19.あなたの弱い姿も愛おしいんです。
「イザベラ、体調は大丈夫ですか?」
ノックと共にサイラス様が部屋に入ってくる。
私はサイラス様に誤解されるのだけは嫌で、思いっきり私に覆い被さるルブリス王子の腹を蹴り彼をひきはかがした。
ルブリス王子殿下が、驚いた顔をして床に転げ落ちる。
「大丈夫です。サイラス様心配かけて申し訳ございません」
「ルブリス王子殿下、私との約束を守ってくださいね。エドワード王子に王太子の座を譲っても、エドワード王子は国王の座につくまでは4年あります。国王としてやりたいことができれば、その座を取り返せば良いだけのことです」
私は床に転げ落ちたルブリス王子に手を伸ばすと、殿下は素直に私の手を取った。
この子供のような素直さを見ると、すぐに彼の味方をしたくなってしまう。
でも、私は今度こそ優太の努力が報われる環境にしたい。
優太が望んでいるのは、努力をすれば報われるという当たり前のようで叶わなかったことだけだ。
今、権力欲に囚われている彼がどうなっていくかなんて関係ない。
私は優太の本質が優しくて、真面目な努力家だと知っている。
「イザベラが手に入る可能性が少しでもあるのなら、王太子の座なんてどうでも良い。正直、私が銀髪だったならばイザベラは私のものだった気もするしな!」
チラリとサイラス様をみながらいうルブリス王子の言葉に私はがっくりした。
確かに黒髪を見ると前世のトラウマを思い出したけれど、サイラス様が黒髪でも私は彼を好きになっていただろう。
エドワード王子がルブリス王子が絶望していたのなんて1日だけだと言っていたが、本当に彼は自信を取り戻すのが早かった。
根っこにある自己肯定感が私とは違うのだろう。
「ルブリス王子殿下、殿下は私への理解も足らない気がします。約束は守ってくださいね。私は疲れたので、今日はお暇して頂けますか?」
「どうしてサイラス国王陛下はここにいて良くて、私は帰らなければならないんだ?」
「私はサイラス国王陛下だけを愛していると言ったはずです。もう、愛する人しか受け入れられない程、疲労困憊しているのです。私が今日寒さのあまり失神したことをご存知だったのではないのですか?」
「そうだったな。ゆっくり休んでくれイザベラ。君の言う通りにするし、君の心もすぐに取り戻してみせる。」
部屋を出ていくルブリス王子をみながら、本当に私は彼をわかってなかったと再認識した。
私はルブリス王子に恋をしたことは一度もない。
だから取り戻せる心なんてないのに彼は誤解している。
「イザベラ、どうして危ないことばかりするのですか? 外に出たら危ないと伝えましたよね。それにルブリス王子を信用しすぎです。私が来なかったら、彼はあなたにどのような事をしていたかわかりませんよ」
サイラス様の美しい青い瞳が私を心配するように揺れている。
「サイラス様の言う通りです。私はサイラス様の言うことも聞かず、心配をかけてばかりですね。ルブリス王子殿下のことも完全に見誤っておりました。私は人を見る目が絶望的にないですね。もう、サイラス様の言うことだけ聞きたいです。あなたの薦める人とだけ付き合って、あなたのことを煩わせないように生きたいです」
私は彼の心配そうな顔を見るなり涙が止まらなくなった。
自分の人を見る目のなさと、感情に流されやすさが情けなくて仕方がなかった。
彼が私の涙にそっと口づけをしてくる。
「そんなことを言ったら、私以外の人は皆危険だとイザベラに教え込んでしまいますよ。そうしてイザベラが私しか見えないように囲い込んでしまいます」
サイラス様が私を怖がらせるように言ってくるから思わず笑いそうになる。
「そうしてくれると、嬉しいです。怖がらせようとしてますか? 全然、怖くないですよ」
「イザベラ、体がまだ冷たいです。本当に怖かったですね。強がらないでください。あなたの弱い姿も愛おしいんです」
サイラス様は私をふわっと暖かく包み込んでくれた。
太陽に一日照らされたお布団に包まれたように暖かい。
私は体の芯が冷え切ってしまっていて、本当は今でも震えが止まらない。
それに気がついてくれたのは、やはりサイラス様だった。
確かに今日は色々ありすぎて強がっていたかもしれない。
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