王家と同等ともいえる力を持つ伝統的な公爵家です。結局、2人は結婚しましたが、兄には唯一恋をした人がいました。アカデミー卒業後、世界を旅する中で立ち寄ったレオ国で会ったシュガー公爵令嬢です。彼女は次期レオ国の国王陛下の婚約者で、兄は結婚前も一度彼女に会いにいき、彼女への接近結婚禁止命令を出されていました。しかし、兄は結婚しても空虚な夫婦生活を送る中で、シュガー公爵令嬢を忘れられかったのでしょう。元々は、サイラス国王陛下の戴冠式には兄が出席予定でしたが、兄が体調が悪いと言っていたので代わりに私がルイ国にきたのです。まさか、レオ国のシュガー公爵令嬢に会いに行っているとは夢にも思いませんでした。スリ公爵家に見放されてはアツ国は終わってしまいます。アツ国は直系しか王位を継げません。若くして亡くなった母を思い父は側室をとりませんでした。兄が廃嫡になっては、私が王位を継ぐしかありませんが私にはその資質もありません」
私が震えて咳き込むのを耐えながら話す彼女の背中を撫でていると、私たちについて来た使いの人が口を開いた。
「問題ありません、ビアンカ王女。モリータ公爵家、センタ侯爵家もビアンカ王女とご子息を結婚させたいとおっしゃっています。ビアンカ王女もご存知の通り、女王は夫を複数取れます。有力貴族と婚姻関係を結び地位を固め、夫の力を借りながら国政に取り組めば良いでしょう」
使いの人の言葉を聞いてビアンカ王女はますます震え出してしまった。
夫を複数取るなど、自分に置き換えて考えてもゾッとする。
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