2.抜け出せない幼い感情論。
「サイラス様、申し訳ございません。泊まり込みの使用人のベットでも空いていたら貸してください」
王宮に客室は沢山あるが、今は各国からの来賓でほぼ埋まっている。
突然の来客にも対応できるように、常に空室も作っていると前に言っていた。
「イザベラ、困らせるようなことを言って申し訳ございません。あなたの照れた顔を見たかったのです。でも、予想外に淡々と返されて実は私が焦っています。ずっとイザベラにときめいて貰うにはどうしたら良いのでしょうか?今日は別の部屋を用意するので、イザベラは心配しなくて大丈夫ですよ。ちなみに明日からイザベラは王妃の部屋に移動します。イザベラの部屋に行きやすくなるので楽しみです」
「サイラス様、私はいつもあなたにときめいてますよ。私が王妃様のお部屋に移動すると、王妃様はどうするのでしょうか?」
「戴冠式が終わったら、国王陛下と一緒に世界旅行に出かけるそうです。私が王太子になった時から、国王陛下は国政はほぼ引退していましたが完全引退ですね。そのためイザベラは実質明日から王妃です。」
サイラス様の言葉に急に不安になって来てしまった。
王妃になるまで、あと5年はあると思っていた。
しかし友達さえも作れない自分が王妃になどなれるのだろうか。
前に、エリス様が王妃になる方は貴族令嬢を纏めたり、流行を作れるような方が向いていると言っていた。
私は自分を相当変えなければ、そのような人間にはなれない。
「イザベラはイザベラのままで大丈夫ですよ」
サイラス様が私の頬を愛おしそうに撫でてくる。
「サイラス王太子殿下、僕はこれで失礼しますね」
カールが気を遣ったように部屋を出ていった。
私はまたサイラス様と2人きりの世界に浸ろうとしていたことが恥ずかしくなった。
「サイラス様お話ししたいことがあるのですが、ルブリス王子殿下を起こしてしまっては忍びないので場所を移動しましょう」
私の言葉にサイラス様は反応してくれて、私たちは部屋を移動する事になった。
♢♢♢
「イザベラ、今日はこの部屋を使ってください。」
サイラス様はに案内されたのは、来賓用の部屋だった。
「サイラス様、このお部屋ライ国からのお客様のお部屋から近かったりしますか?あのレイラ王女のことでご相談があるのです」
私は明日が戴冠式であるサイラス様の邪魔にならないようできるだけ早口で簡潔に話して彼に早めに部屋に戻ってもらって休んでもらおうと思った。
「両隣の部屋は予備の空き部屋ですよ。サム国からの来客の方の部屋が一番近いでしょうか。ライ国からの来賓とは離れています」
サイラス様は当たり前のように説明してくれるが、どの部屋に誰が滞在していると言うことは私も把握しておくべきことだった気がしてきた。
彼のために何もできていない気がして心が沈んでくる。
「イザベラ、相談事は何ですか。イザベラと沢山話したいです。私のことを追い出そうとしないでください。」
サイラス様が微笑みながら話してくれて、安心した。
「そんなつもりはありません。ただ、お忙しいのに今時間を頂いて良いものかと考えていただけです。」
「私にとってはイザベラとの時間が一番大事ですよ」
「ありがとうございます。先ほど、カールからライト公爵家が養女をとるという話を聞きました。マリアンヌ様という方だそうで彼女はエドワード王子の側室になるそうです。エドワード王子はライト公爵家とは距離をとっていたのに、王位につきたいが為にライ国をより良くして行こうというという目的を見失っている気がします。しかもレイラ王女は好きな人ができたら、側室をとっても良いと6年前エドワード王子に言って婚約しています。政略的なものの為に、側室をとって良いとは一言も言ってません。エドワード王子を支えてきた彼女に対して、とても失礼な話だと思うのです。レイラ王女が傷つく気がして心配なのです」
「イザベラはレイラのことが好きですね。確かにレイラはプライドが高いので、自分の能力だけでは不十分と見做されたようで傷つくかもしれません。でも、それは6年の時がありながら、エドワード王子の気持ちを得ることも彼の満足する能力を示すこともできなかったので仕方がないことではないでしょうか」
「そう言うものなのですね。王族の厳しい世界のことを理解せず、幼い感情論を語ってしまい申し訳ございません。もう一点相談しても良いですか?実はそのマリアンヌ様はカールの実姉だと言うことなのです。カールは誰よりも優しく、私にも初めて会った時から親切でした。しかし、マリアンヌ様のことを語る時の表情に嫌悪感や怯えのようなものを感じるのです。私は彼の前の家族の話を聞いたことがないので分からないのですが、彼は彼女と再び姉弟になるのを拒絶したいように感じました。カールは困ったことがあっても一度も私に助けを求めたことがありません。だけれども、今、明らかに彼は困っていて私は何とか助けられないかと考えています」
カールの見たこともない拒絶と嫌悪感と怯えのような表情が忘れられない。
彼にとって、マリアンヌ様とは関わりたくない相手なのだろう。
私にとっての白川愛が、カールにとってのマリアンヌ様ならば私は彼のために何とか彼女と距離を取らせてあげたいのだ。
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