22.彼のこんな顔を見たのは初めてだ。(エドワード視点)
「サイラス王子殿下、初めまして、エドワード・ライです」
アカデミーを見学中という11歳のサイラス王子に会いに行った。
「エドワード王子、初めまして。あなたの噂はよく聞いてますよ。紹介します。妹のララアとレイラです」
彼の2人の妹は俺を見た瞬間、目を輝かせた。
エドワード・ライは金髪に翡翠色の瞳をしていて、まるで童話から出てきた王子のような見た目をしている。
特に何もしなくても、勝手に惚れてくれそうで安心した。
「エドワード王子、握手してください」
明らかにララア・ルイはがっつり俺に一目惚れをしていて、震える手を俺に出してきた。
一方、レイラの方は最初こそ目を輝かせて俺を見ていたが、その後は一歩引いて観察している。
正直、父上からのミッションが、王女のどちらかを惚れさせろとのことだったのでララアを惚れさせたから任務完了だろう。
「エドワード王子、あなたは今の状況に満足していますか? 私があなたならば、国を捨てて自分の能力を試しにいきますね。仕える君主を選ぶ権利はあるでしょう」
2人の王女と俺しかいないからと言って、危険なことを言ってくるサイラス王子の顔を思わず見てしまった。
微笑みながら言ってくる彼は美しくて、男の俺でも見惚れてしまう。
そして、なんとなく特に悪意があって言っていないのが分かった。
「私は、ライ国のエドワード・ライですから」
ルブリスの臣下になるくらいなら、いっそ国を捨ててしまいたいと本当は思っているが本心は明かせない。
「他国の王女を妻にすれば、流石に長子相続のルールもひっくり返るのではないですか?」
レイラが顔色を変えずに、他国の伝統のルールについて口を出してきた。
ララアは自分と俺が結ばれるのを想像したのか、顔をますます赤くしている。
「王位の長子相続はライ国の建国以来の伝統的なルールです。僕はそれに従い兄に仕えるだけです」
俺は誰が聞いているかもわからない場所で滅多な会話はできないので、無難に応えた。
「あまりに純粋そうなエドワード王子を見て、唆したくなりました。まるで宰相経験者のような頭脳をお持ちなのに、子供の相手をするボランティア精神をお持ちなのですね」
サイラス王子が俺の能力をかなり高く評価してくれているのが嬉しかった。
父とは違い最終的に国王にもなれない俺の能力を見てくれる彼を尊敬した。
ルブリスが彼のように人の気持ちを汲み取れるような人間なら、こんなにイライラはしないのに。
子供の相手とはルブリスの相手のことだろう。
彼さえいなければ、この世界は最高だったのに。
♢♢♢
イザベラ様になった姉ちゃんが気絶してはじめて、自分の状態も危ないことに気がついた。
氷点下の猛吹雪の中外にいた経験もなかった上に、イザベラ様が姉ちゃんだったという衝撃で寒さを忘れて思いをぶちまけていた。
どうしてもっと早くにイザベラ様の正体に気がつけなかったのだろう。
自分を大衆の前で侮辱してきたルブリスの支援を始めた時点で、そのような馬鹿なことをしてしまうのは世界に姉ちゃんくらいだと気がつけばよかった。
前世でも白川愛に散々虐められているのに、彼女を友達と信じてしまって、ありもしない彼女の良心に期待し続けた。
姉ちゃんだったら、ルブリスに少しでも良心を感じたらピンチに陥っている彼に同情し助けてしまうだろう。
イザベラ様と踊っている時に思わず不安をぶちまけたのも、今思えば彼女に姉ちゃんを見ていたからだ。
姉ちゃんの何を言っても受け入れてくれる特有の雰囲気が、イザベラ様にもあるのを知らずに感じ取っていた。
ダンス中、王子である俺にルブリスを恥をかかせたことを叱り、他人への思いやりを諭してしまう空気の読めなさは姉ちゃんそのものだ。
王宮まであと少し、自分の体も冷え切ってしまってて手の感覚がなかった。
でも、俺は姉ちゃんを絶対に救う気持ちだけを胸に王宮まで姉ちゃんを運んだ。
王宮につくと、すぐに姉ちゃんの不在を探していただろうサイラス国王陛下が現れた。
俺から気絶して体が凍って死んだようになっている姉ちゃんを見て、サイラス国王陛下が真っ青になった。
彼のこんな顔を見たのは初めてで驚いてしまう。
「一体、何が⋯⋯」
震えるように呟いた彼に、到底通用しないような言い訳をした。
「イザベラ様が悪漢に誘拐されそうにところを、なんとか助け出しました」
はっきり言ってこの状況をどう説明して良いのか全く頭が回らない。
「イザベラを助けて頂きありがとうございます」
俺は絶対に自分の言い訳をサイラス国王陛下が信じてくれていないのが分かった。
しかし、彼にとって姉ちゃんが一番大事で、ここは騒ぎにせずおさめようとしていると理解した。
ブックマーク、評価、感想、レビューを頂けると励みになります。貴重なお時間を頂き、お読みいただいたことに感謝申し上げます。




