20.私の手柄にしてしまおうと思った。
私はサイラス様にエドワード王子が前世の弟だったことを話した。
エドワード王子は今、普通に着替えてライアン王子とエリス様の結婚式に参列しているらしい。
彼もきっと私のように体にダメージを負っているだろう。
それでも絶対そんなところを周りに悟らせようとはしないところは、私の知っている彼だ。
私が起きあがっているのが限界だと察してくれて、今、サイサス様と私はベットに寝転がって話している。
やはり吹雪の中びしょ濡れでいたことで、体が悲鳴をあげているのがわかる。
「エドワード王子がなぜ幼い時から飛び抜けて優秀だったか、やっと納得がいきました。6歳の彼と会った時、中に宰相経験者が入っているのではないかと私は疑っていたのです。はっきり言って子供らしさのかけらもなく、大人にしか見えませんでした。彼の聡明さにレイラもララアも心を奪われていたようですしね。父上なんて彼を差し置いて遊び呆けてるルブリス王子を次期国王にするなんて、ライ国は終わったなとほくそ笑んでました」
小説で子供に転生したりする話は大抵子供のフリをするのに、優太はしていなかったようで何だかそれも彼らしい。
「おそらく彼は前世の知識をフル活用して、今世でも勉学に励んでいたんだと思います。彼は元々優秀な上に、ものすごい努力家なんですよ。それにしてもルイ国とライ国は友好国なのに、常に相手の国家を侵略することを考えているのですね」
「そうですね。だから次世代はエドワード王子とレイラの連合軍を相手にするよりも、流されやすく単純なルブリス王子を相手にする方が楽です。でも、本音を言うとルブリス王子には滅んで欲しいです。流石に調子に乗るのが早すぎではないですか? 彼は卒業パーティーの記憶は失ってしまったんでしょうか。銀髪ならイザベラは自分を選んでいたように言っていた時は流石にムカつきました」
出会った時から大人っぽい彼が、ムカつくとか子供のような表現を使っているのが意外で微笑ましい。
「サイラス様でも人にムカついたりするのですか?」
「私は結構、性格が悪いですよ。イザベラが優しいので、釣り合うように優しく振る舞っているだけな部分もあります。実はレイラにイザベラの前でカッコつけ過ぎていると言われ、作戦を変更しようかと思っています。性格の悪いダメな部分を少しずつ出していこうと思いますが、嫌いにならないでくださいね」
珍しく甘えるようにいってくる彼に胸がキュンキュンしてしまう。
「サイラス様の素が見られるのですね。是非、性格の悪い部分を出していってください。それに私が間違った方向に進みそうな時は遠慮なく言ってください。ルブリス王子を応援したのは、絶望した彼に前世の自分を見たからでした。彼を救うことで前世の自分を救った気になっていました。でも、本当に前世の私を救ってくれたのはエドワード王子、つまり弟の優太だったんです。彼は私が死んだ後、私の死んだ経緯の真相を解明しようとしてくれてました。その上、私を苦しめた人間たちに復讐をしてくれました。その結果、彼は殺されてしまっています。私は自分を苦しめた人間が、私の死など忘れて笑って暮らしているのだろうと思うと悔しかったです。でも、綾の世界で私を苦しめた人間は弟の優太の復讐によって、しっかりと報いを受けています。彼は私の死後、1人で私のために戦ってくれていたんです。それなのに、今世で彼を私自身が追い詰めてしまいました」
私がまた泣きそうだと気づいてくれたのか、サイラス様はそっと私を胸元に抱き寄せてくれた。
彼の心臓の音が聞こえて、心が癒されていく。
「イザベラ、私はイザベラがやりたいと思ったことは何でもさせてあげたいです。流石に4ヶ月でルブリス王子とエドワード王子の形成が逆転するとは思いませんでした。参謀イザベラの手腕が凄過ぎましたね」
私の髪を撫でながら、サイラス様が褒めてくれるから嬉しい気持ちになる。
実際は、カールの優秀さに助けられ、ルブリス王子の不躾なキャラが運良く平民の心を捉えたことによるものが大きい。
だけれど、このまま彼に髪を撫で続けて欲しいから、私の手柄にしてしまおうと思った。
「何だか噂や評判というのは怖いものですね。能力も資質も劣るルブリス王子がなぜだか優勢になったりして、このままだと次期国王になるところでした」
「全てはイザベラの仕業によるものですけれどね。そして、彼、本当にイザベラの言う通り王太子の座をエドワード王子に譲りそうですね。生まれた時から次期国王として扱われてきたのに、その地位を捨てる覚悟があるところは凄いと思います。むしろイザベラを私から奪うには、その地位を捨てた方が有利だと考えてそうですね。イザベラが王妃になるのを不安に思っているところに入り込もうとしている気がします」
サイラス様の言葉に私は自分が王妃になることに、不安に感じていることが彼にバレてしまっていることに気がついた。
なんと言葉を返して良いかわからなくて、私はそっと彼に寄り添っていたらそのまま眠ってしまった。
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