26.彼の立てた武勲。
今日は、立食のランチがあり、私はさっそく仲良くなったビアンカ様とおしゃべりをしていた。
「昨夜は、サイラス国王陛下と、お2人で過ごしていたのですか?」
ビアンカ様は私が昨日倒れたことを知らなくて、ライアン王子の結婚式の間、私とサイラス様は主役を目立たせるために退場したと思っているようだった。
そう大衆に思わせることで、凍えて失神した後で動きずらい私の不在を隠すようにすると言っていたがその通りになっていてホッとする。
本来ならば弟の結婚式に参列したかっただろうサイラス様に、またしても迷惑をかけてしまった。
「はい。色々とお話ししていました⋯⋯」
私は昨日ベッドに寝転んでサイラス様と話をしていたことを思い出し、少し気恥ずかしくなった。
「ふふ、羨ましいです。実は私、昨夜カルロスに告白したんです。正直、なかなか勇気が出なかったのですが、昨夜の結婚式があまりに素敵で自分が彼と結婚する未来はないと分かっていても思わず想いを伝えました」
「あの、もしかして、あちらの騎士の方ですか?何だか優しそうで、可愛らしい方ですね」
遠くから、頬を染めながらひたすらにビアンカ様の様子を伺う騎士の方が見えた。
男性のことを可愛らしいと言ってしまって、私は自分が空気の読めない発言をしたのではないかと心配になった。
ビアンカ様が微笑んでくれたので、ホッとする。
「違うんです。昨日私が告白したら、可愛らしい人になってしまったのです。本来は無口で無愛想で剣術にひたすらに励んでいる方なのですよ。私が愛の告白したら顔を真っ赤にして、そのような大それたことは期待してませんでしたと震える声で言って逃げてしまいました。もう少し近くに来てくれないと護衛にならないと思うんですがね」
何だか微笑ましいやりとりに思わず笑顔になる。
まるで、友達と恋バナをしているようで初めての経験にフワフワする。
「それは、両思いなのではないですか?明らかに、彼、ビアンカ様から想われていることを期待していましたよね。自分で思わず言ってしまうなんて正直で素敵な方ですね」
「私も私たちは両思いだと確信しました。カルロスを好きになったきっかけは、私と王子妃である義理の姉が専属の護衛騎士を選出する目的で開かれた剣術大会です。私には年の離れたルドルフという兄がいるのですが、兄の妻の名前もビアンカなんです。騎士たちが大会の準備をしているのを覗いた時、「王子妃である美しい方のビアンカ・アツ」の護衛に選ばれたいと話しているのを聞いてしまいました。私は悲しくなり、誰も護衛騎士に選びたくないと思いました。この中から護衛騎士を選ぶくらいなら、奇襲攻撃にでもあい死んでしまいたいとさえ考えました。その時、カルロスだけが目を閉じて話の輪に加わっていなかったことに気がついたのです。その後、大会が始まって彼は周りを圧倒する剣術を見せてくれました。勝利をする度に私の方を見ている気がして、何度も目があったのです。気がつくと、私は彼を専属の護衛騎士に指名していました」
彼女がカルロス卿を好きになった経緯を打ち明けてくれた。
そして、私は彼女の気持ちが痛いほど理解できた。
私も前世の中学で同じ名前の子がいて「豚の方の綾」と言われて傷ついた。
「身分の違いがあって彼と結ばれる未来はないとおっしゃってましたが、本当に難しいのでしょうか。ビアンカ様には愛する方と結ばれて欲しいです」
「王族は伯爵以上の爵位を持つ方としか結婚できないのです。彼は子爵なので難しいです。武勲を立てれば伯爵位になることは可能かもしれません。それにしても私が18歳というこの年まで婚約者もいないのは、生まれながらの額のアザのお陰です。このアザがなければ、10歳くらいで政略的に婚約させられています。婚約をしていたらカルロスに告白することも許されなかったと思うと、このアザががあって良かったと今では思います。性格的に彼も私も周りに迷惑をかけるような駆け落ちみたいなことはできません。だから、想いが通じ合えただけで満足しなければなりませんね。アザのおかげで私には縁談がなかなか来ないので、彼を想い続けることができます」
私はふと私に駆け落ちのようなことをするように持ちかけた、ルブリス王子を思い出した。
駆け落ちというのは自分の想いを優先はするが、周りに迷惑をかける行為だ。
自分の想いに正直に生きるというのはカッコよく聞こえるが、側から見れば自分勝手にもみえる。
それをできないというビアンカ様の価値観の方が私には理解しやすい。
「カルロス卿はビアンカ様が死んでしまいたいとさえ考えた時に、光のように現れた方ですよね。ビアンカ様の心を救ったことは武勲にはならないのでしょうか?」
私の言葉にビアンカ様が驚いたような顔になる。
「本当にその通りです。やはり、カルロスを諦められません。アツ国に戻ったら父にこの想いを打ち明けてみようと思います」
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